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人と人との絆とは~加賀恭一郎シリーズ番外編~【書評】希望の糸

 映画評をこれまで5本書いてきましたが初の書評、読書感想文となります。(全体32記事目)
自分自身のブログは4本柱としたいと考えています。
神社系、食レポ系、複業系、そして評価系(映画評・書評等)です。

 初めて書評を書くにあたりどの本を最初に書こうか迷いに迷いましたが今までで多く読んでいる作家、「東野圭吾」の作品にしたいと思います。
その中でも一番新しく読んだ「希望の糸」について書きたいと思います。

あらすじ

「死んだ人のことなんか知らない。
あたしは、誰かの代わりに生まれてきたんじゃない」
ある殺人事件で絡み合う、容疑者そして若き刑事の苦悩。
どうしたら、本当の家族になれるのだろうか。

閑静な住宅街で小さな喫茶店を営む女性が殺された。
捜査線上に浮上した常連客だったひとりの男性。
災害で二人の子供を失った彼は、深い悩みを抱えていた。
容疑者たちの複雑な運命に、若き刑事が挑む。

簡単な内容(ネタバレを含みます)

東野圭吾の人気シリーズ「加賀恭一郎シリーズ」は「祈りの幕が下りる時」にて完結しております(ということになっております)。
今回は、加賀恭一郎の甥、松宮脩平が主人公となっております。
彼も加賀と同様、出生に謎のある人物の一人でした。

 プロローグ、新潟中越地震によってとある家族に悲劇が訪れます。
なかなか前に進めなくなりますが、新たに家族を作るということで前にすすもうとします。

 本編、金沢にある旅館の女将には早くに亡くなった母と、もうすぐ死を迎えそうになりながらターミナルケアを受ける父がいます。
そして、その父が遺言状を作っていることを顧問弁護士に聞かされます。
弁護士の指導(?)の元に作られた正式な遺言状は生前に見ても効力を失わないとのこと。
そして、弁護士は女将にそのことを教えます。
見るも見ないも女将の決断次第だが、見ておいた方がいい内容があるとのこと。
結果、女将はその遺言状を見ます。
そして、驚くべき内容が書かれていました。
「松宮脩平なる人物を息子として認知する」ということでした。
女将は知らない人物でした。

 殺人事件の発生、東京の自由が丘のカフェにて殺人事件が発生します。
被害者はそのカフェのオーナー。
捜査本部が警察に作られ加賀や松宮も担当となります。
殺害理由を調べますが、第一発見者を含め常連客の話を聞いても怨恨の線は薄そうです。
オーナーには元夫がおり、最近会ったことがわかったために元夫に話を聞きますが、ひがオーナーと元夫が会ったときの会話内容は腑に落ちないものの大した内容ではありませんでした。
また、元夫のアリバイも確かでした。

 また、その捜査と時を同じくして金沢の女将から松宮に連絡が入り、松宮を子として認知するという人物がいることを知らせます。
その人物と合うか尋ねられる松宮ですが一旦保留します。

 捜査の進展、常連客にとある男性がいました。
オーナーとただならぬ関係だと周りの常連客からは思われていたそうです。
少し怪しいところがあるので、松宮たちはその男性の行動をしばらく追うことにしました。
また、その男性は家庭に問題を抱えておりました。
最愛の妻は2年前に白血病にて死別。中学生になる1人娘とはうまくコミュニケーションを取れず、晩御飯なども別々で取ることが多くなっておりました。

 元夫からも怪しい行動が出てきました。
オーナーの年老いた両親は東京から少し離れたところに住んでいたため、事後処理を請け負う約束をしておりました。
殺人事件とはいえ元妻のためにそこまでするのか疑問に思った松宮は不審に思います。
オーナーの年老いた両親へも会いに行った松宮、そこで元夫がオーナーの昔の写真を抜き取ったことに気づきます。

 松宮は男性客の1人娘とも会います。
そこで、殺害されたオーナーがたまにその1人娘の部活を遠くから眺めていたことを知ります。
オーナーと常連の男性客の1人娘に繋がりが発生しました。
これがはたして偶然か否か、もちろん後者であります。
そして、驚くべき連絡が入ります。

 犯人の逮捕、加賀が話をしていた殺害されたオーナーの元夫の現在の内縁の妻、その内縁の妻が殺害を自白しました。
加賀と話している中で、自分が殺したと自白したのです。

この時点でなんと3分の2くらいです。
まだまだ話が続きます。
殺害の動機(一応はこの時点で動機がありますが、他にも動機がありそうです)、男性客の娘と殺害されたオーナーとの関係、松宮とその松宮を子と認知する男性との関係などがまだ残されています。

 電話、金沢の女将の元に一本の電話があります。
死んだ母が事故したときに同乗していた女性の妹からの電話でした。
死んだ母と事故時に同乗していた女性は昔からの親友で、交換日記が存在しておりました。
その交換日記を女将に渡したいというのが電話の内容でした。

