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居住支援のあり方に関するパブコメ(1/24締め切り)

国交省は「住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する中間とりまとめ(案)」に関する意見募集を行なっています(2024年1月24日18:00締め切り)。いわゆるパブコメです。

「中間とりまとめ(案)」の全体的な内容としては、単身高齢者の増加や、コロナ禍で顕在化した不安定居住の問題を念頭に、賃貸市場の環境整備を軸にしつつ入居後の支援や地域とのつながり、空き家活用などの方向性が示されています。

個人的に継続的に関心のあるテーマなので、意見を提出しました。このnote更新時点ではまだ締め切りまで1日あるので、みなさんぜひ意見を提出しましょう!私が提出した意見と補足コメント(雑感や参考情報など)を記載しておきますので、何かの参考になれば幸いです。

▼パブコメ提出はこちらのページから。入力フォーム、メール、郵送での提出ができます。
住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する中間とりまとめ(案)に関する意見募集について

▼今回、パブコメの対象になっている「中間とりまとめ(案)」はこちら
住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する中間とりまとめ(案)

▼検討会の過去の資料や議事録が見られます。
住宅確保要配慮者に対する居住支援機能等のあり方に関する検討会


▼ここから、私がが提出した意見と補足コメントです。以下では、グレーの網かけ部分が提出した意見で、地の文が補足コメントです。

以下、主に生活困窮者や現にホームレス状態・不安定な居住環境にある方への居住支援という観点から、7点の意見を述べます。

(意見1)P2. 9行目からP3. 20行目について
「2.現状・課題」では、住宅確保要配慮者がどの程度存在しているかについて、人数や世帯数など規模を示す調査結果や推計値を示すべきだと考えます。住宅確保要配慮者についての全体規模の把握なしには、以降で示される方向性や今後の取り組みに対して量的に必要十分であるかを検証することができません。

(理由)「住宅確保要配慮者の状況」では、具体的な数値として高齢単身世帯全体の世帯数や刑務所出所者に関する人数が示されるのみで、住居確保要配慮者の全体像が把握できません。住宅確保要配慮者は低額所得者や被災者、高齢者などさまざまな属性を含むため明確な実数を把握することは難しいですが、少なくとも全体の規模など概数を把握することは支援のあり方を検討する際に不可欠です。その上で、多様な属性を含む住宅確保要配慮者においては、それぞれニーズが異なるグループごとの規模やニーズを把握するための調査を行なうべきです。

(補足コメント)
そもそも住宅確保要配慮者がどれほどいるのか?というのはけっこう難しい問題です。ざっくり言えば住民税非課税世帯なら1200万世帯程度ですし、相対的貧困なら2000万人程度です。もちろんこの中には持ち家があったり、住宅に困っていない人もいるでしょう。

ちなみに、国土交通省国土技術政策総合研究所が「住宅確保要配慮者世帯数推計支援プログラム」というのを開発し、自治体に配布しており、各自治体はこれを活用しながら種々の計画を立てている(はず)。

ところで、これは平山洋介先生が2017年の住宅セーフティネット法改正にあたって指摘されていたのですが(※)、住宅確保要配慮者数の試算は「異常といってよいほどの圧縮」がなされているということです。当時国交省が示した試算では約28万世帯とされていますが、要するにこれは低額所得者世帯などのうち低レベルの居住水準「かつ」高家賃負担の世帯のみを対象とするもので、「かつ」ではなく「または」で計算すると12倍以上にのぼったそうです。

こうした条件の操作でこれだけ違いが出てくるわけですから、どの範囲を住宅確保要配慮者として捉えるかをまず示すことは重要だと思います。加えて、いろいろな属性の人をごちゃ混ぜにして「住宅確保要配慮者」としているので、それぞれの規模やニーズ把握も重要でしょう。

(一方で、※の論考の中で平山先生は、住宅困窮者をカテゴリーで分類することで対象を狭めたり、特殊化したり、脱政治化する弊害も指摘していました。私の場合、ホームレスや不安定居住などに視点を絞って意見を書いているので、留意しないといけないと思いました。)
※「住宅保障政策を問い直す」平山洋介『世界』第897号(2017年)

(意見2)P5. 21行目から38行目について
「3. 基本的な方向性」で示された項目については、ぜひ推進していただきたいと考えます。特に、単なる住宅確保にとどまらず、地域とのつながりを絡めての孤独・孤立対策まで言及している点は重要だと考えます。しかしながら、住宅確保要配慮者が賃貸住宅に円滑に入居するための「市場環境の整備」についての言及はありますが、一方で公的な住宅のさらなる確保や家賃補助制度の拡充など住宅セーフティネット強化に資する公的な資源の増強についてはあまり触れられていません。歴史的に住宅セーフティネットが脆弱な日本においては、市場環境整備や連携体制の構築だけでなく、公的な住宅ストックの増強や公的家賃補助の拡充・改善など、住宅確保に資する公的資源の量を抜本的に増加させるべきだと考えます。

