見出し画像

今こそ、セーフティネットに潜むナチュラルな差別を正すとき

デモクラティック・デザイナーの北畠拓也です。
さて、僕はこの4月から新型コロナウイルス感染拡大とそれに伴う失業などによる住宅喪失者への支援について、都内でホームレス支援を行う団体の方と一緒に都や厚生労働省に政策提言を行ってきました。
そして東京では、4月の補正予算で住宅喪失者への一時住宅提供の事業費が計上されるに至りました。これ自体は画期的なことでした。

現在、継続して就労が可能な方については、TOKYOチャレンジネットという窓口から、一時滞在場所としてビジネスホテルに入居し、その後一時住宅(最大4ヶ月)に移行して就労を目指す支援体制が整備されています。また、継続して就労が難しい方については、生活保護などを利用しながら、上述の一時滞在場所(ホテル)を利用できることになっていました。

しかし、住まいを失った生活保護申請者について、この一時滞在場所(ホテル)提供の新規の受付は7月7日をもって打ち切りとなってしまいました。そのことにより、職や手持ち現金や住まいを失い生活保護を申請しても、すぐには安全な居所を得ることができない、という状況になる可能性があります。

こうした事態を受け、私たちは再度(今年で4度目です)、都に対して要望書を申し入れ、記者会見を行うこととなりました。(詳細はこちらから)この要望書では、ホテル利用の延長などを訴えています。

もちろん、ホテル提供というのは緊急対応の性格が強く、恒常的な仕組みとして妥当かどうかは微妙なところです。しかしそれでもなぜこうした要望書を出すことになったのか。それは実はコロナショック以前から存在する日本および東京のセーフティネットの大きな問題に関わることなので、改めてここで問題提起したいと思ったからです。その問題とは何か、をこの記事で解説したいと思います。

◆どんな状況になっているか

まずは、今どういう状況で、今後どんなことが生じ得るかということについて説明します。
現在住まいを失ってしまい、また体調などの問題から継続して就労ができないという方が生活保護を申請した場合の話です。

7/7までは、そうした方に対しては、ひとまず都が用意したホテルに入居し、生活保護を利用しながら移り住むことができるアパートを探すことになっていました。個室のホテルなので、感染防止の観点からも安心です。

では、7/7以降だとどうなるか。
まず、生活保護では住宅扶助の基準額というのが決まっており、基本的にはこれを下回る物件を探すことになります。しかし、都内では低廉な家賃の住宅を探すことは難しい。加えて、生活保護利用者に対して貸主が貸し渋るケースもあり、即時に住居を契約することは難しいのが現状です。(これは引越しをしたことがある方ならお分かりだと思います)
ではその場合、どうなるか。今までは、区市が無料低額宿泊所と呼ばれる民間の宿泊施設を斡旋し、そこで生活保護を利用するということが常態化していました。しかし、あくまで宿泊所で、本来は恒常的な住まいではないんですね。このことについての問題は後で詳述します。

この無料低額宿泊所なのですが、大人数の部屋や相部屋もあり、感染防止の観点から好ましい状態とはいえない施設も多いです。東京都も各区市には、個室で対応するように、という通知を出しているのですが、それがどこまで守られているか、誰も確認していません。なお、無料低額宿泊所に関しては、原則として個室化すべし、という厚労省の元々の方針があり、それを遵守している施設もあります。しかし、そういうところはもう人がいっぱいでこれ以上受け入れられない、という話を聞いています。

そういうわけですぐに行くところがない、というときにどうなるか。厚労省の通知によれば、各区市は、住宅扶助基準額の日割りの宿泊費を支給できる、とあります。ざっくりいうと、とりあえず3日分で6000円とか7000円くらい渡されて、どこか泊まっておいてくれということです。この額で泊まれるホテルって、東京でそんなにあるでしょうか?ネットカフェや、簡易宿泊所に泊まることになりますが、コロナ感染再拡大が心配される今、安全な居所を確保できるでしょうか?

考えてみると、仕事もない、手持ち現金もない、家もない、という極限的に困窮した状態でなんとか公的扶助の窓口にたどり着いたにもかかわらず、「とりあえずネットカフェにでも泊まっておいてくれ」というのは、都市のあり方として非常に冷たいと言わざるを得ない。海外の先進都市を見てもそんなこと聞いたことない。仮にも五輪開催しようという先進都市である東京のセーフティネットの処遇がそれって、あまりの脆弱さに恥ずかしくなります。

今後感染状況が一時的に落ち着いたとしても、コロナ禍による経済的な停滞はしばらく続きます。仕事自体が減っている中で、今はまだ家賃を払えているという人も、そのうち貯金がつきてきます。また、寮付きの派遣の仕事をしていた方などは、派遣切りにあえば仕事と同時に住まいを失う可能性が高いです。このように、今後生活保護利用者は確実に増えます。基本的に現金給付を伴う公的扶助は、生活保護しかないですから。そのような状況下で、こうした脆弱な「住まいのセーフティネット」では、ホームレス状態に至る人が激増することが予想されます

◆そもそも何が問題か


これは、念のため言いますがネットカフェなどが悪いわけではないんです。住まいのセーフティネットが極めて脆弱であったために、そうした民間の商業施設がセーフティネットになっている、という構造的な問題なんですね。ホームレスにせよ、例えばDV被害で逃げてきた人にせよ、一時的に滞在することができる「個室シェルター」が極めて少ないんです。でもより根本的な問題は別のところにあります。それについて、説明します。

先ほどの項で説明した状況。実は、簡単に言うとコロナ禍の緊急的な措置が取られる以前の状況に戻った、っていうことなんです。ところが、それが元々非常に脆弱な状態だった。

