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【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(3)


デモクラティック・デザイナーの北畠拓也です。

4月3日(金)に東京都福祉保健局に次のような申し入れを行いました。「新型コロナウイルス感染拡大に伴う路上ホームレス化の可能性が高い生活困窮者への支援強化についての緊急要望書」(詳しい内容はこちらから)

これまでは、今後本格化が予想されるコロナ不況の際に、どのような人に対して「住まい」の支援が必要となるのか、そしてなぜ「住まい」の支援が必要なのかについて考察してきました。前の記事は以下より;

【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(1)

【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(2)

今回は、「では今後一体どんな支援が必要になるのか」について考えていきましょう。少し長くなりますが、お許しください。


◆どんな支援が必要なのか

【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(1)で分類した、ステージごと(①〜③)にどんな支援が必要かを考えていきます。

①「住まい」を失わないための支援:今は「住まい」があるが、家賃が払えなくなりそうな人に対して

今現在「住まい」がある人に対しては、当然ながらそれを失わないようにする支援が必要です。これには、まずは既存の制度をスムーズに利用できるようにすることが必要です。例えば、現在は離職者しか使うことができないことになっている「住居確保給付金」について利用条件を緩和することや、生活保護受給の際の資産要件を緩和することなどで、当座の家賃を払えるようにすることです。これらは法改正することなしに実施することができるものです(注1)。

そのほか、金融機関等による支払い猶予など、特にこの①についての対策は既に要望書が出されています。法律家のグループである、ホームレス総合相談ネットワークさんが厚生労働省に申し入れた内容(こちら)を参照ください。いずれにせよ、①のステージの人々に対しては、既存の制度が柔軟かつ迅速に運用され家を失わないようする支援の強化が必要です。

そして今回私たちが申し入れを行った要望書が主なターゲットとしているのが、以下に記す②と③のステージの人々に対する支援強化です。他国の事例も参照しながら考えていきましょう。

②「住まい」を失いそう・今まさに失ってしまった人への支援

前回の記事「【解説】今後のコロナ不況で「住まい」を失う危険のある人への支援を考える(2)」に記しましたが、日本ではこうした不安定居住状態の人やごく早期の路上ホームレス状態の人に対する支援が手薄です。これから間違いなく継続するコロナ不況によって、こうした人々が激増することが予想されます。それは数ヶ月あるいは数年に渡り、東京だけで数万以上の単位の人数になる可能性があります。こうした状況を前にして、今まさに不安定居住層・早期路上ホームレスへの支援強化が必要であると考えられます。これが今回の要望の趣旨です。

では、こうした広い意味での”ホームレス状態”の人々に対し、諸外国ではどのような支援を行っているのでしょうか?ここでは、2つの政策(の考え方)を見てみましょう。(これ自体はコロナ対策というわけではありません)

まずは、徹底したデータ分析のもと、ホームレス歴によるタイプごとの支援を行っている英国ロンドン市のホームレス支援の仕組みを概観します。

ロンドンでは「非常に早期のホームレスの人々」に対し、「No Second Night Out」(NSNO)という政策を取っていました。直訳するならば、“2晩目は外で寝ない!”。この政策は、いくつかの支援のパッケージなのですが、とにかく早く発見し何らかの支援につなげるという理念のもと、積極的に路上を巡回(アウトリーチ)し、今日はじめて路上に現れた人を見つけ、話しかけます。そして早期の路上ホームレス状態であるということがわかれば、市内に数箇所あるセンターへ来てもらい(もちろん本人の意思を尊重しますが)、ます。センターでアセスメントを行い、依存症など支援ニーズや何らかのつながりのある土地があるか(どこで支援を受けるのが良いか)などを聞き、次なる支援になるべく早く(72時間以内に)繋げる、というのが基本ルートです(注2)。

職を失い、また居所を失うなどして路上に至った場合でも、すぐに何らかの支援につながることができれば、社会生活に復帰しやすくなりますし、トータルの行政コストも抑えることができます。

(なおNSNO政策は、この積極的なアウトリーチとアセスメントの他に、ホームレス状態の人がいることを市民が電話で情報提供するシステムや、出身地などゆかりのある土地への再接続サービスなどと合わせた複数の支援のパッケージです。これらはあくまで本人の意思を尊重して実施されない限り弊害が生じる恐れがあります。東京の現状を鑑みた場合の実現可能性から、あくまで早期ホームレスに対する積極的な介入という点を参考にするのがよいでしょう。また、ロンドンでは長期的に路上ホームレス状態にある人や、何度も路上生活に戻ってきているような人々に対してはまた別のアプローチをとっています。あくまでその人に合わせた関わり方が重要になります。)

