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【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(2)

デモクラティック・デザイナーの北畠拓也です。

今回東京都へ「新型コロナウイルス感染拡大に伴う路上ホームレス化の可能性が高い生活困窮者への支援強化についての緊急要望書」を提言するに至った理由を解説しています。

前回の記事はこちら:【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(1)

前回は、このコロナ不況によってどんな人に「住まい」の支援が必要かを考えました。今回は、なぜこうした人に対する「住まい」の支援が不十分なのか、そして、現に路上生活している人にどうしてコロナ対策の観点から「住まい」の支援が必要かを考えていきたいと思います。

◆なぜ日本では「住まい」の支援が不十分なのか

ここでは、なぜ日本では「住まい」の支援が手薄で、強化する必要があるのかということを考えます。このこと自体についてはコロナ不況は関係なく、普遍的なことだと言えます。

「すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。」これは、有名な日本国憲法第25条の一文で、生活保護法の根拠になっています。そして次のように続きます。「国は、すべての生活部面について、社会福祉、社会保障及び公衆衛生の向上及び増進に努めなければならない。」つまり、国は誰もが安心して安全に生活できるように図る必要があります。そして生活保護には居宅保護の原則というものがあり、基本的には誰もが「住まい」を持つことが原則です。(諸外国では「居住権」という場合もありますね。)ただ、冒頭にも書いたように、日本ではこの「住まい」への支援が手薄でした。要因は住宅政策の歴史や人々のライフスタイルの変化など様々なものがありますが、ここではひとつ「ホームレスの定義」という点に注目して考察してみます。

日本でのホームレスの定義は「ホームレスの自立の支援等に関する特別措置法(ホームレス自立支援法)」という法律で以下のように定められています。

「都市公園、河川、道路、駅舎その他の施設を故なく起居の場所とし、日常生活を営んでいる者」(第2条)

簡単に言うと、「路上生活者」または「野宿している人」のことです。実はこの定義は、世界的に見ると最も狭い範囲なのです。欧米など多くの国では前項の②に相当する不安定な居住状態の人について「住まい」の支援をするべき「ホームレス」とみなしていますし、英国やオーストラリアでは更に広く①までもが「ホームレス」とみなされます。ですから行政としても必要な対策を取るためにどれだけの需要があるのかも当然調査しなければなりません。

一方の日本では、そもそも法的に定義されていないのだからその調査もしていない。だから、不安定な居住状態の人がどれだけいるかわからず、当然それに対する対応策も十分用意されていないというわけです。③から②になっただけで、ホームレスを脱却したとみなされます。先の住居喪失不安定就労者(ネットカフェ難民など)の調査は過去に行われたことがありますが、単発でした(東京都では2018年に「住居喪失不安定就労者等の実態に関する調査」が行われ、都内だけで4000人がネットカフェなどで生活していると推計されています)。

職を失い、また居所を失うなどして路上に至った場合でも、すぐに何らかの支援につながることができれば、社会生活に復帰しやすくなりますし、トータルの行政コストも抑えることができます。つまり、不安定な居住環境の人々に対して「住まい」を失わないようにすることや「住まい」を失ってしまってもとにかくすぐに「住まい」に戻れるようにすることは、当然の権利でもあり社会基盤を安定させるためにも重要なことです。

こうした状況の中、本来ならば「住まい」の支援をするべき人が今回のコロナ不況により激増する恐れがある、というのが問題なのです。

◆なぜ路上生活者(路上ホームレス)に対してもコロナ対策が必要なのか

次に、路上ホームレス状態の人々について考えてみます。彼ら・彼女らは、外にいる分室内よりも感染リスクが低いのではないかという人もいます。たしかに、いわゆる「3つの密」となる場所よりはマシなのかもしれません。

しかし路上生活を送っている人の中には高齢者も多く、また過酷な生活の中で体調を崩している人も多いのが現状です。彼ら・彼女らは新型コロナウイルス感染の場合、重症化するおそれのある人々でもあるわけです。

そして、「3つの密」よりコロナへの感染リスクが低いかもしれませんが、いわば普通に体調を崩してしまうリスクは僕たちよりも遥かに高いと言えるでしょう。そうした場合、彼ら・彼女らは病院に入院したり、あるいは生活保護を受給することになるかもしれません。

このとき、東京という大都市特有の条件が重なることで、路上にいる人への対応を改善することが今必要であるという結論に至ります。どういうことかというと、都内の物件は高額なものが多いこともあり、現在路上ホームレスの人が生活保護を受給するに至った場合、その多くは相部屋の施設に入所することが常態化しています。

公的な施設は数が足りないため、多くは民間による無料低額宿泊所に入所することになりますが、数人の相部屋や大部屋となることも少なくありません。このような状況で健康リスクを抱えた元・路上ホームレスの人たちが集団生活することはコロナ感染リスクも高めることになるのは容易に想像できます。実際にそれがネックとなって生活保護時給を諦める例もあるとのことです。(注1)

実際にニューヨークでは、ホームレスの人々のためのシェルターで感染が起こったという例も報告されています(注2)。現在の状況を考えると、こうした状況は社会全体での防疫を考える上でも、避けるべきものだと言えます。この点は東京都の担当部局も同様の認識を有していました。

そもそも、コロナ感染を差し置いても集団での生活は非常に難しい面があり、問題視されてきました。厚生労働省から無料低額宿泊所に対し、原則1居室1名というルールをつくりました。しかし現在はそのルールが適用されるまでの猶予期間となっており、規制が間に合わなかったというのが実情です。

次回はいよいよ、ではどんな支援が必要なのかということを考えていきたいと思います。(つづく)

【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(3)

注釈)

1.  池袋で相談活動をしている特定非営利活動法人TENOHASIの清野氏より

2. ニューヨーク感染者急増 ホームレス・シェルターの感染封じ込めは困難より

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