ロング_NOTE

ロングボーダーの憂鬱 1 Don't Let Me Down 1/3

 ──最低だ。
 なんだってこんなことになっちゃったんだ?
 新垣海は戻されたテスト用紙を見つめながら呆然としていた。
 ──確かに、勉強なんて手についていなかったさ。それは認めるよ。でも、この点数は……。
 受け取ったテスト用紙に書かれた赤い数字を見た瞬間、目の前が真っ暗になっていた。
 頭から血の気が引いて、背中にはじっとりと冷たい汗を感じながら、海はただただテスト用紙を見つめた。絶望感という言葉の意味を、いまはじめて身をもって体験している自分に、大きな戸惑いを感じながら、半ば泣きそうになっていた。
 授業の終わりを告げるチャイムが鳴った途端、海は教室を飛び出していた。
「新垣!」
 数学の教師が呼び止める声を背中で聞きながら、しかし海の足が止まることはなかった。そのまま廊下を走るように抜け、校舎の外に出るといつしか駆け出していた。南門を通り抜けて、気がついたら砂浜へと行き着いていた。
 そこは逗子湾。
 学校のすぐ南側に広がっている逗子海岸。海にとって見馴れたはずの海なのに、しかし、この日だけはなぜかいつもとは様子が違っていた。
 重苦しい雲が広がる梅雨空のせいだったのかもしれない。それとも波立つ海のせいだったのかもしれない。まるでいまの海の心の色をそのまま現したような灰色の世界が広がっていた。しかも、よそよそしい冷たい顔をしている。
 垂れ込めるような灰色一色の雲。色の濃淡はもちろんあるが、しかしそのグラデーションから明るさを見て取ることは、いまの海にはできなかった。
 その灰色の空がそっくりそのまま海に映し出されているようだ。碧いはずの海なのに、この日だけは灰色のグラデーションがそのまま波を形作り、岸へと押し寄せてくる。ときおり吹く風が、波飛沫を海のところまで飛ばしてくる。
 左頬に飛沫を感じた海は左手でゆっくりとそれを拭い去ると、右手に目をやった。そこにはくしゃくしゃになったテスト用紙があった。
 ふいに涙が零れそうになった。
 海は慌ててテスト用紙をズボンのポケットに突っ込むと、両手で顔を覆い、その場に崩れ落ちるように座り込んでしまった。
 ──なんだよ、十六点って……。こんなのテストの点じゃないだろ……。
 海はひとりごちると、大きく溜息をついた。
 ──もう終わりにしようよ……。
 満里奈からのメッセージが不意に頭をよぎった。
 ──ああ、ああ、もう終わりだよ。なんだってかんだって終わりだよ。
 しかも、こんな点数まで取っちゃって……。
 また飛沫が海の頬まで飛んできた。右手で拭うと海はじっと海を見つめた。
 いつもは穏やかな逗子の海だったが、この日は違った。次々に波が打ち寄せてくる。鈍い、濁った色をした海。覆っている空と同じような色をしている。
──いつからだ?
 海はここ十日ほどのことを思い出そうとした。ことのはじまりは満里奈からのメッセージだった。いつもと同じように楽しく会話していた、つもりだった。それでも……。
 よくよく考えてみると、しかし言葉の端々にぎこちなさがあったかもしれない。いや、そうだったのだ。満里奈はもうずいぶん前から、それを切り出すタイミングを伺っていたに違いない。でもなぜなんだ?
 どうして?
 いったいなにが不満だった?
 そもそもぼくたちがつき合うこと自体に無理があったのか?
 それとも、ぼくがいけないのか?
 ──もう終わりにしようよ。
 スマホの画面に現れた文字を読みながら、あのとき海はその言葉の意味をすぐに理解することができなかった。きっと認めたくなかったのだ。その意味を理解してしまうと、もう満里奈とは終わってしまうから……。
 ──なんだって一方的にそんなことがいえるんだ?