もうひとつ、参考にすべき海外のホームレス支援政策(の考え方)がハウジング・ファーストです。これは、アメリカではじまり、現在ではオーストラリア等でも主流になっているホームレス支援の考え方です。かつてのホームレス支援は路上から短期シェルター、中期シェルター、長期シェルターを順番に卒業していくことではじめて、恒久的な住居に住むことができるようになるという段階移行的な支援が主でした。しかし、集団生活が強いられる中、途中で脱落してしまう人も多かったのが実情です。

そこで、ニューヨークではじめられたハウジング・ファーストは、路上から直接恒久的な住宅に入居し、安定した生活を送れる環境を整え、その上でその人に必要な支援(医療や依存症対策など)を投下するというモデルです。こちらのほうがその後の住宅定着率も高く、トータルの行政コストも低く済むという評価がなされており、ホームレス支援におけるまさにコペルニクス的転回とも言える考え方です。(注3)

既に先進都市の主流になっている支援手法ですが、東京では主流になるには至っていません。都による事業で一部行われていますが十分な量とはいえず、また民間支援団体によっても実施されていますが、住居確保の難しさや資金面で困難を抱えているという状況です(注4)。

こうした諸外国の支援政策(とその考え方)を参考にしつつ、また今回は防疫上の注意点も考慮した上で東京で現実可能な方法を探りました。そして支援団体の方のご意見をいただきながら、今回は東京都などに対し以下のような要望を提出しました。

<要望>

(1) 民間支援団体と連携しながら巡回相談(アウトリーチ)を強化し、路上生活に至って間もない人々も含めた相談支援および活用できる支援の情報提供に努め、本人の意志を尊重した上で即日何らかの支援に繋がることができるよう図ること。

(2) ホテルの空室や民間施設の借り上げ、または公共施設の利用による一時的な居所の確保、または宿泊料の補助による一時的な居所の確保ができるよう支援すること 。

(3) 同時に丁寧なアセスメントにより支援ニーズを把握し、積極的に生活保護等の既存制度に繋げること。

(4) 上記の支援の実績や聞き取った支援ニーズ等を分析・検証し、さらなる感染拡大時や感染収束後の景気悪化による生活困窮者増加に対応するための知見を得ること。

では順に解説していきます。


まず(1)について、現在も行政による巡回相談事業が行われていますが、積極的に早期のホームレス状態にある人々を見つけにいくアウトリーチを強化し、とにかく早く何らかの支援に繋げるよう図ることが必要です(もちろん本人の意思を尊重した上で、です)。民間支援団体もノウハウを持っていますので、連携したりその活動を行政が支援することも望まれます。ネットカフェなどに出向いていくことも有効かもしれません。

続く(2)では、アウトリーチで発見した早期ホームレスの人が一時的に過ごすことができる居室を確保することです。防疫的な観点から、現状ではロンドンのNSNOのセンターのように特定の場所に人を集めるような手法は避けたほうが無難です。ひとまずは安心してその晩またはしばらくの間生活することができる個室が必要です。これは、公的な施設を利用することでも可能ですし(10年前に公設派遣村として国立オリンピック記念青少年総合センターを利用した実績がある。注5)、現在の外出控えにより空室となっているホテルを行政が借り上げることで確保すれば、経済政策的な側面も持つことになります。

また、直接宿泊料を援助することでもよいと思います。こうした取り組みは民間の支援団体によって既に形作られていますが、やはり資金面などで量的な限界があるため、行政による支援が必要です(注6)。

(3)に関しては、シームレスに(継ぎ目なく)必要な支援を投下することが必要です。必要であれば生活保護等、既存の制度を積極的に利用できるよう運用される必要があります。最初に入居するホテル空室等の個室で深いアセスメントを行い必要な支援を見極めるとともに、入居先を決める必要があります(前述のように東京では低額な居宅を探すのが難しいので、こうした猶予期間を過ごせる場所が必要です)。こうした対応は民間支援団体にもノウハウがありますので、ここでも官民が連携しながら進めることが望まれます。こうしたプロセスが、東京において現実可能かつ防疫上の配慮がなされたハウジングファーストモデルといえるでしょう。

