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42 Tokyo事務局長佐藤氏とのインタビュー

2023年10月初旬にデジタル人材学会は、フランス発のエンジニア育成機関の日本拠点である一般社団法人42 Tokyoの副理事長 兼 事務局長である佐藤大吾氏とデジタル人材育成学会会長 角田とインタビュー対談を行いました。今後の日本のデジタル人材のための参考事例として、デジタル人材育成の最先端組織の42 Tokyoの取り組みのご紹介をしたいと思います。

主に下記の4点を中心に佐藤氏にインタビューをさせて頂きました。

1.       42 Tokyoの特徴である「学生同士で学び合う」ための仕組みやコツ、課題について
2.       ITエンジニア育成のための対面形式の学習効果や今後の展望について
3.       「日本人ならでは」の42 Tokyoの学びの特徴について
4.       フランス本部含む世界中の各キャンパスとの関係性・連携について

【42 Tokyo概要】
フランスの実業家が2013年に設立した「42」は、学費無料のソフトウェアエンジニア養成機関です。2020年6月に日本初のキャンパス「42 Tokyo」が開校し、現在世界31か国(2023年10月時点)で展開されています。42は経歴不問・学費無料・24時間オープンのキャンパスで、18歳以上であれば誰もがプログラミング学習に挑戦できる環境を提供しています。学費が無料であること、最新のカリキュラムで学べること、またどんなバックグランドであっても挑戦できるという点で注目を集めています。運営は多数の企業から寄付などの支援で成り立っています。
(42 Tokyo Webページ<https://42tokyo.jp/news/2023-03-31-x-qfmws3k7/>より転載)


24時間の学びの場の提供とピアラーニング


----42の特徴の一つである「24時間運営」「ピアラーニング」の特徴や課題感についてお聞かせください。

(佐藤)42では24時間の学習の場を学生に提供しています。朝の教室は比較的静かで、夜は賑やかな傾向があるようです。朝よりも夕方から夜にかけて人が増えるというのは、エンジニアリングを学ぶ世界中の学生に共通しているように感じています。また、社会人として企業で働きながら、仕事を終えたあとにキャンパスに来て学んでいる方もいます。それゆえ、一般の大学のように朝9時から夜までの授業時間を設け、夜間は閉鎖をしてしまうと、42 Tokyoの学生にとって快適な学習環境を提供していると言うことは難しいと感じています。

私たちが提供する学習スタイルは、一般的な学校のように先生が生徒の前に立って講義を行うスタイルではなく、先生はおらず、学生同士が積極的に学び合う「ピアラーニング」という方法を採用しています。42のこのアプローチは世界的にも注目されており、メディアなどでも度々話題にして頂いています。このピアラーニングを実現する上では、多くの学生が集まる状態を創ることが重要です。24時間いつでも学習の環境として使え、学生同士が誘い合って集まれる場、また、たまたまその場(キャンパス)に居合わせた先輩・後輩が切磋琢磨して演習問題を一緒に質問しながら解いていく場の創出という観点では「24時間」という運営形式は非常に大事であると考えています。

もちろん24時間運営をするためにはそれ相応のコストがかかります。42では学費は無料というポリシーですので、運営維持のためにはパートナー企業をはじめ、42 Tokyoの設立に主導を頂いたDMM(合同会社DMM.com)のサポートによって成り立っています。DMM本社内に42 Tokyoのキャンパスも設置されています。24時間オープンを持続するためには、やはり企業の協力が不可欠で、企業の皆様に継続的な支援をいただくことが学生にとって快適な学習環境の提供を実現するための課題に当たると思います。

コミュニケーションに強いエンジニアを育てるための仕組み


---- 学生同士が学び合う“ピアラーニング”が特徴であることを理解しましたが、日本人同士知らないメンバーで教え合うことは心理的なハードルも高いのではないかと思います。実際、学生は期待通りに学び合いを行えていますか。

(佐藤)事実を申し上げると、世界中の42キャンパスに共通するやり方は、日本でも“できています”。キャンパスはフリーアドレスになっていて、パソコンの前に座ってログインすると、在席していることが周知されます。自分の学習レベル(※42では習熟度別にレベル0−21まで認定される仕組み)が在籍している相手に見え、自分自身も相手のレベルが分かります。例えば、自分がレベル5で、今まで話したことない人だけれどもレベル7の人がキャンパスにいることがわかると「すいません。ちょっと教えてもらえませんか」と質問をする場面がキャンパスではよく見られます。

この「話しかける勇気」を持てるかどうかが42で生き抜くために必要な力になります。我々42は“学歴や経歴に関わらず、挑戦したい人には質の高い教育を提供すべきだ”と考えており、コーディング未経験者でも大丈夫という前提で学生に入学をしてもらっているので、「学び続けたいのであれば質問する」という姿勢が重要になります。この姿勢は、就職するなり、独立するなり社会で生き抜くために一人前のエンジニアとして旅立つときにとても大事なスキルになると思います。

一方でレベルが上位の教える側にも、教える動機付けが必要で「質問される側の姿勢」というのもきちんと評価する仕組みにしています。仮に、自分よりレベル下位の学生を邪剣にするようなことがあれば、その人の評価は低くする仕組みを取っています。

