澤岡淑郎

木工を始めて30年になる職人の成れの果て。理性はワインと日本酒、山遊び、テレマークスキ…

澤岡淑郎

木工を始めて30年になる職人の成れの果て。理性はワインと日本酒、山遊び、テレマークスキー、ガソリンエンジン、書物、そして工具鋼に支配されている。文章は職人さんと仲間へのリスペクト、そしてユーモアをたっぷり込めて書き綴ろう。愛車は160系プロボックス。家具手加工一級技能士。

最近の記事

価値あるモノとは

 その水屋箪笥と初めて対面したのは、もう10年ひと昔前のことである。  私の住んでいる町は歴史のある町で観光地にもなっており、そういう土地柄か古道具屋が多い。地元といっても、ご多分に漏れず近すぎて意外と知らないことは多く、その日も妻と何を買うわけでもなしに観光地見物をし、中心部に近い古道具屋へ入った。  古道具屋というのはどこも同じく、古民家の薄暗い空間にモノがあふれ返っており、まるで江戸時代版×ン×ホ×テのようである。いつものようにまず私は大工道具を一通り確認するのが常だ。

    • 冷たい穴

       誰でも一度や二度は死にそうになった経験があるだろう。  それは突発的な交通事故のような場合もあれば、自らあえて危険なことに向かった結果であるかもしれない。  そして山に向かうという行為は、その双方の要素を含んでいる。  過去にこういうことがあった。  春先の北アルプス、奥穂高岳に日帰り登山をした帰り道の白出沢。ガレ場を過ぎ沢沿いを歩いていると、突如としてズンという落雷のような轟音が谷中にこだました。鳥の群れが一斉に飛び立つ。だが雷が鳴るような天候ではない。  何事かと思い

      • 金魚の糞 ~古の峠を辿る山行記録~

           1  これは「こぶしの花さくころ」という1982年に出版された絵本の冒頭部分。  こぶし(辛夷)はモクレン科の落葉広葉樹で、飛騨では庭木によく植えられており、四月に白い大きな花を咲かせる。そして昭和三十年頃までその時期には、田を耕す目的で、農耕馬を富山へ出稼ぎに出す「作馬」と呼ばれる制度があり、この絵本には当時の馬と人と自然とのかかわり合いが描かれている。  ひとくちに飛騨地方と言ってもその範囲は広く、作馬を行っていたのは県境の現岐阜県飛騨市神岡町山之村。この山之村と

        • 薪割りを木工的視点で考える

          ここ飛騨地方でも気候変動の影響からか、近年めっきり雪の量が減りました。それでも冬場はマイナス十度を下回る日も少なくなくありません。そんな雪国の飛騨は林業や木工が盛んな地域ということもあり、燃料の入手が比較的容易なことから職場でも家庭でも、薪ストーブの普及率が高いのです。  薪ストーブを焚くには当然燃料となる薪が必要です。薪はカーボンニュートラル燃料ですから大きな顔をして燃やせる訳ですが、実際問題一冬分ともなると、これがなかなかの量で置き場所問題やらカメムシうじゃうじゃ問題や

        価値あるモノとは

          山と木工に憑りつかれた救いようのない残念な件に関して

          子どものころから文章を書くことが大好きでした。 とはいえ本格的に小説を書くとかではなく、特別な時間を過ごした時にその内容を、面白おかしく盛って書いて、周りの人に楽しんでもらっていました。特別な時間とは、大体においてひどい目にあったときのことです。 また、生業である木工についての持論も書き続けており、大分と溜まってきたのでここらで公開しようかと思い、noteを始めたという経緯です。 そういうわけで、話の内容は真面目な木工の話と、それ以外の特別な話、平たく言うとバカ話になるのです

          山と木工に憑りつかれた救いようのない残念な件に関して