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励まし合いながらデジタル技術取得とキャリアをデザインする女性デジタル人材育成 〜 愛媛デジ女プロジェクトの取り組み

キーワード:デジタル技術取得のために学び励まし合う場の提供、選択する力を養うキャリア教育
 
デジタル人材育成学会では日本各地域のデジタル人材育成事例の調査活動を行っています。「女性」✕「地方」という観点で”マイナスからゼロ〜そしてイチ以上へ〜”と一歩ずつ着実に裾野を広げる女性デジタル人材育成をしているのが「一般社団法人愛媛デジタル女子プロジェクト」(通称:「愛媛デジ女プロジェクト」)です。2024年2月に一般社団法人愛媛デジタル女子プロジェクト代表理事 飯野めぐみさんに活動の取り組みやデジタル人材育成の観点で見えてきた課題、今後の展望についてインタビューを行いました。
(聞き手:デジタル人材育成学会副会長 中村健一)
 


◆ 学び励まし合う場とキャリアデザインの両輪で実現する女性デジタル人材育成


中村: 「愛媛デジタル女子プロジェクトの設立」の背景、女性デジタル人材育成の思い・狙いについてお聞かせください。

飯野: 愛媛デジ女プロジェクトは、新型コロナ禍の2021年からNPOとして取り組みを開始しました。地方に住む女性の働き方・生き方に対して、学びや就労への閉塞感や孤独感を解消しようという思いが発端です。またデジタル化社会の潮流が進む中でオンライン技術は大きな可能性を秘めていますが、その活用に対して、地方に住む女性の恐れや不安があることも感じていました。例えば、企業では一般になったZoomやTeamsのようなオンラインツールも、触れたことがなく抵抗感のある女性がいることも事実です。その心理的な不安や抵抗感によって、新たな人生やキャリアのチャンスを逃してしまうことはもったいないと思っていました。そこで、「デジタル技術の取得サポート」と「キャリアデザイン」という2つの軸で、愛媛県内の女性デジタル人材育成の取り組みとして開始をしたのが「愛媛デジ女プロジェクト」です。「自分らしく働く女性の活躍+愛媛の経済活性化」を目的に活動をしています。
 
中村:具体的に「愛媛デジタル女子プロジェクト」はどのような取り組みを行っているのですか。
 
飯野: 大きくは「基礎的なデジタルスキル習得のサポート」「企業のニーズと女性のスキルをつなげる体制づくり」「イベントや座談会を通した生き方や働き方を考える機会の提供」「デジタル技術のためのコミュニティ「デジトレ」運営」の4つを柱に活動をしています。
「デジタルスキル取得のサポート」に関しては、Google社が提供するオンライン教育コンテツを活用して『デジタルマーケティングの基礎』講座やIBM社が社会貢献活動として提供する「IBM SkillsBuild」などを通して、受講生の皆さんのデジタルリテラシーの底上げを図っています。教育コンテンツに関しては我々運営側が企業側に求められるスキルをきちんと目利きをして、参加者が継続して学習をするために質の高い学習リソースを探し、提供するようにしています。ポイントは、独学ではなく、コミュニティを通じて受講生同士が学びや悩みを共有し、お互いの学習状況を確認しながら知識習得・能力開発を進めることで、途中で”諦めずに”デジタルリテラシーの獲得を目指す取り組みをしていることです。楽しくみんなで励まし合うことでモチベーション高く学んでいける場の大切さをこの取り組みから実感しています。
 
また、Google社の『デジタルマーケティングの基礎』講座を含めGoogle デジタルワークショップは終了をすれば、認定証が発行されるため、受講生の就職・転職活動において、学びの記録やスキルを証明するためにとても役に立っています。実際に、今まで接客業や事務職の経験しかなく、デジタルには縁遠かった方々が、本取り組みでデジタルマーケティングについて積極的に学び続けることで、実際にデジタルを活用する職も得ているメンバーもいます。デジタル技術習得に挑戦をしたことが、自信となり、自身のキャリアに対する価値観や目標を変え、就労観を変えていくことができていると感じています。
 
「生き方や働き方を考える機会の提供」という軸では、私自身が国家資格キャリアコンサルタント資格を持っているため、一人ひとり寄り添いながら、各自のライフステージにあったキャリアや希望に合わせた働き方を選択できるようにすることを目指し、自身の中長期的なライププランやキャリアについて考える機会を提供するようにしています。受講生は、主に産休や育休などを含め「働きたくてもいろいろな制約があり働けていない女性」を対象にしていますので「自分らしくアップデート」をするをコンセプトに一人ひとりがデジタル技術を活用しながら「自分の人生を選択できる力」=キャリアデザインを身に着け一歩踏み出していけるようなサポートを心がけています。
 
 

