装甲列車強盗

 戦略核でガラス化した荒野を装甲二輪で十時間半、ディポに着いた頃にはもう日は落ちていた。
 宿を探し、通りを歩く。街には据えた臭いが充満している。隣接する最終処分場跡から流れる臭いだ。いまやゴミ山は前時代の遺物の宝庫、ディポは都市鉱山からの資源回収で栄えている。
 ふいに、女の悲鳴が聞こえた。路地から赤毛の女が転がり出てくる。女に二人の男が群がる。女の鞄を奪い、髪を掴み、砂っぽい路面に引き倒す。
「やめろ」
 男たちが振り向く。二人とも目は義眼、腕はクロームに輝いている。俺と同じサイボーグだ。俺は腰に提げたホルスターを意識した。
「死にたくないなら、やめろ」
 男たちは鼻で笑った。男たちの腕が割れ、機関銃が飛び出す。銃口が俺の方へ向く。
 遅い。俺は拳銃を抜くと同時に撃鉄を起こした。時代遅れのシングルアクション・リボルバー。しかし、高速戦闘用に調整された俺なら機関銃より早く連射できる。
 引き金を引く。銃口から弾丸が炎と共に飛び出す。引き金を引いたまま、左手で仰ぐように撃鉄を起こす。発射。一発目の弾丸はまだ宙を飛んでいる。
 ほぼ同時に、男たちの額に風穴があく。身体が力を失い、崩れ落ちる。女は腰砕けのまま、呆然とその様子を眺めていた。俺は女に手を差し伸べた。
「殺したが、悪かったか?」
 女は首を横に振り、俺の手を取って立ち上がった。砂で汚れたその顔には見覚えがあった。
「サラか?」
「まさか、ジョー?」
 女は目を見開いた。凪いだ海のような青い瞳。随分痩せたが、確かにサラだ。
「お互い、歳をくったな」
「減らず口は相変わらず」
 サラは急に咳込んだ。嫌な咳だ。
「悪いのか?」
「悪いよ。肺ガンだもん」
「治せるだろ」
「金がないんだよ」
 また咳込む。血のしぶきが飛ぶ。痩せこけた顔。死の影。
「金は俺が工面する。当てはある」
「なに言って」
「装甲列車を襲う。そのために俺はこの街へ来たんだ」
 サラは目を丸くして俺を見た。

【続く】

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