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苦くて甘い奇妙な物語。『仮面ライダーセイバー 深罪の三重奏』

以前に話した通り、『仮面ライダーセイバー』が好きである。

好きになるにはそれなりに時間はかかったものの、コロナ禍の暗く辛い時代に一心不乱にとにかく前向きに戦い続け、観ている自分にも勇気を沢山くれた仮面ライダーセイバーは最終的に歴代でもトップクラスに好きで思い入れの深い作品になった。

そして、近年のシリーズでは恒例になっているTVシリーズ終了後に制作されるVシネ作品が『セイバー』も同様に作られることになった。

予告の時点で明かされたのはTVシリーズから8年後の世界、TVシリーズから居たかのような存在感を放つ親友間宮、賢人の婚約者、などなど

そして、『仮面ライダーゴースト』のVシネ作品『仮面ライダースペクター』を作り上げた上堀内寿也監督と福田拓郎脚本という制作陣。『スペクター』は個人的に仮面ライダーのVシネ作品を1つワンステージ先に上げた作品だと思っているし、とても好きな作品なので当然楽しみでもあった。

ただ、前作『ゼロワン』のVシネ作品『滅亡迅雷』『バルカン&バルキリー』にあまり良い感情を抱けず、少しトラウマになってしまったのもあり、自分の好きな『セイバー』で同じような事をされる可能性も感じ、果たして自分の好きだった『セイバー』が壊されるかもしれないという警戒心もあり、"Vシネ"という形にも多少の抵抗感を抱いていました。

なのであまり前向きな気持ちでは無かったが、それでもやはり『セイバー』の続きを観たい気持ちは強くあったので『深罪の三重奏』を初日に鑑賞。

結果としては、とても楽しめた作品であった。自分が不安に思っていた部分もその通りになる事は無く、しっかりとファンとして楽しめた良い作品でしたね。

近年のVシネ作品のようにガッツリと本編の続きを展開する明確な続編というよりは単発の外伝エピソードのような印象の方が強かったですね。
本編との雰囲気ががらりと変わり、新たなテーマを打ち出し、監督の作家性が出てるのもあり『ビューティフル・ドリーマー』などと近いものも感じます。

本作の印象で言うと、主題歌のタイトルにもなっている通り「Bittersweet」そのままなものでありました。

上堀内監督の作家性が映像面にとにかく強く出ていて、ファンタジックで色鮮やかな印象であった本編から一転して、作中でも憩いの場としても大事な場所であったファンタジックかみやまがいきなり全焼するシーンから幕は明け、劇伴も少なく少し渇いた大人な雰囲気の画面で描かれました。

TVシリーズがとにかく「動」の印象が強かった分、今作はとにかく「静」の印象が強かったですね。

先にも言った通り、『仮面ライダーセイバー』の作品の性質としては不器用でぶつかりながらも、とても前向きで未来を切り開こうとする作品で、王道でヒーローショー的な部分が歴代でもトップクラスに強い印象。

ですが、その王道さというのは平成以降の仮面ライダーシリーズでは邪道とも言える事が出来、その直球で前向きなメッセージ性は乱暴に言えば「綺麗事」としても受け止められます。

そんな今作はその「綺麗事」にカウンターを打つような作品で、彼らのTVシリーズでの戦いの影で傷を負った者達が彼らへの復讐心が描かれました。

ヒーローものの作品ではライダー作品だとしても中々描かれる事は少なく、必ず疑問になる点です。
MCU履修をしていた際にもそういった描写が少なく疑問に思っていた為、『シビル・ウォー』でもそのような事が描かれていました。

それと同時に冒頭から次々と新要素や謎を提示しつつ、構成として、三人の物語がそれぞれ同時進行で進み、最終的にすべてが繋がり秘密が解き明かされる構成もファンタジックミステリーとして構成含めて面白かったです。
テレビ本編がファンタジックな方が強かったので、Vシネという枠を使って奇妙なミステリー色の強い作品をやるというのも、Vシネ媒体の使い方としてすきですね。

