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ジョンがいる

映画ボヘミアンラプソディにて、ロジャー・テイラーを演じたベン・ハーディ氏はインタビューで、「物真似芝居にしたくなかった」と言っていた。その気概はQueenのメンバーを演じた役者4人に共通していたと思う。本人に近づくだけでなく、「自分にしか表現できないQueen」に、役者として挑んでいたのが伝わってくる。彼らの挑戦は功を奏し、Queenに対して世間が抱くイメージに新しい血を入れた

前述したベン・ハーディ氏はロジャー・テイラー本人に会えて、ブライアン・メイを演じたグウィリム・リー氏も本人と対面できた。世界中にファンを持ち、現在も第一線にいる人物を演じる。2人とも大変なプレッシャーを感じながら撮影をしていたことだろう

・・・・さて、ジョン・ディーコンを演じたジョー・マッゼロ氏はどうだったのだろう。ジョンさんご本人は当然存命中でありながら既に引退しているため、マッゼロ氏とジョンさんの接触は叶わなかった。対面できないにしても、完成した映画をジョンさんご本人が観客として見る可能性は高い。けれど、映画についてジョンさんがどう思うかは知る術もない・・・。ジョー・マッゼロ氏は、本人を目の前にして演じた上記の2人とは異なるプレッシャーを抱えていたはずだ

しかし

マッゼロ氏は、そんな前置きが無駄に思えてくる演技を見せてくれた。ジョン・ディーコンを語るうえで欠かせない部分 ーフレディを深く、静かに尊敬している姿ー を確実に表現していた。例を挙げると、Bohemian Rhapsodyのコーラスを入れているメンバー4人が、後ろに向かって倒れた場面。ジョン(マッゼロ氏)はフレディの体を自分より先にかばう仕草を見せた。あの場面はアドリブだったと知ったとき、マッゼロ氏が、ジョン・ディーコンに本当になり切っていたとわかった

次に後半、80年代に入ってフレディが勝手にソロ契約を結んだことをメンバーに告白する場面。隠しごとをしているフレディを見透かすように「フレディ、なにが言いたい?」からの演技は目を見張るものがあった。あのとき、ジョンは肩をピクッと動かしている。あの癖のような動きは実際、80年代のジョンさんによく見られるものだ。マッゼロ氏はそこまで研究していた

・・・映画の話に戻る。その後にジョンはフレディに、「(ソロ契約で得た)400万ドルで家族を買えばいい」と強烈な皮肉を言った。フレディはメンバーに「誰も必要ない」と捨て台詞を吐いて去った。裏切りともとれるフレディの行動に動揺しつつ、嫌いにもなりきれない。そんなジョンの気持ちを、マッゼロ氏は複雑な表情で表現していた

ジョー・マッゼロ氏はインタビューで、ジョン・ディーコンについて「謎めいている」と表現し、多くを語らなかった。役者としてあれだけ細やかに表現したのだから、ジョンについてもう少し語ってもいいはずだ。それをしなかったのは、尊敬していたフレディを亡くし、音楽活動から身を引いて沈黙を貫くジョンの心の深遠を尊重しているからだろう

さらにこんなふうにも考える。マッゼロ氏は、今は静かに生活するジョンについて、自分が一方的に語るべきではないと思っているのではないだろうか。そうだとすれば、その強い信念はジョンの実像に通じるものがある。マッゼロ氏はボヘミアンラプソディでジョンを演じたというより、ジョンを生きたと表現したほうが適切かもしれない

そんなことを考えながら、私は先日、映画館でふたたびボヘミアンラプソディを見た(10回目)


何度見ても思う。「そこにジョンがいる」と。

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