 海はなにをどう考えたらいいのか解らず、あのときもただ呆然と立ち尽くしていた。陽が暮れるにつれて暗くなっていく自分の部屋の真ん中にただ立ち、そしてしばらくなにもできなかった。
 頭が働かないという経験を、このとき海ははじめてした。言葉が頭に浮かんでこなかった。満里奈の顔を必死になって思い出そうとしたけれど、しかし、彼女の愛くるしい顔をイメージすることができず、頭の中にはただただどす黒い訳のわからない映像が次から次へと湧きだしてくるだけだった。 なにも手につかないままテスト期間がはじまった。得意だったはずの数学だったけど、この有様だ。あとの科目は推して知るべし。考えるまでもない。
 再び絶望感が押し寄せてくる。海の心をまるで絞り上げるように重くのしかかってくる。海は両手で頭を抱え込むようにして眼を閉じたまま声を上げることなく泣きはじめた。
「あっ、なにやってるんだよ……」
 ふいに人の声が耳に飛び込んできた。
「そうじゃないだろ、遅いんだよ」
 舌打ちしながらひとりごちている。
 海はそっと両手を解くと、顔を上げた。二三メートルほど離れたところに男が海と同じように直に腰を下ろしていた。Tシャツに短パン。ビーチサンダルを脇に揃えておいて、裸足で座っている。やや長めの髪は、もう少し伸びたら後ろで縛れそうだった。
 ──いつの間にやってきたんだろう? それともその男にぼくが気づかなかっただけ?
 海は顔を左に向けて、男の様子を伺った。
 ──中年の男。歳の頃は、たぶん親父よりも若いみたいだから四十前かな?
 男は海の方を見つめながら、口を開いていた。誰にともなく話している。
「なんて下手くそなんだよ!」
 強い口調が混じっていた。
 左手に酒の小瓶を持っている。ときおりそれを口に運びながら海を見ている。
 海はその視線を追ってみた。
 押し寄せる波にサーファーたちがチャレンジしている。波の大きさは、どうだろう腰から胸ぐらいだろうか。沖からやってくるうねりに合わせて、何人かのサーファーがそれぞれパドリングをしていた。
 ちょうど海の正面にもパドリングをはじめたサーファーがいる。必死に両手で水を掻き、うねりにボードのスピードを合わせようとしていた。
「だから、もうそこでいいんだよ。立っちまえよ」
 焦れたようにひとりごちる。
 しかし、そのサーファーが立とうとしたときには、波の頂点を越えていて、波に乗ることができなかった。そのまま波間に姿が見えなくなった。再びその姿が見えたときにはボードの方向を変えて、また沖へと向かっていた。
「もういいから、止めちまえばいいんだよ。もう、無理だって、立つのは……」
 男は吐き捨てるようにいうと、じっと右の掌を見つめ、それからまた小瓶を口に運んで、ぐいっとひと呑みした。手の甲で口元を拭うと、そのまま小瓶のキャップを閉める。
 視線に気づいたのか、男はふいに海に顔を向けた。
「どうかしたか?」
 男が話しかけてきた。
「あ、いえ。なんでもないです」
 海は突然のことでドギマギしてなにもいえなかった。
「そうか」
 男はそれだけいうと、また視線を海に戻した。
「あいつな、あのサーファー」
 男はそういうと、また海の顔を見た。
「え? はい」
 海は思わず頷いた。
「いや、まともに波に乗れないんだからサーファーじゃないな。もどきだ。サーファーもどき」
 男は海の目をじっと見つめた。
 海はその視線をどう受けてとめていいのか判らず、ただ黙っていた。
「いまのままだと一生、波に乗れないね。まったくの我流だろ、あいつ。タイミングもなにも解っちゃいない。だいたいパドリングがなっちゃいないからな」
 そういいながら男はまた波の打ち寄せる海へと視線を戻した。
「そんなものなんですか……」
 どう受け答えしていいのか判らず、海はそう呟くようにいった。
「左の方を見てみろ。真ん中あたりにいるやつ。ちょっと長めのボードに乗っている男がいるだろ。判るか?」
 男はまた海の顔を見た。
「はい」
 海はしっかりと頷いて見せた。