三人それぞれの物語の中で出てくるゲストキャラ達も受け入れられるか心配でしたがとても良かったです。間宮は予告でもいきなり「しっかりしろよ!飛羽真!!!今リクに必要なのはお前だ!!!お前なんだよ!!!」の台詞に代表されるよう、ぽっと出なのに完全にTVシリーズから居たかのような存在感を放っておりましたが、本当に全編通して存在感放ちまくりでしたね。

かみやまの新店舗の手助けしてたり飛羽真だけでなく賢人やSOLにも馴染みの人物になっていて、まぁそれすらも彼の策略で本当に居たかのような存在にわざとなっていたのですが。

陸くんは演じている子の演技力に見惚れてしまいましたね。言葉を話せない中感情の動きを言葉以外の身振り手振り、表情で表現するというかなり高難易度の演じ方をこなしていて凄かったです。キャラ的にもトラウマで剣と炎を恐れるということから、セイバーにまたカウンターを示す存在であり、飛羽真が変身をしない理由にも一つの理由を加えていましたね。


賢人との婚約者である結菜は元カレを失った復讐から賢人に迫り、倫太郎のお父さん犠牲になった者たちの想いから…とファルシオンとなり剣士たちに襲い掛かったわけですが、倫太郎のお父さんだけ動機もなんで生きてたかもかなりふわふわしてて把握が出来てないポイントなんですね。まあそのうちどこかで補完されると思いますが。

ただ橋本さんの渋さカッコ良さは凄まじかったですし、あの真面目で厳格な雰囲気は倫太郎の父親としての説得力を力強く感じましたね。「変身…!」の言い方に風格がありすぎた…。

飛鳥凛さんも『W』の頃から更に大人になられていて素敵でした…!


3人とも、それぞれの「罪」を打ち付けられ、苦悩しながらも最終的にそれぞれ「それでも前へ進んでいく」という言わばTVシリーズと同じアンサーを持ってきたのはとても良かったですね。

個人的にお気に入りシーンですが、互いの記憶をなくした賢人と倫太郎の会話というか雰囲気がとても良かったですね。この二人って、いわば剣士の同期のような存在ですが、TV本編では意外と二人だけのシーンの印象が少なく、ただ言葉は交わさずとも互いに背中を預けられるようなコンビなんですよね。

そんな彼らの二人の関係性が記憶が消えたとしても、特に変わることはなく少ない言葉で互いを支えあい、握手をするという描写に倫太郎と賢人のコンビはすごく良いなと思いました。Vシネの場で彼ら二人のシーンを設けてくれたのがファンとして嬉しかったですね。

また、3人の中でTVシリーズ内でも一番悩み心が揺らぐ存在であった倫太郎がとても真っ直ぐで「それでも彼らの想いも背負って生きていく」と強く結論を出すのもとても彼の成長をとても感じましたね。倫太郎めちゃくちゃかっこいい…。あと服買え。

真宮が結局のところ黒幕だったわけですが、彼を含めた3人がそれぞれ復讐心を宿しながらも8年間の中で飛羽真達と接する中で心が変わり、最終的に物語が書きかわり、「罪」の物語が「愛」の物語へと書き換えられ終幕し、本編で一堂に会すことはなかったキャラ達がEDで集うのも良かったです。ちゃんと救いを用意している優しさは凄くセイバーらしいなと。

今作の個人的に好きなポイントなのですが、『仮面ライダーセイバー』という作品全てを表すような代表的でお約束の決め台詞である「物語の結末は、俺が決める。」という台詞を今作では一切封印していたのがとても良かったですね。

勿論、飛羽真達が更に大人になったこともあるのですが、物語の結末を決める存在が最終的に飛羽真ではなく、陸達ゲストキャラであること。

飛羽真は物語の結末を決める存在ではなく、物語の結末へ導いてあげる存在になった事がすごく良いなぁと思いました。

セイバー本編や冬映画でも重要なキーワードである「約束」という言葉にも頼らず、最後の最後にそれを陸くんが発するのも素敵でした。

飛羽真自身も陸から逃げない決意を決め、再び火炎剣を握り変身し、満を致してメインテーマが流れるのも最高に熱い演出でした。

そして、飛羽真に影響を受け、新たなる物語の創造主が生まれて終わっていくのも『仮面ライダーセイバー』の後日談エピソードとしてもとても好きですね。

戦闘シーンは今作がドラマを主軸にしていたのもあり必要最低限ではありましたが、上堀内監督特有の少ないカットでカッコ良く、スタイリッシュで印象的に魅せる演出がとてもハマっていたのもあって、少ないながらもとても良かったです。