我々は「コミュニケーションに強いエンジニアを育てる」ことを目標に掲げていますので、この教育アプローチは世界各拠点を見ていても上手くいっていると言えるのかなと思います。話し声が絶えないキャンパスになっており、学び合う上で東京キャンパスも良い雰囲気になっています。

---- キャンパスで会話が絶えない、とても楽しい学びの場の雰囲気が伝わってきました。もともと「コミュニケーションに強い」コンピテンシーを持っている学生が入学できるようになっているのでしょうか。

(佐藤)そうですね。我々の試験は「Piscine(ピシン)」と呼ばれる、入学試験を課しており、その入学試験は4週間にわたります。入試期間中もキャンパスは24時間オープンしていて、その期間中はいつでも受験生は訪れることができます。課題はゲーミフィケーション的な要素を取り入れて、次々と出てくるモンスター(課題)を倒していくようなイメージです。分からないことがあれば、受験生同士が質問することも奨励されているので、自然と教え合いながら取り組むように進めています。
この入学試験の中で、ある程度「コミュニケーションができる」素養を持っている方々を選抜して、42の教育カリキュラムを受容できる学生の皆さんに入学いただくようにしています。
24時間運営は、学生同士で学び合う環境作りのための仕組みのひとつに包含されるような位置づけのため、見出しからは削除させていただきました。
学生は日本国籍以外の方も通っているため表現を調整させていただきました。

対面の形式がITエンジニア人材育成の近道


---- 新型コロナ禍もあり、オンラインで本教育プログラムを提供していた時期もあったと伺っています。現在の42 Tokyoの方針を教えてください。


(佐藤)42 Tokyoは3年前の新型コロナ禍に開講(2020年6月)しましたので初期は対面形式でしたが、途中から一斉にオンラインに切り替えて最近まで運営を実施しておりました。新型コロナ規制が5類に移行され、パリの本部からも再び対面で行うよう方針の切り替えが行われました。

私自身も対面とオンライン双方の学習効果の検証をしているところです。例えば我々の学習の仕組みとして、今のレベルから次のレベルに進級する期間に期限を設けています。期限内で進級できないと退学になってしまいます。この退学率という観点でも、明らかに対面形式のほうがオンラインよりも低い傾向性が見られます。

----- 現在は対面での学習に戻っていることを理解しました。また教育効果もデータに基づき、きちんとアセスメントされている点も素晴らしいと感じました。日本のデジタル人材やエンジニアの育成において、対面学習の教育効果に関するデータがあることは、非常に価値のある情報だと思います。

(佐藤)私自身も42 Tokyoを経営する立場とともに、教育者としての視点を持って運営に取り組んでいます。教育環境において、対面学習の方が効果的であるということは、すでに一般的に認識されていると考えています。その理由は、やはり学生同士の直接のコミュニケーションが成り立ちやすいため、相手のリアクションや状態をより感じ取りやすいからです。例えば、パソコンの前に座っている先輩が隣にいると、話しかけやすく、相手の状態も把握しやすいです。しかし、オンラインではコミュニケーションが制約され、相手の反応を把握しにくいことがあります。

一方で、働き方としての”リモートワーク”に関しては、効率性だけでなく、エンジニアたちの働く満足度や柔軟な働き方についても考慮する必要があるでしょう。企業によっては、リモートワークを強く奨励・推進しており、柔軟な働き方を提供していることも我々も理解しています。エンジニアたちの働く満足度と効率性をバランスよく保つことが求められています。働くという観点では、オンラインも大きな選択肢になることも事実だと思います。

一方で、ITの仕事は日々学びながら進行することが一般的であり、対面の方が学び合う環境とは適していると言えます。技術の進歩が速いため、コミュニティを含む周囲の人間関係の中で、鮮度の高い情報を活用しながら学び続けることが重要です。42 Tokyoでは、リモートワークも主流となる現代社会において、学生が対面で学ぶ・働くことの良さを気づける機会を提供してきたいと考えています。

----- 経営者・教育者双方の視点で「対面」の重要性について私も大学人として共感を覚えます。一方で、日本国内のキャンパスが東京に限定されるべきか、という疑問が浮かびます。今後の展望や計画などについてありましたらご共有頂ければと思います。

(佐藤)新型コロナ禍で立ち上げた42 Tokyoですので、3年経ってやっと通常運転ができる状態になってきたと感じており、まずは42 Tokyoに集中をしていきたいと思います。とはいえ、人材の確保が難しい日本の各地域・自治体や企業からもお問い合わせやサポートのリクエストが寄せられていることも事実です。
実際フランスでは、パリ以外にも複数の拠点を持っています。フランス国内でもノルマンディーやリヨンなど他の地域にキャンパスがあります。将来的には、日本の様々な地域でIT人材を育成し、雇用を創出し、働き方やウェルビーイングについても考え、貢献できるよう取り組んでいきたいと個人的には考えています。