「うねりが来るから、ちょっと見てろ。ボードの方向を変えて、パドリングをはじめた。どうだ、あの下手くそとは違って、すごく自然にパドリングしてるだろ。すぐに立つぞ。ボードのケツがグイッと持ち上がる瞬間だ。ほら」
 男が話しているサーファーは確かにとても自然に波と対峙していた。しっかりとしかし余裕のあるパドリング。波を捉えた瞬間、いとも簡単にボードの上に立ち、そして波が産み出した斜面を楽しそうにボードをコントロールして滑っている。
 海はそのライディングに思わず見とれてしまった。
「あれがサーフィンだ」
 男はそういうと、また右の掌をじっと見つめてから小瓶を口に運び、ぐびりとひと呑みした。
「なんだって、こんな日に呑んじまったんだか。俺は大バカ者だね」
 悔しそうにそれだけいうと男は黙りこくってしまった。ただ、じっと海を見ている。
「ろくさん」
 そのとき背後から別の男が声をかけてきた。
「よう、祐ちゃん。どうした?」
 男は振り向くとその呼びかけに答えた。
「ろくさんこそ、どうしたの。波があるのに」
 そういいながら男が近づいてきた。
 海はその顔を見るなり、思わず首を竦めた。
「おい、海じゃないか。お前なんだって、こんな時間にここにいるんだ。学校はどうした?」
「なんだ、知り合い?」
 ろくさんと呼ばれた男が尋ねた。
「甥っ子なんだよ。姉貴の息子。そこの学校に通ってるんだ。新垣海っていうんだけどね」
「叔父さん……」
 海は頭を掻きながら縋るような目で長坂祐司の顔を見た。
「まぁいいや、学校サボるのも経験のうちかもな」
 祐司はそういいながら男の隣に腰を下ろした。Tシャツに短パン、ビーサン。髪は短めにカットしていた。この時間にこのあたりを歩いている大人たちはみな同じような格好をしている。日焼けしていればマリンスポーツをしているのも共通点だ。
「で、ろくさんどうしたの、波があるのに?」
 そういって祐司は笑った。
「朝起きて、なにも考えずに呑んじゃって、ふらふらと海へ来てみたらこのざまだ。迂闊というしかないかもね。昨日、ちゃんと天気は調べたつもりだったんだが……」
 そういって男はまた小瓶を口に運んだ。
「なに?」
 祐司が尋ねると、男は小瓶を祐司に見せた。
「ビーフィーターか。いつものやつだね」
 そういいながら祐司は頷いた。
「ろく!」
 今度は、海岸の中央の方から子どもの声がした。ランドセルを背負った女の娘がこっちに向かって歩きながら大声をだしていた。
「なんだよ。親を呼び捨てにするなって、いつもいってるだろ」
 そういいながら男は立ち上がった。
「ろく!」
 女の娘は近づきながらまた口を開いた。
「だから親を呼び捨てにするなよ」
 男はその娘にむかって言い返した。
「だったら親らしくしろよ」
 女の娘は男と向かい合うように立つと、両手を腰に当てて詰めよるようにいった。Tシャツにキュロットスカートを穿いている。肩に届きそうな綺麗な髪。憎まれ口を叩いているが、しかしその顔立ちは可愛かった。
「それでなんだ?」
 男は落ち着いた声で訊き返した。
「お昼」
 女の娘はそういいながら今度は胸の前で腕を組んだ。
「もうそんな時間か?」
 男が首を捻った。
「今日は早めに昼が食べたいって話したでしょ。友だちとプールに行くんだからって」
 女の娘は呆れたようにいった。
「わかったわかった」
 男は小瓶の蓋をていねいに閉めるとゆっくりと短パンについた砂を払った。
「こんな時間から呑んでる!」
 まるで子どものいたずらを咎めるような口調で女の娘はいった。
「大人の嗜み」
 男は頭を掻きながら答えた。
「どこが大人なの。まったく」
 ふたりはそのまま東浜の方へと歩いていった。
「あの人、誰なの?」
 ふたりのやり取りをぼんやりと見ていた海が祐司に尋ねた。 
「木崎匡一。通称、ろくさん。それに娘の美奈海ちゃん」
 祐司は海の顔を見ながら答えた。
「どんな知り合い?」
 海はさらに訊いた。
「逗子でサーフィンやってて、いや違うな、マリンスポーツやっててあの人を知らなきゃ、それはもぐり」
