見出し画像

キャリアの森の熊

現代のビジネスパーソンのキャリアにおいて「一所懸命」というのは必ずしも有効な戦略ではない、とされる。例えば、けんすうとして知られる連続起業家の古川 健介氏は『物語思考』のなかで彼の周囲にいる起業家達の共通点として「自分の設定した夢や目標を変えるのに躊躇がない人」と述べている。

一方で古くはデカルトが『方法序説』のなかで森に迷った旅人の比喩を用いて、一度決めた方向は不用意に変更すべきではない、という。

なぜなら、安易に方向を変えてしまうと、ぐるぐると森の中をさまよい、いつまでたっても森を抜けることができないからだ。

現代社会という深い森に迷えるビジネスパーソンたちも同様に、キャリアの方向を軽々しく何度も変えるべきではないだろう。

しかし同時に、はたしてこの方向に進み続けて良いのだろうかという難題に幾度となく頭を悩まされるだろう(森の住民の鹿熊もそのうちの一匹である)。

けんすう氏とデカルトの考え方はどちらも程度問題だ。

デカルトは「森を抜けるまで、あるいは見晴らしの良いところまでは」方向を安易に変えるべきではない、と言っているのだ。他方、けんすう氏がいう起業家たちはそれまで進んできた道を「見切った」時点で、次の方向に進んだ、と考えるべきだろう。道に迷った旅人が、どの村落や水辺にもつながらない山道を突き進むことに意味はない。

そこで重要になるのは、置かれた環境を見切る力、といえるだろう。置かれた環境を見切るまでの時間というのは、個々人のメタ認知能力、環境の複雑性、そしてリスク許容度に依存する。

引き続き、森の例えによるならば、

1. 木を見て森を観る力:

まず自身が置かれた環境を抽象的にとらえ、構造化して理解する力が求められる。要は森の一部を見て、森全体の大きさを推し量る力である。

2. 森の深さ:

迷える森の深さ、つまり、置かれた環境が複雑であればあるほど、その全体像を構造化して理解するまでは時間が要するだろう。

3. リスク許容度:

そして、手元にある情報が5で動く人もいれば、80まで集まらないと動かない人もいる。それは個々人がどれだけリスク(不確実性)を受け入れられるかに関わってくる(森の旅人でいえば、気力と体力、残された水・食料、仲間の有無など)。

少なくともこの3つの要素が相互に絡み合って、まっすぐ進み続けるか、あるいは方向を変えるべきかを決める必要があるだろう。

しかしながら、幸運にも森を抜けることができたとしても、その先に待っているのは新たな森である。こうして森の生活は続く。いつだって皆どこかの森の住人なのである。だから常に自分が住む森を居心地の良い場所に維持/改善するというオプションも忘れてはならない。

どうか住み心地の良い森が見つからんことを

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?