(理由)周知のように、日本は西欧・北欧などに比して住宅セーフティネットが歴史的に脆弱であると指摘されてきました。単身高齢世帯の増加や、借家率の上昇、また先進諸国において比較的高い相対的貧困率などの現状に鑑みると、今後ますます住宅セーフティネットを強化する必要性は高まることが予想されます。意見1で述べたような全体像の把握に基づいて確度ある需要の把握が必要です。一方で、住宅セーフティネットのあり方を考える際に、現状の賃貸/持ち家住宅市場への依存度を所与のものと見なすべきではありません。そもそも全体の住宅に占める公的住宅の量がどの程度であるべきか、雇用形態などを含めて多様化したライフスタイルに沿う家賃補助はどのような規模・形が望ましいかなど、日本における住まいの保障そのものに立ち入る議論を行なう場が必要です。

(補足コメント)
例えば「OECD Affordable Housing Database」を見てみてください。Social Rental Housing Stockの日本の値は低水準です。ドイツも日本と同じくらい低水準ですが、ドイツの場合はPublic Spending on Housing Allowancesはトップレベルです。日本の場合は公営住宅も多くない上に、公的な家賃補助も生活保護の住宅扶助か住居確保給付金くらいなので、どちらも弱い。公営住宅は基本的には今後増えないですが、そのことを所与の条件とは考えない方が良いと思います。

(意見3)P6. 2行目以降「(1)居住支援の充実」について
ホームレス状態や不安定な居住環境にある者(例えばネットカフェや宿泊施設で生活する者、社員寮で生活しているが雇用形態が不安定な者など)といった、現に安定した住宅がない者については、特にニーズに合わせた手厚い支援が必要であることは明記すべきです。なおかつ、これらの人々の実態は既存の統計に現れにくいため、規模やニーズを把握するための調査が必要であると考えます。

(理由)ホームレス状態やネットカフェでの生活など、不安定な居住環境で生活することは心身の健康に悪影響を及ぼす可能性があり、一刻も早く安定した住宅を確保できるよう、特に制度的な配慮や支援が必要です。現に住宅(住所)がない場合、市場の賃貸住宅を確保するためには、物件探しがスムーズにいかないなど困難を伴う場合が多いです。初期費用にあてられる公的制度も生活保護以外にはほとんどなく、就労している者などは利用が難しいため、公的な支援の拡充が必要です。また、東京などでは住まいがない状態から生活保護を申請した場合、斡旋された無料低額宿泊所で長期間の滞在に至る場合が多いなど、住宅移行に対する構造的なハードルがあると考えられます。ただしこれらのニーズは地域特性によっても異なると考えられ、実態調査に基づいて対策を行なう必要があります。

(補足コメント)
いわゆるネットカフェ生活者は行政用語的には「住居喪失不安定就労者」と言いますが、過去に厚労省や東京都が調査を行なっています。ただし法的な根拠もないので、単発的な調査にとどまりました。住宅セーフティネット法の2017年改正時には、参議院の附帯決議にて、「〜、適宜調査を行うなど…」と調査についても一言書かれましたが、その後特別な調査は行なわれていないと思われます(私の知る限り)。

可視化されにくい、広義のホームレス状態の把握については、後藤広史先生の解説「『見えない』生活困窮者-どこに居て、なぜ可視化されないのか?」や、そこで引用元されている「不安定な居住状態にある生活困窮者の把握手法 及び支援の在り方に関する調査研究事業 報告書」なども参考になるかと思います。

(意見4)P6. 34行目からP7. 3行目
居住支援法人等が「安定的かつ継続的に地域で必要な取り組みが可能となるよう」な支援が行なわれることに期待します。また、居住支援法人等による「低廉な空き家・空き室を利用したサブリース事業等」の実施に向けた支援も必要だと考えます。同時に、空き家・空き室については都道府県や自治体が直接借り上げることにより、実質的な公的住宅としてストックし、現に住まいがない者への速やかな住宅提供に利用するなど、柔軟な活用を実現するための支援も行なうべきだと考えます。

(理由)意見2で述べた公的な住宅ストックの増強については、新設に限らず、一定の水準を超えた既存の空き家・空室を都道府県や自治体が借り上げ、みなし公営住宅のようにすることも考えられます。また、意見3で述べたように現に安定した住宅がない者が速やかに利用できる住宅を公的にも拡充すべきです。国は、以上について都道府県や自治体、居住支援法人等に対して必要な支援を行なうべきです。