 接点、殺害されたオーナーと元夫、常連の男性客と死別した妻、この2組の夫婦には接点がありました。
同時期に同じ病院で不妊治療を受けていたのです。
そして、その不妊治療時に医療ミスが起こっていたのです。
殺害されたオーナーと元夫との受精卵が間違えて常連の男性客の死別した妻の子宮に戻されていたのです。
その可能性を医者から聞かされていましたが生む決意をし、生みます。
常連の男性客はそのことをずっと悩んでしまいます。
また、妻が死ぬ間際、悩んでいたことを指摘されます。
そして、やはり男性との血縁関係はありませんでした。
そして、皮肉なことに殺害されたオーナーとの娘ということも判明するのです。
殺害されたオーナーの元夫は娘を探すために事後処理を請け負い、オーナー若かりし頃の写真を実家から盗んでいたのでした。

 真実1、常連の男性客の娘は、自分が母の不倫の元に生まれた娘だと勘違いをしていました。
だから父親は自分に冷たいのだと勘違いしておりました。
そこに気づいた男性客は真実を娘に話すことを決意します。
そして、娘に「大好きだ」ということを伝えます。
娘にとって、その言葉だけで十分でした。
たとえ血の繋がりがなくてもそれで十分だったのです。
そこで二人の関係は少しずつ修復されていきます。

 真実2、犯人である内縁の妻は過去に堕胎の経験が2度ありました。
愛のある家庭を築きたかったですがそれが叶わずにいました。
妊娠の事実を相手から喜んでもらいたかっただけなのに、それが叶わずにいたのです。
その中で、オーナーと会います。
現在の一緒に暮らす、そのオーナーの元夫が何を考えているか知りたかったからです。
しかし、そのオーナーが「素敵なめぐり逢いがあると思う」という発言から、自分はもう男性との出会いなんてないと思い殺害してしまいます。
この「素敵なめぐり逢い」というのは、オーナーが妊婦のお客さんによく使う言葉でした。
それは、もうすぐ子供と出逢えるということを意味していたのです。
そのことを加賀との会話の中で気付き、自身が誤解の元殺害したことがわかり自白したのでした。

 真実3、女将は母と母の友人との交換日記を手にします。
そして中を見ることで2人は女性同士で愛し合っていたことを知ります。
父は、結婚して娘が生まれたあとにその事実を知ってしまいます。
そして、2人の元から離れます。
娘が成人したら離婚することにし、離れた土地で料理人として働きます。
そこで松宮の母と知り合ったのです。
良い関係を築きかけたその時、金沢で妻が事故にあった連絡を受けます。
そして、自分が旅館を支えることを決意します。
松宮の母は、その後妊娠したことに気付いていましたがそのことを話しませんでした。
1人で育てる決意をしたのです。
しかし、その後息子が産まれたことを知り、自身の存在を明かさないことを条件に2人は会います。
松宮が中学生の時、2人は初めて会ったのでした。
そのことを松宮は覚えていませんでしたが、父は認知することを母に伝えていたようです。
たとえ長くても「糸」がつながっていれば希望は持てると。

不妊治療

 この話の軸の1つに「不妊治療」があります。
私自身も経験ある話なので他人事とは思えませんでした。
また、妻に「間違えるということあるのかな」ということも話していたことがありました。
今回のこの話は、医者が受精卵を間違えてしまい、そこから生まれた希望と、悲劇があります。

読んでいて大変辛く感じるとともに、生まれた我が子にはしっかりと愛情を注ごうと決意しました。

家族の絆とは

 松宮は遂に父親と再会します。
もう死ぬ間際の父親と出会えたのです。
そして「お父さん」と呼びかけ反応があったかのように見えました。
松宮は長い糸が切れていなかったことに、感謝しました。

加賀恭一郎シリーズは「家族の絆」がテーマとなることが多いように思います。

今回の話では
・突然の自然災害により死に別れた家族
・血が繋がっていないけども長く一緒に過ごした家族
・血の繋がりがあることはわかっているけども長く会えなかった家族
・知らないところで血の繋がりが存在していた家族
・介護しながら一緒に過ごす家族
とたくさんの家族が存在します。
これら全てにそれぞれの絆があるのだと思います。

家族の絆とはいったい何なのでしょうか。
やはりそれは愛情に他ならないのだと思います。
全てに愛を持って接していきたいと思いました。
子供が産まれたこの時期に、この本に出会えて良かったです。

感想

 至る所に伏線が貼られていて、さすが東野先生だと思いました。
謎が謎を呼び、それが少しずつ溶けていき、最後は全てに納得いく結果が与えられる。
東野小説の醍醐味、読後のカタルシス。
この作品でもしっかり味わうことができます。
たまに読後に悲しく辛い気持ちになる本もありますが、この「希望の糸」大丈夫でした。

※なお、今まで読後の気持ちに耐えられなかったのは「卒業」「虚ろな十字架」です。
結構辛く悲しい気持ちになりました。

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