現在、先進国でのホームレス状態(いわゆるネットカフェ難民と呼ばれる人のような広い意味でのホームレス状態も含めて)に対するアプローチは「ハウジングファースト」という手法が主流です。
つまり一時的なシェルターとか施設ではなく、まずちゃんとしたアパートに入居してもらう。その上で、例えば病気があれば治療すればいいし、借金があるならその整理をする、というようなモデルです。
つまり従来型:集団生活のシェルターや施設を段階的に移行していって、ちゃんと安定した生活を送れるようになったらアパートに入居するという仕組みを改めていく方向にシフトしています。集団生活ってむしろ難しく、結局路上に戻ってしまう人が多く、あまり安定した生活に結びつかない。本人の安定した生活という面においても、財政面においてもハウジングファーストの方がいい、ということになったんですね。
しかし、東京ではハウジングファーストが主流にはなっていない。でも、本来やろうと思えば特別な法改正などをしなくてもできるはずなのです。

生活保護法では、「居宅保護の原則」と言って、居宅(アパート)での保護が原則になっています。そのため、敷金や礼金など初期費用も拠出できる。だからあとは、公的セクターが、生活保護利用者でも直ぐに入居できる物件を確保したり、そこへスムーズにつながるスキームを作りさえすれば、財政面では全く問題なく実現できるんです。それに住宅セーフティネット法という法律が近年改正され、住宅確保に配慮が必要な人へ、貸し渋りをしない住宅の登録制度や、居住支援協議会という組織体もできている。でもそれらは、ホームレス状態の人には向かない。「ホームレス状態」なんて誰がどう考えても住宅セーフティネットの支援が必要な対象ですよね。だって現に住宅が無いわけですから。それにもかかわらず、です。

他にも、ハウジングファーストを阻む構造的な要因があります。先ほど、ホームレス状態の人が生活保護を申請した場合、無料低額宿泊所に斡旋されるケースが多いと記しました。断っておきますが、これも無料低額宿泊所全てが悪いわけでは無い。個室化や環境整備に努めている善良なる施設もあります。一方で、過密であったり劣悪な環境の施設もある。加えて、食費や見守りサービスなどもろもろの経費を引くと、利用者の元には2万円くらいしか渡されない、ということもあるわけです。行政としては生活保護のケースワーカーの人手不足などの問題から、生活保護利用者が1箇所にいてくれた方が助かる、ということや、無料低額宿泊所であれば生活保護費を区市が負担しなくてよい(国と東京都の負担)、というような条件も重なり、本来一時的な宿泊施設であるはずなのに、貧困状態を固定化する構造になってしまっている。

このような歪な状態が今まで放置されてきました。こうした構造的な不備が、今回のコロナ禍においてつまびらかにされたのです。


ちょっと想像してみてください。例えばもし僕が怪我や病気で一時的に働けなくなり、また家族にも頼れない、となったときに生活保護を利用したとしましょう。その時は、今住んでいる家(普通のアパートです)で生活することになりますよね。でももしも、その家の家賃が生活保護の基準よりも高い場合は、ケースワーカーさんに「もっと安い家賃の家に引っ越してね」と言われますね。その場合は、基本的に敷金礼金や引越し費用は公的負担になります。しかし、なぜか今家が無い状態の人が同じ制度を利用しても、事実上相部屋の施設でしか住むことができない。制度上はアパートに住む費用も拠出できるのに、そうしてもらえない。手元に入ってくるお金も非常に少ない。これではなかなか安定した生活を送ってそこを抜け出すことも難しい。

フラットに考えてみましょう。

シンプルに、こんな状況って、おかしくないですか?

生活保護は、日本のセーフティネットの最後の砦です。それ以上のサービスは無いんです。でもその最強のセーフティネットの中に、家があるか無いかによってこんな差別がナチュラルに存在している。これは、これまでのあり方に問題があるんです。今回提出する要望は、単にとりあえずホテル延長してくれ、というものではありません。より根本的な問いかけがあります。

これからコロナ不況でますます失業者は増えて生活保護利用者も増えます。そんな中、最後の砦のセーフティネットを強化しておかないと、みんなが安心して生活できないとは思いませんか?という問いかけなのです。

私は別に何がなんでも生活保護を、という考えではありません。しかし、誰であれ一時的に働けなくなるようなことはあります。まして、コロナウイルスのように誰にもコントロールできない外的な要因によって仕事がなくなることだってあります。だからそういう時は、福祉的な制度をうまく利用すればいいと考えています。それで、働けるような社会環境や体調になったら、また働けばいいのです。これは極めてフラットな見方だと思うのですが、いかがでしょうか?

現在は、継続して就労できる人に対しては比較的様々なサービスがある。一方で、いますぐ就労が難しい人に対しては、福祉制度の利用が非常に高く感じる。生活保護のスティグマの問題もあります。でも、こうしてみんなが困っている状況なのですから、うまく制度を利用しながらみんなで生き残った方がいいじゃ無いですか。働かざるもの食うべからず、という言葉があります。そりゃ、働ける時は働いた方がいいですよ。でも、外的な要因などで働けないこともありますから。

そして特に、極めて困った状態であるはずの「住まいがない」という状態に対して特に差別的な処遇が常態化している。このような社会は、現在のような危機的状況における対応力(レジリエンシー)が極めて低く、総体として大きなダメージを負うことになります。

問題が顕在化した機会に、根本的な社会のあり方を問い、改善することが、ポストコロナ社会で生き抜くために日本や東京にとって必要なのでは無いでしょうか。

※ウェブでの署名を集めています。ぜひご協力ください。ご署名はこちらから

※ホームレス問題についてより詳しく知りたい方はこちら

※自己責任論についての私の考えはこちら

よろしければサポートお願いします!現在フリーランスの研究者の卵ですので、いただいたご支援は調査研究活動に使わせていただきます。