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知識の記録方式(43) 検索の無駄

 トヨタ生産方式には、2つの柱があった。ジャストインタイムと自働化である。
ジャストインタイムを情報システムとして解釈すると次のようになる。必要な時な必要なデータを必要な分だけ集めることである。必要な時とは、ユーザがデータ検索行為をしたときである。インターネットの検索ほど、意図しないことが多く出現し、無駄な時間を費やすことはない。自社のシステムであれば、このように無駄な検索をユーザーにさせないことが重要である。

 しかし、この時、ユーザの欲することがシステム的に保証されていなければならない。意味のあるデータであること。一日前のデータなんかでは意味がないとすれば、一般的にシステム設計者は必要な日にちを任意に指定するように開発するであろう。ところが、多くの場合、必要な時とは、例えば一時間前とか、現在の最新ということであり、何の指定もなければ、そのような検索を行なうように開発すべきである。一番困ることは、システムの勝手な検索ロジックになっていることである。

 毎回毎回、その最新時刻からの検索のロジックではユーザーの仕事の効率化は図れない。システム開発設計には一般化が必要だが、ユーザ適用には特殊化が必要なのである。したがって、一般化システムの上に、特殊化機能をもたせる設計手法がフレキシブルである。必要なデータを処理する際にも、不用意に大きなテーブル全体を対象にしてしまうこともある。でも、その処理はユーザーには全く分からないのであるから、真剣にロジックを考え、レスポンスに対し責任を持つ必要がある。

 レスポンス時間を考えるならば、もっと慎重な設計をするはずだ。このレスポンス時間は、ユーザにとってもっともムダで嫌われる時間である。しかし、SEのなかでこのレスポンスを目標値を示し、設計してくれる方にお会いしたことがない。そもそも、システムの設計指標としてレスポンス時間があるはずである。完成後にチューニングといい方では、情けない。どのような設計をしたら、ユーザを待たせないレスポンスを得られるかを予測できるようでなけらばならない。

 本を読み、ぺらぺらめくったりすることがある。この操作性のよさはなかなかコンピュータで実現できないのである。あるときは半分だけめくり戻すなんてことも本なら可能であるから。これも本だからの検索手法である。情報システムでは、この機能をどのように実現することができるのかを、もっと考えて欲しいものだ。

 もともとトヨタ生産方式はムダの排除を根底に考えられているシステムである。それがゆえに情報システムでも設計思想として通じるところが多い。そもそも情報システムも人の仕事のムダの排除が目的なのであるから、何がムダであるかをよく考えてシステム設計しないと目標の効果は得られない。

 また、改善という手法がトヨタ生産方式にあるが、これもよく似通っている。すこしづつ、仕事のやり方を改革し、人の思考を助けるには、いくつかの機能が必要である。必要な情報を収集する。集まった情報を整理・解析する。解析した結果から何らかの結論を得る。その結果を具体的に表現する。これらの過程のどこか一部分だけをシステムが支援していることが多いが、結論を出して、行動に移すこと、更に、その結果をモニタリングし、次の改善に繋がるところまで開発実現させないと価値がない。

 この中でうまくできていないのが、情報の整理と解析、そして結果を得ることだと思う。これらはトヨタ生産方式で言うところの自働化ができていないのである。整理と解析には決まった手法が一般的にあるものではなく、個々の仕事における経験的なものがベースになっている。情報の整理と解析には、その過程で未取得のデータを取得することも必要である。仮説と検証の繰り返しになることばかりである。

 人間が仮説として対策案を生み出すものであるがゆえに、通り一変に情報整理と分析を自動化することは難しい。しかし、その事を難しいと言うことで当初から考えることを放棄してしまっていないだろうか。私達の仕事を効率化したいと思うのであれば、どのような事を、どのような観点で分析をし、どんな自動化の可能性があるかを考える必要がある。要する完全なるデータベースの構造設計は、完成することはなく、常に改造し続けることになるということである。

 もし、改造を避けるならば、観点を替えたりして、業務のルールを変更することなどで、目的の結果を得ようとする必要な検討行為がなされなければいけない。しかし、この行為は本質的解決にはならないのである。

 この時、思考錯誤ではあるが、システム的には一つのアプローチが考えられる。それは、どのような目的でどのような観点について過去のベテランはなにをしていたかがよりどころとなるのである。

 この本来、継承が難しい経験的なものを蓄積していけばいくつかの検討のケースに役立つはずである。この思考プロセスを情報として蓄積するようにすればよい。これが自働化である。ここを実施しないとエンジニアの時間を短縮することはできないのである。この自働化のシステムはきっと、インタラクティブな方法でコンピュータと会話しながら進めるものになるはずだ。人それぞれの思考プロセスがあるが、しかし、そのプロセスでなければいけないルールが存在する時には、その思考プロセスを採用するように警告を出すような自働化が必要である。

 コンピュータはどんなことでも答えを出してくる。しかし、それはコンピュータが出した答えでしかないのである。意味の無い解を出されても困るし、信用できないし、かえって時間を無駄にする情報となることがある。情報過多かつフェイクがあるようにこの時代において、ユーザが信用できる答えを導き出すようなシステムが必要である。その為にも、知識の記録方式を研究しなければいけないと思う

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