渋谷区立美竹公園の再開発をめぐる資料アーカイブ+暫定メモ
2022年10月25日、渋谷区が区立美竹公園を封鎖した件について、情報公開制度等を用いて入手した関連資料をアーカイブし、メモを記す。ただしメモについては、現在入手できている資料に基づく断片的なものであるため、暫定的かつ個人的な見解にとどまることをご理解いただきたい。
参考までに、都市公園の開発及び路上生活に関するコンフリクトに対する筆者のスタンスを冒頭に示しておく。
0. 筆者のスタンス
公園の再整備・再開発については、近年PFIなどの手法により民間の力を利用して都市公園の活性化を図る動きが活発化している。筆者はこうした手法や発想自体を否定するわけではないが、公共空間のジェントリフィケーションないし資本化による功罪両面を見るべきであり、改めて公共空間の意義を議論する必要があると考える。公共空間が都市空間における、ある種の緩衝地帯であり、行き場のない人も含めた多様な人々を受け入れる場であり、社会的課題が顕在化する空間特性を持つことに鑑みると、過度に商業空間化が進むことには訪れる人を選別・排除する可能性をはらむ。また、公共空間の商業空間化はそうした社会課題を不可視化し得る。公共空間の意義については、利用する人々の多様性はもとより、社会課題解決に寄与する場となっているか、という観点が重要だと考える。
また、公共空間で生活を送る人々に関しては、多くの場合他に住居を得られない何らかの事情があり、やむなく路上生活に至っている。生活保護を始め「包摂」施策はあるものの、路上生活者が利用した際の制度内の処遇格差や差別もいまだに散見され、既存の制度利用によって健康で文化的な生活を担保できないこともあり得る。もちろん理由如何によって、路上生活者がその場から移動しなければならないことはあり得るが、その場合は強制的な排除ではなく、本人の意志も尊重した代替的な措置が講じられるべきである。その際、「排除」か「包摂」かの選択を迫ることは公正な態度とは言えず、収容的な措置に転じる危険をはらむ。強制的な排除を行なわない前提において「包摂」施策の選択肢が示されるべきだと考える。
※この辺りの話題については、かなり前の記事だが詳しく書いたものがあるのでそちらを参照されたい。→「『公園とホームレス』から、これからの都市の空間を考える」
筆者のスタンスを述べるのはここまでとし、以下では美竹公園再開発に関する資料を読み解きつつ、<メモ>として若干の考察を加える。
1. 10月25日美竹公園利用禁止の根拠
報道などによれば、渋谷区は2022年10月25日の早朝から予告なく美竹公園を封鎖したとのことだ。これまで都市公園で起居する路上生活者に行政側が立ち退きを迫ることはしばし見られたが、事前告知なく、かつ一時的であれ路上生活者を閉じ込めるような状況に至ったということは異例だろう。
そこで、こうした強行的に思える介入に至った経緯や根拠を把握するため、以下の文言で情報開示請求を行なった。
これに対して開示された資料は以下の通りである(資料番号は筆者が便宜上振ったもの。以降の資料でも同様。)。
1-1. 渋谷区立美竹公園の利用禁止について
1-2. 工事設計書
1-3. 特命随意契約依頼書
1-4. 契約締結請求書
1-5. 契約書
1-6. 契約締結通知書
(資料1-1)P4「渋谷区告示第190号」によれば、美竹公園の利用を禁止する根拠として「渋谷区立都市公園条例(平成8年渋谷区条例第17号)第14条の規定」に基づくとある。
<メモ>本件は「…公園に関する工事のためやむを得ないと認められる場合」とみなし、上記を適用したものと思われる。ところで(資料1-1)によれば、公園の利用禁止に関する決裁について、起案から決裁(区長決裁)、及び告示が全て令和4年10月25日となっており、こうしたプロセスが1日で完結することは(例えば災害等で公園が損傷し危険な場合などではないため)特異な印象を受ける。なお報道などによれば同日早朝に美竹公園への介入が行なわれているが、実際に公園を封鎖した措置と本件告示の前後関係は不明である。
続いて、実際に行なわれた工事がどのようなものであったかをみていく。
(資料1-2)によれば、工事名は「仮囲い等設置工事(美竹公園ほか)」であり、施工理由は「美竹公園内の公園施設及び占有物件の撤去工事において、複数の事業者が断続的に工事を行うことに加え、旧美竹分庁舎の適切な維持管理や防犯対策及び安全維持を行う必要があることから、区にて仮囲い等の設置を行うため、本工事を施工する」とある(ここで言ういわゆる「占用物件」は、許可を受けた物件・施設、つまり電気通信設備や防火水槽などを指していると思われる)。