セイバーは剣を一発振るうだけでも画が引き締まる強さがありますし、ブレイズにうじゃうじゃとゾンビのような亡霊達が付きまとう演出もホラーとしてとても良かったですし、ブレイズに血がベタベタ付いているのも、セイバーのライダーとグロテスクさの相性が想像がつかないのもあり新鮮な印象を得ましたね。


アラビアーナナイトもほんの僅かな活躍でしたがとてもかっこよかったです。オタクはライダーが月をバックに逆光がかかる演出に弱い。メロメロ。

「静」を意識した作品でもあった為明夫のブック音声も変身音声も新ブック以外は省略だったのも新鮮で良かったです。『ビヨンドジェネレーションズ』でも思いましたが、剣士としての貫禄を強く感じさせるような静かで力強い変身シーンがとてもかっこよかったです。

ファルシオンの演出としても、相手の背中を開いてページを抜き取り記憶を消していく演出は凄く好きですね。ヘブンズ・ドアーッ!みたいでセイバーには絶対合う演出ですからね。てか無銘剣お前増殖もできんのかよ…きも……引くわ……。

他の剣士たちもメインの3人に比べたら出番は少なめでしたが、いや〜〜、ビジュアルが全員最高でしたね……。
蓮は放浪の修行の旅をずっと続けてる感じが最高ですし、凄く先生らしい尾上さん、年齢不詳感が更に強くなった大秦寺さん、ふわふわボブの玲花さん……美しい……かわいい……ちょっと棘が柔らかくなった感じがたまらない………そしてお兄様、お兄様ですよ。髭を生やしているじゃあありませんか………そしてれいかさんに黙って着いていく感じ……柔らかく優しい笑顔をするようになっていてもう良いなぁ……良いなぁと………

歳を重ねた剣士たちのビジュアルがとにかく最高だった分、出番があれだけなのは本当に勿体ないと思うので、彼らにもスポットを当てたショートエピソードや20分くらいの短編映画はやはり観たいですね。

また、謎や状況があまり説明されず、描写だけで表現して観客に解釈を委ねる感じは良くも悪くも相変わらずのセイバーだなぁと思いました。

「僕はセイバーくんのそういうとこ好きだけど、嫌な人はやっぱり嫌だと思うよ?いいの?」と思うも、強く決意と自信に溢れる表情で頷くセイバーの表情が自然と思い浮かびます。
作中で飛羽真達が8年経っても自分達の想いや信念を貫いた通り、作品としても信念を貫く感じはやっぱりカッコイイなと感じるのと、「なんだか大きくなったな…」と親のような気持ちで寂しく感慨深くなります。

まぁなんやかんやちゃんと答えを用意してくれてるのはこの座組の良いとこだと思っているので、超全集の別巻に期待しています。

あんなに「うおおおおおおおおお!!!!!ルナァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」って元気に全力疾走していたのに、見た目も心もすっかり大人になっちゃって寂しくなっちゃうんですが、それでも笑い方とかそいつの好きだったとこの本質は子供の時から何も変わってなくて安心する部分もあるというか、良い歳の取り方してるなって思いましたね。


セイバーの単独映画ではあるものの、ライダー映画っぽくはない。この観終わった余韻の感覚は子供の時に見た児童向け作品で少し大人びた少し奇妙で不思議な感覚で最後は気持ち良く終わるような不思議な懐かしい味を思い出しました。
「苦み」と「甘み」のバランスの良さなんですよね。EDの映像もオシャレでコーヒーで表現していたのが凄くすき。

そういった意味では映画としてもとても良い作品ですし、刺激的な描写も多いとはいえ、昨今の流行りの作品を楽しんでいる小さい視聴者の方々なら逆にそれも楽しめるのかと思うので彼らにも是非観ていただきたい作品ですね。

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