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紫陽花の道の行き止まりで #1

物事を一つの面からみるのに固執してはいけない、らしい。
確かにそうである。平面でなく、立体で見てこそ面白みを食むことができるものである。
しかし、私は典型的な二次元人間だった。一度うまいものを食べたら以降それしか買わない。おもしろい作家を見つけたら以降その人の小説しか読まない。
新しいものを取り入れなければならない、と何度も思う。思うのだが、深く迷うほど、保守へと手を伸ばしてしまう。脳死で既存へと走ってしまう。
しかし、そんなときのたまの革新ほど良いものはない。これは、そんなちいさなちいさな革新の物語である。



歩いて帰る。今日も授業が終わった。うちの学校は宿題が多すぎて困る。毎日毎日ワーク等をたくさん持ち帰らないといけない。もう肩の形が変わるんじゃないかというほどのリュックを背負いながらてくてく歩く。いつもと変わらぬ通学路。まったく、おもしろくない。単調な生活だ。なんの為に生きているのか、わからなくなってしまう。昔はあんなに大それたことを考えていた筈なのに。ため息をつき、下を向く。
いや、こんなネガティヴなことばかり考えても意味がない。とりあえず、早く家に帰ってなんか食べよう。そう切り替え、前を見る。と…
…あれ?こんな道、あったっけ?
目の前に細い横道があった。垣根の狭間に続いている、誰にも使われていなさそうな小道。その入口には私を誘うような鮮やかな紫陽花。唾を飲む。入るか、否か。入ってしまったら絶対に時間をロスするし、どこに繋がっているのか分からない。そもそも、行き止まりになっているかもしれない。デメリットしかないはずの選択肢。しかし、なぜか魅力的に見えてしまい…
私は一歩を踏み出した。

そこは、私がギリギリ通れるほどの狭さだった。もし今向こうから人が来たらどうしよう。もし今襲われたら。杞憂が頭をかすめる。でも、戻ってしまったら自分の勇気に背を向けることになる。せっかく踏み出したのなら、踏み均してしまおう。
一歩一歩進む。雑草がボーボー生えているものだと思っていたが、意外と草はなかった。土がむき出しになっている。たまに垣根の向こうに紫陽花が見える。紺だったり紫だったりと色とりどりだ。
少し歩くと、頬に水滴がポツリと落ちた。上を見ると、暗い空。いつの間にか速く動く雲で覆われていた。
まずい。傘は持っていない。こんなところで降られたらびしょ濡れになるほかない。早歩きで進む。と、目の前が開けた。ちょうど抜けることができたか、と安心したのもつかの間、そこを見回すと…
どこにも抜ける道がないのに気づいた。
そこにはただ一本の木と、その根元に佇む小鳥の巣箱、錆びたブランコと滑り台、紺紫赤紫でグラデーションされた紫陽花の花壇。そして、垣根で完全に囲まれていた。
なんだか懐かしいような雰囲気を纏う空間に見とれる私。しかし、髪に打ち付け始めた雨が現実に引き戻した。完全に降り出してしまう。とりあえずあの木の下に避難しよう。そう考え、木へと向かおうとしたその時、

「こんなところで、なにしてるの?」


続く


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