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ペアダンス競技会観戦

 京都市宝が池公園運動施設体育館という長くて覚えられない会場名ですが、ここで京都スーパースターズダンス競技大会というのが開かれました。もとより世間では3連休のところ私は仕事でしたが、台風のために調整が入ると分かったのが大会前日。ちょうど京都に来ている、きこえないお友達がいて、おそるおそる、先生のツィッター投稿を見せて提案してみました。

競技会のフライヤー

 「ダンスの試合があって、手話通訳とか要約筆記とかきこえない人へのサポートはないんだけど、本当に短い時間だけでいいから、ピンポイント見るだけで一緒に行ってくれないかな?」

 「デフダンス体験会の動画で手話やってた先生でしょ?もうひとり一緒に映っていた人は、ろうだよね?」

 というのですが、あれ、だれのことだろう?

 「もう一人? ろうじゃないよ、きこえる先生だよ」
 「『ろう』と言っていたよ。手話もはっきりしてたよ」

 …動画を出して再確認してもらいました。まずは、その動画をどうぞ。

https://youtube.com/shorts/ABqD4IWGkTc

 ごらんのとおり、井上裕次郎先生は「ゆうじ『ろう』」と指文字をされています。そのため、友だちは名前の最後の『ろう』のところが頭に残って、「『ろう』の人だ!」と思っていたらしい、ということが分かりました。ろう者は『ろう』の言葉に敏感に反応する傾向がありますが、名前の一部に反応してしまったという事例でした。

 こうしたやりとりや確認を経て、実際にふたりで行くと決めたのは、当日になっていました。先生に連絡しようかな?という思いが頭をよぎったのですが、試合前は集中しないといけないと思うので、連絡しないで黙っていくことにしました。幸いなことに、先生がタイムスケジュールをきっちり出してSNSに告知してくれていたので、「手話通訳の情報保障はないけれど、その時間に行きさえすれば見れるからいいか」という判断材料になったわけです。情報保障がない時間が長ければ長いだけ、しんどくなってしまう私たちは、お互いに「滞在時間は短めでね」ということを合意したうえで出かけていきました。

 会場は京都市営地下鉄松ヶ崎駅から徒歩6分ぐらいのところ。体育会系の友だちは「ここ知ってるわ」と、ぐいぐいと私を誘導してくれます。入り口が分からなかったのだけど、看板も見つけてこっちよと誘導してくれました。
 
 入ってすぐ、先生に見つかりました。見つかったというか、出くわしたというか、見つけてもらいました。あんなに人数がいたのに凄いタイミングです。それで、場所や時間、撮影いいかどうか(撮影は有料でした、貼り紙を見たら5000円だったかな)を確認できて、安心して下に行くことができました。

 下のフロアに入る入り口で、貼り紙が見えました。「本日全席指定」みたいな感じだったと思います。記憶があいまいですが、「全席有料」か「全席指定」的な感じでした。(うん?無料だから誘ったんだけどな)と、とまどいつ、「入っていいですか?」とジェスチャーして、その答えがきこえないから分からず、(え、通じない。きこえない人なの?)というような感じでやりとりがあり、もちろん、何を言われたかはふたりともさっぱりわかりませんでしたが、なんとなくどうぞと言われた感じがして、そのままずんずん入っていくことができたのでした。

 それで、時間まで20分ぐらいだったので出店のドレスを見ていて、友だちは実は体育の別の種類で世界大会レベルの実力がある人なのですが、その競技の衣装より社交ダンス(ペアダンス)の衣装のほうが高いわね、と言っていました。お互いに、この色が好きとか言ってドレスを手に取ったり、お値段はいくらかなと値札を確認したりして、楽しんでいました。友だちはドレスはスタンダードの方がいいそうで、ラテンの短いドレスは露出が多いからちょっとねと言っていて、それは私も同感で、スタンダードは午前中に終わっちゃったのかなあと心の中で思っていました。

 さて、私たちにとって朗報だったのは、フロアの前の方に、司会の横あたりにスクリーンが出されていて、そこに何をしているかが提示されていたことです。これは本当に心理的に少しは安心することができました。「今どこやってます?」というようなことを、知らないお客さんに聞くのも、聞くこと自体がきこえない私たちには難しく、さらには見た目にきこえないことも分からず、さらには答えてもらっても答えがわからず、書いてもらうのもいちいちどうだろうということで、とてもバリアが高いのです。スクリーンを見つけた私たちは、「お!スクリーン!」「情報保障!」と手話で叫んでいました。