◆ 女性デジタル人材のつながり人口を増やす


中村:「愛媛デジタル女子プロジェクト」でのデジタル人材育成教育という観点で見えてきた課題やご苦労はありますか。
 
飯野: 実際に取り組み始めて2つの課題が見えてきました。1つ目は例えばGoogleのデジタルマーケティング講座も含め、やはりデジタルリテラシーを習得する学習は決して簡単なものではなく、個々人の適性有無があるのも事実だと感じています。私達は「教える」というスタイルではなく、「一緒に学んでいく」というスタイルを取っているので、まずはデジタル技術に対して学習をしていくという「挑戦の精神」を大事にしています。大人になってから学ぶ、つまりリスキリングはやはり容易ではないので、お互いに励まし合う環境を作ることを意識しています。2つ目は運営側のマンパワーです。私たちのデジタル人材育成は「マイナスをゼロ」にする底上げをし、一歩踏み出せるように背中を押す教育なので、オンラインツールやパソコンの操作そのものに抵抗感がある方々多くいらっしゃることから、その分サポートのための工数や時間がかかります。一人ひとり寄り添いながら、デジタルリテラシーを向上するためにはやはりサポートする側の人数を増やしていかなくてはならないという課題もあります。
 
中村:「愛媛デジタル女子プロジェクト」の取り組みを見ていると教育カリキュラムはカチッと固まっているよりも、採用企業側のニーズや育成対象の方々の属性に応じて柔軟にプログラム提供をされているように感じます。
 
飯野: ご認識の通りで、テーマを変えながら講座を運営しています。2023年10月に開講した「デジトレ~愛媛デジ女JOBトレーニング~5期」という取り組みでは、デジタルマーケティングを柱に「Canvaを使って、バナーを作ってみよう!」や「SNSのはじめ方講座→投稿してみよう!」といった内容を実施しました。また、愛媛県よりデジタル実装加速化プロジェクト「TRYANGLE EHIME」として採択された「愛媛デジ女プロジェクト 財務・経理コース」は我々愛媛デジ⼥プロジェクトと株式会社Cuelの共同プロジェクトで、DX経理⼈材の育成を目指して、経理実務とデジタル技術双方を学ぶ機会を提供しています。「皆で励まし合いながら習得」という強みを活かして、教育コンテンツと女性デジタル人材のターゲットを意識しながらプログラムを作っています。
 
中村:実際この3年間「愛媛デジタル女子プロジェクト」の運営をされて、愛媛県における女性デジタル人材の意義に関してのお考えを教えてください。
 
飯野: 我々の活動目的の一つに「愛媛の経済活性化」を掲げていますが、愛媛県に住みたいと希望する未来の女性デジタル人材を育成し、コミュニティとして繋いでいくことがポイントだと感じています。
 
愛媛県内にも様々な地域特性があり、地域によっては人口が極端に少なく、受講生の中でも孤独感を感じながらキャリアについて考える人たちがいることも事実です。愛媛県の所得も全国と比べても低いと思います(2020年度の愛媛県の1人あたりの県民所得は247万1000円で、全国43位)。それでも、私も含めて愛媛県が好きな人が多いことも事実です。私も一時期、他の地域に住んでいたのですが、愛媛県に戻ってきてやはり住みやすく、良い郷土だと実感しています。よって、まずは県の各地域で女性デジタル人材の裾野を広げていき、愛媛県に住んでいてもデジタルを活用した新しいキャリアの可能性があることを認識を深めて、選択肢を広げていただく活動が大事だと考えています。東予や南予*でも今後愛媛デジ女のイベントを企画していますが、県内における女性デジタル人材のつながり人口を増やしていきたいです。
 
*愛媛県は、大きく東部、中部、南部の三つの地域に分けることができる。 県内では、一般に東予(東部伊予)、中予(中部伊予)、南予(南部伊予)と使われている
 

◆ 多様な女性のキャリアに焦点をあて、寄り添いながら育成する


中村: 愛媛デジタル女子プロジェクトの今後の展望について教えてください。
 
飯野: おかげさまで2023年末に一般社団法人化をして個人の活動から、組織として活動をしていくフェーズの移行期になっています。我々の「皆で励まし合いながらデジタル技術の習得とキャリアデザイン」をしていく取り組みは、四国地方の他県にも興味をいただき問い合わせが増えています。本モデルをまずは愛媛県から四国全域へ拡大をしていきたいというのが大きな目標の一つです。
 
また、今後、私たちは更に多くの女性にリーチして女性デジタル人材の育成を拡大していきたいと考えています。特にシングルマザーや就職氷河期世代など、よりサポートが必要だと思われる層への取り組みを強化していく予定です。また、若い世代の女性たちにもキャリアやデジタル技術について考える機会を提供し、人生を豊かにするための選択肢を広げていきたいと思っています。2024年1月には『ドコモ市民活動団体助成事業』の採択を受け、愛媛県在住のシングルマザーを対象としたデジタルスキルアップ支援プログラム「ひとり親デジタルWORKUPプログラム」をスタートしました。シングルマザーの皆さんのマインドセット含めてサポートをしたいと考えています。
 
中村:本日は、愛媛デジ女プロジェクトについて貴重なお話をありがとうございました。
 
飯野:こちらこそ、興味を持っていただきありがとうございました。愛媛デジタル女子プロジェクトは、地域社会に根ざし、女性が自分らしく輝ける社会の実現を目指しています。これからも愛媛県の女性のデジタルリテラシー向上・ライフスタイルに合わせたキャリア構築と地域社会の活性化に貢献していきたいと思います。
 
 
文責:デジタル人材育成学会副会長 中村

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