公的扶助も利用しながら安全な状況でしばらくの間を過ごし、ある程度コロナ感染の広がりなどの社会環境が改善したら元気な人は働いて稼げるようになればよいのです。

最後の(4)について。今回のコロナウイルス感染がどの程度の規模・期間で続くのかということと、それに伴う経済活動の停滞と不況についてもその規模と期間が不透明です。どれほどの影響があるか予測するのは難しいですが、こうした不安定居住状態の人々が増加することは間違いないでしょう。

まだこうした層の人々への「住まい」についての支援実績の蓄積が少ない日本(東京)について言えば、どのような支援が可能で、また効率的なのかということを冷静に分析し検証し、今後(平常時も含め)の政策立案や制度運用に役立てる必要があります。

以上をまとめると、民間の力も活用しつつ各段階での支援がシームレスに(継ぎ目なく)届くような体制を整えた上で、行政による安全な個室確保が果たされることが重要だと考えられます。


③現に「住まい」を失っている人への支援

前回の記事で、現に路上で生活している人々に対してもコロナ対策の観点から今「住まい」の支援が必要であることについては述べましたが、具体的には先に挙げた②の人への支援をほとんど援用することができるでしょう。

いずれにせよ本人の意思を尊重することは必要条件ですが、そもそもハウジングファースト政策は、複雑な支援ニーズを持った人に対する支援手法としてはじまったものです。大部屋での集団生活はコロナ対策という防疫上の観点を差し置いても問題視されてきましたが、こうした危機的状況を機に、「プライバシーが確保され安心して住まうことができる居宅」が支援の基本であるとの考えにシフトチェンジすることが望まれます。

以上、少し長くなりましたが、①〜③それぞれのステージに必要な支援について考察しました。


◆変化することを恐れず、社会のあり方を再考する

今回の要望のうち、特に②の居室確保や賃料補助に関しては、実施するのであればかなりの規模の税金による負担となります。しかし、こうした不安定な社会環境で人々の不安が蔓延している今のようなときこそ、誰もが安心して「住まい」を確保できるという安心材料が必要になります。新型コロナウイルスへの対応に迫られた日本社会は、「住まい」に対して今まで十分な資源を投下してこなかったことのツケを払わなければならないかもしれません。ですが、こうした機会に、不十分であった「住まい」への支援をアップデートするべきです

地震などの自然災害や今回の大規模なウイルス拡大といった自然の猛威が襲いかかるときは、私達の社会のあり方が問われるときです。特に、こうした際には経済的に困窮している人や弱い立場にある人々がそのダメージを受けてしまいます。そうした人々をいかにして守ることができるかを皆で知恵を出し合い導き出す力こそが都市の力だと思います。それこそ、成熟した都市として五輪・パラ五輪開催を目指す東京では、社会的弱者をいかに包摂するかは非常に重要なテーマです。

既存のシステムの問題点が浮き彫りになり、非常に不安定な状況に陥りますが、冷静に状況を分析し、助け合いによって互いの力を最大化しながら、クリエイティブに解決策を考えることで困難な状況を乗り越えることができるはずです。

今回の要望は都をはじめ都議会議員や厚生労働省などに対し継続的にお願いをしていくことになります。その際、みなさまからのご賛同を、ウェブ署名で集めています。ぜひ、お力をお貸しいただければと思います。

ウェブ署名はこちらから;コロナ不況で住まいを失う危険のある生活困窮者、路上生活者への緊急支援を求めます!!」

注釈)

1. ホームレス総合相談ネットワーク後閑氏より

2. 2012 年五輪・パラ五輪を契機としたロンドンにおけるラフスリーピング政策の展開と実態(河西奈緒、土肥真人)日本都市計画学会 より

3. 行政機関が締結している公共空間におけるホームレス・プロトコルの研究-オーストラリアNSW州シドニー市を対象として- (北畠拓也、河西奈緒、土肥真人)日本都市計画学会 より

4. 例えば、一般社団法人つくろい東京ファンドは寄付等によって個室シェルター(アパート)を借り上げ、他団体と協働でハウジング・ファースト型の支援を実施している。(コロナ危機に対応するための個室シェルター増設にご支援下さい!

5. 2010年のしんぶん赤旗の記事;公設派遣村 入所833人宿泊施設移動ワンストップの会「路上生活に戻すな」

6. 例えば、東京アンブレラ基金では「誰も路頭に迷わせない東京をつくるため、9団体協働で緊急一時宿泊時の宿泊費拠出と横断的な調査」を行っており、今夜行き場のない人に対して宿泊のための3000円を支援している。

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