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Born In the 50's 第十六話 第八機動隊

    第八機動隊

 大井埠頭の先端に城南島がある。
 地域のほとんどは工業用地で、工場や倉庫、物流センターなどが建ち並んでいる。人口はゼロ。あくまでも工場と倉庫のための人工島だ。
 EAS──東アジア首脳会議を翌日に控えた金曜日の朝。六時。出勤前の時間帯。あたりに人気はほとんどない。
 ただ、その一画に慌ただしく人が出入りする倉庫があった。
 倉庫の中は薄暗い。天井からぶら下がっている電球は消されたまま。大型のバスが一台駐まっていて、そこへ男たちが集まってきていた。
 靴音が高く響く。
 銃器が触れあう金属音もする。
 やがてバスの横に整列ができた。
「よろしい」
 指揮をしていると思われる人物の声が低く響いた。
 機動隊の出動服を身に纏い、警備靴を履いている。整列した男たちの前をゆっくりと歩きながら、ひとりひとりの装備を確認していく。
 そこに並んだものたちも同じように出動服に警備靴、そしてその手にはライオットシールドがあった。全員がヘルメットを被っている。
 その胸にはH&K MP五がぶら下げられていた。
「いよいよ作戦も大詰めになってきた。今日、新しい歴史の扉が開く」
「はい」
 怒号にも似た返事が返ってきた。
「この日のためにいままで活動してきた。そして、それが今日、一気に実ることになる」
「はい」
 居並ぶ男たちが声を揃えて返事をした。
「ターゲットは、ただひとり。確実に実行しろ」
「はい」
 その返事に緊張感が走った。
「現場には第一機動隊と第五機動隊の連中が配備されている。われわれは第八機動隊からの応援ということで現場に入る。その旨の連絡はしかるべき筋からいっているから、現場で怪しまれる恐れはない。ただ、NSAの連中やSPがこちらの動きを警戒しているはずだ。それを頭に入れておくこと」
「班長」
 バスの前に整列していた沢口が口を開いた。
「なんだ、沢口」
 班長と呼ばれた男はゆっくりと歩いて沢口の前まで来ると、向かい合ってから訊き返した。
「はい、障害となるものにたいしては発砲してもいいのでしょうか」
 沢口は前を向いたまま質問した。
「目的を達成するためであればいかなる犠牲も厭わない」
 班長はきっぱりと答えた。
 整列していたものたちから、どよめきにも似た声が漏れ聞こえてきた。
「何度もいう。いままでにも多くの人たちを犠牲にしてきたのは、目的を遂行するためである。そのための尊い犠牲なのだ。ターゲットを仕留めるためであれば、いかなる犠牲も厭わない」
 班長は改めて沢口の顔を見ると、頷きながら答えた。
「はい」
 沢口はただ返事だけを返した。
「全員、銃の確認をしておけ」
 班長の指示に、全員が従い、その場で銃の確認がはじまった。
 胸にぶら下がっているH&K MP五のマガジンをいったん抜いて、実弾がちゃんと入っているかを確認したり、腰に下げているSIG SAUER P二三〇のマガジンを確認する。
 それぞれが手慣れた様子で、さらには予備の弾倉の確認をするものもいた。
 ひとしきり銃の確認がおわると、班長は全員に伝わるように、ひとことひとこと区切っていった。
「それからペイントを忘れるな。今日は”赤”だ」
「赤……」
 だれかが声を出した。
「今回の作戦名は”Bloody Pigeon” その名にふさわしい”赤”を選んだ」
「はい」
 今度は全員がそれに答えた。
「よし、準備が終わってるなら乗車だ」
 班長が声を上げた。
「うお~」
 うなり声のような返事が帰ってくると、全員がそこに駐まっていたバスになだれ込むようにして乗り込んでいく。
 班長は最後にバスに乗ると、乗り込んだものたちの顔をゆっくりと見渡していった。納得したように大きく頷くと、自らもヘルメットを被る。
「よし、出発だ」
 班長はそういって、運転席にいる隊員の肩を軽く叩いて合図した。
 機動隊の移動用の大型バスのエンジンが掛けられると、やがてゆっくりと倉庫の扉が開いた。バスが重いエンジン音を響かせて発車していく。
 目指すのは虎ノ門にあるホテル。

「Born In the 50's」ですが、各章単位で公開していて、全体を通して読みにくいかなと思い、index を兼ねた総合ページを作ってみました。
 いままで通り毎週、章単位で新規に公開していきますが、合わせてこの総合ページも随時更新していこうと思います。
 頭から通して読み直したい、そんなことができるようになったはずです。ぜひもう一度、頭から読み直してください。
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