 祐司は笑いながら答えた。
「有名人なんだ」
 海は遠ざかってくふたりの後ろ姿を見ながらぼんやりと呟いた。
「それはそうと、お前、学校はどうした?」
 祐司がすこし強めの口調で訊いた。
「いや、ちょっと……」
 海はただ口ごもった。
「まぁ、いいや。男の子だからな。たまにはサボりたいときもあるだろうし。それともなにか深刻な悩みでもあるのか?」
 祐司が探るように尋ねた。
 海はそれには答えられず、ただ押し黙ったままでいた。ポケットに突っ込んだテスト用紙をそっと右手で探る。
「テストの点が悪いとか、彼女にフラれたとか、そんなところか?」
 祐司の言葉に海は思わず眉をしかめると、顔を背けた。
「なんだ、図星か」
 祐司は海の肩を優しく叩いた。
「なにかあったら、相談しろ。いつでもいいから。今日はこのまま学校に戻れ」
 海はその言葉にただ黙って頷くと、立ち上がった。そのままもう一度海を見てみた。あのサーファーが、いやろくさんがサーファーもどきと呼んだ男は、いまだに波に乗れないでいた。
 なにもかもでき損なっているいまの自分と同じように感じて、海は大きく溜息をついた。
「学校に戻ります」
 海は祐司にそれだけいうと、力なく歩きはじめた。

 その翌日。
 海は昼休みにまた逗子海岸にいた。戻ってくるテストはことごとく酷いものだった。揃いも揃ってここまで酷いと、最早ジタバタする気にもなれなかった。
 ──どうしようもないよな……。
 昨日とは打って変わって、青空が広がっていた。勘違いして夏がやってきたような蒼い空。海もまたその碧さを受けて煌めいていた。海には恨めしいような空と海の色だった。
 昨日のうねりがまだ残っているようだった。波が打ち寄せてくる。何人かのサーファーがその波にトライしていた。
 セットでやって来る波を見定めて、ひとりのサーファーがパドリングをはじめた。余裕のある、しかししっかりとしたストロークのパドリング。長めのボードのテールが持ち上がるその瞬間、サーファーはごく当たり前のように立ち上がった。
 赤を基調にしたトランクスに、黒い薄手のタッパーを羽織っている。濡れた頭を振って水気を飛ばすと、少し長目の髪が風になびく。ボードの上に立ったまま、軽く膝を曲げ、中腰のまま真っ直ぐ前を見ていた。
 ──あっ、あの人だ。
「ろくさん」
 海は心の内でひとりごちた。
 ボードが走る。ややうしろの位置に立っていた彼の足がすっと動きはじめた。ゆっくりと交差させながら、ボードの前へと歩を進める。
 ──どうするんだろう?
 ボードの一番前に立つと、両手を広げた。まるで羽ばたくように。ボードのノーズで風を全身に受けとめて、楽しんでいるようだった。
 やがてまた両足をゆっくりと交差させて元の位置に戻るとボードを操作して、乗っていた波から降りた。
 ──いまのはなんだ?
 海は大きく息を吐いた。彼のライディングをじっと息を凝らして見つめていたことに気がつき苦笑した。
 波と風とボード、そして彼がまるでひとつの世界を創りだし、その中でとても自然に楽しんでいるように思えた。
 昨日、彼がもどきと呼んでいた男とはまったく違って、確かにいま見たろくさんの姿は、サーファーそのものだった。
 波間を見ると、また彼がパドリングをはじめていた。蒼い空と陽射しの輝きを受けて、波がキラキラと煌めいている。ゆったりと、しかししっかりとしたパドリング。ボードのテールが持ち上がった瞬間、すっと立ち上がるとさっきよりも深めに腰を屈めてそのまま波を駆け下りる。波を駆け下ったところで大きくターンをすると再び波を捉え直して、また波を駆け下りていく。
 ──あんなこともできるんだ……。
 海は思わずろくさんのライディングに見とれてしまっていた。ほかにも何人か波に乗っているサーファーがいたけど、その姿はまったく目に入らなかった。ろくさんから目が離せない。
 まるで独演会だ。
 とても楽しそうに波と風、そしてボードと戯れている。 
 ──かっこいい!