(資料1-2)工事設計内容および(資料1-3)特命随意契約依頼の決裁が10月12日、(資料1-4)契約締結請求書の決裁が翌13日、(資料1-5)工事請負契約書が締結されたのが17日であり、工期は10月17日から31日までである。
(資料1-2)によれば、仮囲い設置工(3,958,800円)、安全費(3,432,000円)、資機材費(1,672,600円)を含め、総額は11,473,000円である。安全費には、警備費(60人、2,640,000円)、交通誘導警備員費(18人、792,000円)を含む。
(資料1-3)では、特命随意契約という形をとる理由についての記述がある。
<メモ>今回利用禁止された面積は939.33平米であり、仮囲いもこの範囲を対象としたものと思われる。ある程度の外周長があるとは言え、高額である印象をうける。内訳を見ると、予定している警備員数がのべ78名となっており、(実際に工事に要する日数にもよるが)あらかじめ多くの警備員の動員を見込んでいたことが窺える。敷地内で野宿している人がいるという認識を持った上で、上述のように利用禁止にいたる拙速とも思えるプロセスと合わせて考えると、人道的配慮に欠く強行的な介入であったと考えられる。
2. 都市計画変更のプロセス
本項では、美竹公園及び隣接地の一体的な再開発について、都市計画的なプロセスに関する資料を把握し、これまでと今後予定される開発の決定プロセスを確認する。情報公開請求を用いて開示した資料のうち、関連のあるものは下記のとおり。
2-1. 第157回渋谷区都市計画審議会速記録
2-2. 第158回渋谷区都市計画審議会速記録
2-3. 美竹公園の都市計画の変更(素案)について
2-4. 美竹公園の都市計画の変更(原案)について
2-5. 都市計画の案の理由書(原案)
当該開発「渋谷一丁目地区共同開発事業」は、「都有地をいかしたまちづくり」の一環である「都市再生ステップアップ・プロジェクト」の渋谷地区における第2弾と位置づけられている。美竹公園(区有地)、隣に位置する児童会館跡地(都有地)、さらにその隣の旧第二美竹分庁舎(区有地)からなる敷地9,670.81平米を対象とする、渋谷区と東京都による共同開発事業となっている。大まかなスケジュールは下記の通り(資料2-3による)。
令和4年3月、事業予定者はヒューリック株式会社及び清水建設株式会社からなるグループ「Link Park」に決定した。当該開発全体の実施方針等は東京都都市整備局のウェブサイトに詳しい。
以下では、特に美竹公園に関する都市計画変更についてのスケジュールを見る。
今後は、公告・縦覧ののち、都市計画審議会での付議を経て、都市計画変更・告示までを令和4年度内に行なう予定とのことである。
続いて、美竹公園の再整備について見ていく。現状の課題として「1.スペースの不足や遊具の老朽化」「2. 公園利用者の移動の不便さ」「3. 見通しの悪さや周囲への圧迫感」をあげ、それぞれへの対応方針を「①インクルーシブな公園」「②アクセシビリティの向上」「③見通しのよい安全・安心な公園」としている。また、新たに創出される効果として「1. 多様な地域コミュニティの形成」「2. 防災機能の強化」をあげ、これらに対応する効果として方針「④多様な人々が集まる憩いの場の創出」「⑤災害リスクに対応する機能の拡充」としている。
再整備に伴う都市計画の変更については、立体都市公園制度を活用し、地下空間を公園区域から除外することを旨としている(資料2-3、2-4)。また、公園面積は約0.29haとあり、都市計画変更後も平面区域は「変更なし」となっている。すなわち、素案・原案によれば、地上部分は現行と同様の区域を街区公園とし、地下空間を避難所等に用いることができる多目的ホールとすることが示されている。
以上を踏まえ、特に路上生活者に関係すると思われる議論を抜き出して紹介する。まず、意見交換会における質問と区の回答は以下のとおり。
続いて、都市計画審議会における議論をみる。以下に紹介するのは7月15日に開催された第157回のもので、幹事から計画(素案)について報告したのちの委員からの意見や質問である。本件については(資料2-1)のP25以降である。
<メモ>
まず意見交換会での質問に対する回答や、都計審にでのインクルーシブの意味について問う質問への回答は、議論が噛み合っておらず、回答になっていない。区は真摯に回答すべきだ。
また、今回美竹公園に適用される立体公園制度は、都市公園の下部空間の利用の柔軟化を図ることを目的の一つとするものであり、素案・原案にあるように地下利用を図る旨は制度の趣旨に沿うように思われる。ただし、「都市公園法運営指針(第3版)」では以下のような記述がある。