準決勝(または決勝)
チャチャチャ サンバ ルンバ
パソドブレ ジャイブ

 不思議なことに、種目名だけが、なぜか英語で書かれていました。なんで種目だけ英語になってるの?英語で書くなら全部英語にすればいいのに?とか心の中でつっこみながら、やっと観戦です。恥ずかしながら、私は見ていて種目の区別がちゃんとできませんでした。

 「これはチャチャチャかな?そうそうチャチャチャで合ってる」
 「これもチャチャチャかな?いやちがうこれはサンバ」
 「ゆっくりしてたらルンバ」
 「闘牛みたいな動きをしてたらパソドブレ」
 「ケンケンしたらジャイブ」
 
 やはり音楽がきこえないし、ふだん練習しているステップと違ったらカウントできないし、種目よくわからんわ、と言っていたら友だちが「スクリーンに表示されている順番なんじゃないの?」と賢い発見をしてくれました。そうこうするうちに、友だちも「あのペアの表情がいい!」「あのペアは顔がこわい!」といって、気づいたら推しを見つけて応援しているではありませんか。初めての観戦なのに凄いです。

 その後、情報保障がないと困ったなと言う場面は3か所あって、それを書こうと思います。

① 胴上げ
② 主催か委員長のアナウンス
③ 決勝順位発表

① 胴上げ
 胴上げがありました。友だちが「なんかお疲れさまって言ってる」と口を読んでくれて、長く貢献された先生がおやめになるか、何かあったんだろうかという話をしていました。その先生たちは、最後見ていたジャイブで、とても笑顔で楽しく踊っていて、競技とかじゃなくてもう楽しむ!という表情が伝わっていて、私たちも思わず楽しませてもらったので、胴上げ!?何が起きた?!と思っていました。こういう場面、情報保障あるといいな。

② 主催か委員長のアナウンス
 大会を開けてありがとうございます、みたいなアナウンスだと思います。挨拶の内容、スクリーンに映してくれたらいいのになあと話していました。その間、フロアのみなさんはマナー良く先生のアナウンスの方を見ているだけだし、きこえないからといって手話でおしゃべりしていても失礼な感じだし、手持無沙汰になってしまいます。内容がわからない場面にいることは、きこえない人にとって不安だし、心の中で、ざわざわ感が続く感じになってしまいます。友だちも「情報保障ないとわかんないよね」「あなたが出演したら情報保障つくのかな?」と言っていました。スマホの音声認識アプリをオンにしてもちっとも認識しなかったのでした。友だちに申し訳ないから「帰ろうか」と言っていたのです。こういう場面、情報保障あるといいな。

③ 決勝順位発表
 推しの先生たちが何位になるかというドキドキわくわくの時間だったのですが、これもやはりアナウンスがきこえないため、よくわからなかったのです。何位から発表する、ということがわからないため、ふたりで「ふつうは優勝発表は最後だよね?」「3位から発表するかな?」と言っていたので、すっかりずれてしまっていました。左から並ぶ、右から並ぶが見えても、名前や何位かの情報が分かりません。友だちが「わかんない」とつぶやいていたので、わかる方法ないかな、と周りを見渡してみると、椅子席のお客様がプログラムに鉛筆で丸数字で書き込みをしているのが目に入りました。それで厚かましく後ろから覗き込み、うん、今の何位ねとわかることができました。こういう場面、情報保障あるといいな。
 
 お友達は、東京でジルバを体験し、ジルバまつりにも参加したことがあります。だからダンスには興味があって、今回、たまたま一緒に行くことができました。デフダンスを広めるためには、スクリーンなどのユニバーサルな情報保障があって、話していることや今目の前で起きていることが少しでも伝わるような方法があれば、と思いました。手話が第一言語の人たちには手話通訳があるのが一番だけれども、文字や視覚的な情報保障は、人的サポートやテクノロジーの力で可能にならないでしょうか。今後の機会には、ペアダンス界、関係各位にも協力いただいて、工夫をお願いしたいと思います。

 また、詳しいことは私はわからないのですが、目の見えない人のダンス、ブラインドダンスの競技会が通常の競技会に組み込まれていることがあります。今回は、ブラインドの人たちが出るという情報はなかったので、おそらく無いバージョンだったと思います。障がいのある人たちのダンスの場合、競技になるほどの人数(エントリー)が足りないことがあるかもしれませんが(特にデフダンスだと競技にならない数だと思います)、こうした競技会のどこかの時間に、デモンストレーションの場が組み込まれるという方法も検討されてもいいのではないかなあ、と思いました。
 

いただいたサポートは、デフダンスの普及イベントや情報保障のために使わせていただきます。どうぞよろしくお願いいたします。