 昼間っから酒を呑んで、娘にあれこれ文句をいわれていた昨日の、どちらかというと風采の上がらない姿とは、見違えるようだった。
 海は食い入るようにろくさんのライディングを見続けた。
 ボードのノーズに立ったり、波の斜面を鋭く滑り降りて深いターンを見せたり、いろいろな技でサーフィンを楽しんでいる。
 もう一度、ノーズに立って、風を身体全体でたっぷりと受けてから、波を降りると、そのままボードを抱えて海から上がってきた。
 ろくさんを見ていた海と視線が合った。
「よう」
 もうずっと以前からの知り合いのような声のかけ方だった。ろくさんはボードを抱えたまま浜を中央の方への歩き出した。
「あの……」
 海は追いすがるようにろくさんに歩み寄りながら口を開いた。
「どうした?」
 ろくさんがそのまま振り返った。
「あの……」
 海はなにから話していいのか判らず、いい淀んでしまった。
「確か、祐ちゃんの」
 ろくさんは抱えていたボードのお尻を砂浜に突き刺すように立てて、海の方へと向き直った。
「あっ、はい。そうです。新垣海です」
 海は背筋をピンと伸ばすと答えた。直立不動だ。緊張してしまっている自分に、海はちょっと戸惑いを覚えながら、さらに口を開いた。
「サーフィンって、あんなにいろいろなことができるんですか?」
「ああ、そうか。さっきのライディング見てたんだ」
 ろくさんはひとりごちるようにいった。
「はい。ボードの一番前に立ったり、大きくターンをしたり」
 海は頷きながらいった。
「昨日見ていたサーファーの人と違ってて、正直、驚きました」
「昨日って、あのもどきか? きちんとボードの上に立てれば、いろいろな楽しみ方ができるんだよ」
 ろくさんは苦笑いしながらいった。
「でも、凄かったです。さっきのライディングは」
 海は目を輝かせながらいった。
「あの……」
 どう切り出していいのかわからず、海はふたたびいい淀んだ。
「ん?」
 ろくさんは海の目をしっかりと見ながら首を傾げた。
「いえ、その……。ぼくにもできますか、サーフィン?」
 海はそういってろくさんの顔を確かめるように見た。
「波に乗りたい気持ちがあれば、誰にだってできるさ」
 ろくさんはそういって口元をほころばせた。
「マジで海で遊びたいと思ってるなら、まず叔父さん、祐ちゃんに相談したらいい。彼だってウインドだけじゃなくて、サーフィンもちゃんとできるからさ」
「そうなんですか?」
 海は意外そうな声で答えた。
 ──知らなかった……。
「いまはどうか知らないけど、昔はウインドとサーフィン両方やってたはずだよ」
 そういうとろくさんはボードを抱え直して、軽く手を挙げ、浜を中央の方へと歩き出した。
 海はその後ろ姿を眩しげに見ながら、叔父さんの長坂祐司の顔を想い浮かべた。
 ──叔父さん、あんな顔してるけど、サーフィンもやってたんだ。知らなかった。
 そんなことを思いながら、海は遠ざかっていくろくさんの後ろ姿をただ見つめていた。

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ろくさんを逗子では知らない人はいないというサーファー。けれどその過去を知る人はほとんどない。そして、彼の心に深く刻み込まれた傷は、いまだにそのまま。その心の傷は癒えることがあるんだろうか……。

そんな彼とひとり娘にまつわる物語が短編連作の長編で紡がれていきます。
逗子を舞台にした、熱く、そして切なく、心に沁みる物語。ぜひご愛読ください。

サーファーたちのバイブルとして読み継がれていくような作品にしたいと願って書きました。
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