過去に宮下公園では屋上を公園とする整備が実施され、アクセス条件等が大きく変化した。現行の素案・原案では地下利用を図る旨としており、また災害時の一時避難場所であることも踏まえ夜間施錠しない方針であるとのことだが、今後も注視・検証する必要があるだろう。
また、原則として都市計画の変更を行なう際には、都市計画審議会の付議を経る必要があり、本件も美竹公園の計画変更についてはそうである。しかしながら、本件については隣接する敷地との一体的な開発である。隣接の公有地におけるジェントリフィケーションないし資本化による空間特性の変化は美竹公園にも大いに影響を与えるだろう。本件の都市計画変更についても、そうした全体像の中で捉えられ、議論がなされることを期待したい。
なお公共空間の再開発においては決定プロセスの公正さも含めて検討されるべきだと思われるが、都市空間における公共空間の意義に踏み込んだ議論がなされる機会は残念ながら非常に少ないのが現状のようだ。
冒頭の筆者のスタンスで挙げたような観点が本件において果たされるかについて、事態の推移を今後も注視することとする。
3.参考資料
(主な報道)
「利用禁止の渋谷・美竹公園、生活者らの出入りは可能に」朝日新聞/2022年10月26日
https://www.asahi.com/articles/ASQBV6W0QQBVOXIE02Z.html
「ここで生きつないできたのに…」長年炊き出ししてきた渋谷・美竹公園、再開発のため突如封鎖、これからどこで…」東京新聞/2022年10月31日
https://www.tokyo-np.co.jp/article/211061
(渋谷区の発表)
「旧第二美竹分庁舎の閉鎖および美竹公園利用禁止に伴う仮囲いの設置について」渋谷区/2022年10月25日
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kankyo/machi/shibuya_eki/stepuppj.html
「旧第二美竹分庁舎の閉鎖および美竹公園利用禁止に伴う仮囲いの設置について(詳細)」
渋谷区/2022年10月25日
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kankyo/machi/shibuya_eki/stepuppj_syosai.html
「旧第二美竹分庁舎の閉鎖および美竹公園利用禁止に伴う仮囲いの設置について(これまでの経緯)」渋谷区/2022年10月28日
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kankyo/machi/shibuya_eki/stepuppj_keii.html
「準備工事の着手に向けた仮囲いの追加設置工事の実施について」渋谷区/2022年12月8日
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/kankyo/machi/shibuya_eki/stepuppj_junbikouji.html
(支援団体側の意見)
「弁明書」渋谷・野宿者の生存と生活をかちとる自由連合(のじれん)/2022年12月8日
https://12e4cab4-c289-363a-652f-100997c5e446.filesusr.com/ugd/6da31d_e53852a818604b6fa625e0bb9b28c49c.pdf
(法律、条例など)
都市公園法(昭和31年法律第79号)
https://elaws.e-gov.go.jp/document?lawid=331AC0000000079
都市公園法運用指針(第3版)国土交通省都市局/平成29年6月
https://www.mlit.go.jp/crd/park/joho/houritsu/pdf/H290615toshikouen-shishin.pdf
渋谷区立都市公園条例(平成8年3月29日 条例第17号)
https://www.city.shibuya.tokyo.jp/reiki_int/reiki_honbun/g114RG00000392.html
(公共空間でのジェントリフィケーションについて学ぶために)
「日本の都市においてジェントリフィケーションを理解するために ――公共空間からのアプローチ」原口剛/2022年,『縮小社会における法的空間 ケアと包摂』pp.46-62,日本評論社
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