----- 今後日本の各地域で仮に拡大をしていくとなると想定される課題はありますか。

(佐藤)やはり、運営するためのコストが課題となります。対面学習スタイルですので、施設と設備への投資が必要であり、学生同士が学び合うために現地でサポートするスタッフチームと、パートナー企業によるサポートが不可欠です。42 Tokyoを支えてくださる寄付のお願いなど法人営業に加え、42 Tokyoの認知度を高める必要がありますので広報やPRも頑張っています。

一方で、我々42はいわゆる人材紹介業はやりません。スポンサー企業の皆様に重々その点は理解を頂いており、企業の皆さんには、採用広報の一環として、またCSRやソーシャルインパクトとして42というブランドを活用頂けるように我々も努めています。オールジャパンでいろいろな国内企業に支えて頂きながら「コミュニケーションに強いITエンジニア」を育てていきたいと思います。

日本ならではの42の運営体制・オペレーション


----- 数年間運営をされて、42 Tokyoが他国とは異なり、日本における独自の気付きや課題がありましたらぜひ教えてください。

(佐藤)そうですね。教育方針やメソッドについて、42はピアラーニングという方法を導入していることを紹介いたしました。これは教え合い・学び合いの一例で、教育メソッドを含めて非常に注目を頂いています。もう一つ我々の教育メソッドの特徴として、ゲーミフィケーションという要素を取り入れていることがあります。演習課題が提示され、それを解決するプロセスがゲームのように進行します。演習課題を解くたびに経験ポイントが得られ、これを蓄積し、レベルアップしていく仕組みです。いわゆる個人で実施する問題解決型学習=プロジェクトベースラーニング(PBL)です。基本的に個人での取り組みとしてのPBLは、ヨーロッパの国々では個人主義が強いため、メソッドとしてフィットしていると感じています。

一方、日本は「和」を重んじ、協力的な文化が根付いているため、ピアラーニングやチームで課題解決を行うことが一般的です。学生同士が協力し合い、演習課題に取り組む姿勢が日本人に合っていると感じています。また、フランスは高等教育において非常に競争が激しく、勉強する者は勉強し、そうでない者は競争から脱落するという傾向があります。このような特徴が、フランスの運営側のスタンスにも表れています。

かたや、日本は学生に寄り添い、個別のサポートを提供し、学生のモチベーションを高めることに意識を持って取り組んでいます。日本は学生同士の助け合いの精神が強いと感じます。この互助の学習の結束性は、間違いなく日本人は強いと思います。

また日本人中心の学習環境における課題は、やはり「質問する勇気・力」だと思います。相手の状況や場の空気を考慮しすぎてしまい、質問ができないという場面もキャンパスでは見受けられます。やはり、日本人は奥ゆかしい国民性、遠慮がちな傾向があり、世界の42の学生と比較すると課題になるのだと思います。

----- フランス本部との関係性の中で、42Tokyoでの連携方法や取り組み、特色があれば教えてください。

(佐藤)フランス本部は設立から10年が経ち、42を運営する上での様々な経験値を持っています。一方で設立から10年経ても進化を志向し、まだまだ様々なトライアンドエラーを繰り返ししている状態です。我々は経営レベルだけでなく、キャンパス運営や法人営業部門同士が頻繁にコミュニケーションし、ノウハウや成功事例の共有を行っています。現在51箇所にキャンパスがあります(2023年10月時点)ので、フランス以外も含めてコミュニケーションを図り成功事例を共有できていることは特色の一つではないかと思います。

先日42設立10周年のイベントがパリで開催され、様々なキャンパスの代表と会話する機会があったのですが、一つ面白いなと思ったのは日本が、最も愚直に、真面目にフランスのやり方を踏襲しているなと感じました。ある意味、我々42 Tokyoの特色ではないかと思います。

----- 他国のキャンパスと情報共有される中で、興味深い事例がありましたら教えてください。

どのキャンパスも24時間開いてますので、結構、キャンパス内で食事を取ったり、休憩したりする学生同士がしている光景が見られます。日本にはまだ設置していないのですが、各国のキャンパスで多いのが卓球台を置いてあることです。42では、学生のリフレッシュのために快適な学習環境を提供することも運営の役割として求められており、その一つの方策として面白い事例だなと感じました。

またアジアという枠組みで、韓国やタイなどアジア内のキャンパス同士で頻繁にコミュニケーションをしています。アジアの中での文化特性や価値観で企画をディスカッションしてコンセンサスを取って、フランス本部とも密に協議をしています。例えば大学でいう「学生部(Student Affairs)」のような取り組みは日本含むアジア独自の取り組みです。フランス本部側も柔軟に対応してくれるので、42の基本理念やカリキュラムを大事にしつつ、独自の取り組みができることも特徴であると思います。

---- 非常に貴重なお話をお伺いできありがとうございました。「コミュニケーションに強いITエンジニア」育成のために、42の「ピアラーニング」「対面学習」のような教育メソッドだけでなく、その運営の裏側や世界中のキャンパスとのつながりについて情報を共有頂いたことも非常に重要な機会となりました。


インタビュー実施日 2023年10月2日
文責:デジタル人材育成学会副会長 中村健一


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