(意見5)P8. 7行目から11行目
住宅確保要配慮者のニーズ・負担に応じた住宅の確保のための「家賃の低廉化のさらなる活用」は特に推進すべきだと考えます。少なくとも、家賃低廉化補助の予算規模の大幅な拡大や地方負担率の低減、国民への周知の徹底、加えて住居確保給付金の受給ハードルを下げるなど、既存の制度の拡充を具体的に示した上で、さらに公的な家賃補助制度の抜本的な強化を目指すべきです。

(理由)意見2でも述べたように、日本では公的な家賃補助制度が西欧などの先進諸国に比して歴史的に極めて脆弱です。生活保護の住宅扶助以外の公的な家賃補助としては住居確保給付金があります。コロナ禍で利用者が急増し、またその際の要件緩和が一部恒久化されましたが、さらに使いやすい制度へと改善を図るべきです。また、住宅セーフティネット法において家賃低廉化補助制度が設けられています。利用実績は令和2年度では全国17自治体(3千万円程度)だったのが令和5年8月時点で49自治体(金額は不明)まで増加していますが、それでも十分活用されているとは言い難い状況です。現在2分の1である地方負担割合を低減することや、積極的な広報を行なうこと、請求制度化するなど、これについても利用しやすくするための工夫が求められます。

(補足コメント)この存在感の薄い家賃低廉化制度について、2020年度の実績についてはこの記事を参照しました。「令和2年度セーフティネット住宅 家賃低廉化補助=全国で僅か208戸の実績=」(全国借地借家人組合連合会ウェブサイトより)

最近の利用実績(金額)は見つけられず…わかる人がいましたら教えていただきたいです。

(意見6)P8. 22行目から24行目
居住支援法人が行政と連携を推進することに加えて、行政側からも積極的に連携を推進するべきだと考えます。さらには、居住支援法人に限らず住宅確保要配慮者に対する住まいや生活等に関する支援を地域で行なっている団体に対しては、行政側からも積極的にコミュニケーションを図り、連携体制構築を目指すのが良いと考えます。

(理由)従来から各地域では、ホームレス支援や外国人(難民など)支援、若者支援、様々なマイノリティ支援を行なう団体や個人が独自に入居や入居後の居住支援を行なっています。それぞれのニーズに対応するノウハウや地域の方とのつながりを有しており、これからの地域での居住支援を支える重要な存在です。行政側からも積極的にコミュニケーションを図り、フォーマル/インフォーマル含めた連携のあり方を模索すべきです。

(意見7)P9. 3行目から4行目
居住支援施策を講じるにあたって、いわゆる「貧困ビジネス」につながることがないよう留意するという点について賛成します。巧妙化する貧困ビジネスに対し、規制や行政指導の強化が必要ですが、同時に優良な居住環境を得るためのハードルを下げることで、劣悪な居住環境で搾取される必要がない構造を構築することが必要であると考えます。

(理由)近年では、郊外のアパートに生活保護利用者を住まわせ、地域の相場より高額な家賃を徴収するほか、物件自体を転売して利益を得るなど、巧妙化した「貧困ビジネス」が横行しています。また、劣悪な居住環境の施設や、設備面では一定水準以上であっても利用者の貧困状態を固定し抑圧・搾取するような、“従来型”の「貧困ビジネス」施設も散見されます。どのような状態が「貧困ビジネス」に相当するか、劣悪な環境とは何かなど、実例を積み重ねるなどにより適切な行政指導が実施されやすい状況をつくる必要があります。さらに、市場の賃貸住宅/公的住宅ストックいずれにおいても、容易に一定水準以上の住宅を獲得できるようにすることで、「貧困ビジネス」施設を利用しないですむような社会構造を構築することを目指すべきです。例えば東京では住まいがない状態で生活保護を利用開始する際に、多くの場合無料低額宿泊所を斡旋されます。無料低額宿泊所においては、優良な支援や環境を提供する施設もある一方、「貧困ビジネス」に類する施設も散見されます。こうした無料低額宿泊所が利用される背景には、慢性的なケースワーカーの人手不足や、住所不定の場合の生活保護費の自治体負担率など、いくつもの構造的な要因が考えられます。施設に対する規制にとどまらず、こうした構造的な要因に対するアプローチが必要になります。

(補足コメント)
いわゆる穴埋め屋についてはこのあたりの記事を参照ください。「空き物件、困窮者で穴埋めして転売…「新たな貧困ビジネス」弁護士ら、生活保護の悪用に警鐘」東京新聞(2023年2月17日)



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