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滑稽な儀式〜「影の魔法のライセンス」活用事例報告〜

 2020年から2022年にかけて、駒草出版から刊行している『世界の終わりの魔法使い 完全版』は、現在第2巻目を刊行したばかり。実作業としては「魔法文字」を描き加えたり、6ページの描き下ろし短編を仕上げたり、次巻3巻の原稿修正作業をしながら、並行して来年刊行予定の最終6巻のペン入れ中。それなりに忙しい。ちなみに全6巻となる駒草出版の完全版から、シリーズ通して写植はすべて一新。旧版にあった各巻の誤差は、編集者によってすべて最新のものに整えられている(気づかれにくいけれど...)。

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 一方、個人電子書籍レーベル「島島」からの電子書籍版は、紙に先行して昨年3月に1-3巻までを一挙にリリース。その時点で、著作者自らが個人・企業を問わず、引用や再利用、改変、「二次創作」を促す許可証「影の魔法のライセンス」を実装。これにより『世界の終わりの魔法使い』を原作、または素材として使って、誰でも自由な創作や商品化を試みることができる。例えば、作品上の設定を使って別の作品を創作してマンガ賞にエントリーして賞金を得てもいいし、地域のイベントのポスターに作品の図像を使ってくれてもいい。どちらもライセンス上、完全な合法。著者自らが「権利を犯せ」と、乱暴に勧めるような行為だが、このライセンスは利益よりも、「劣化コピーされること」それ自体を最重要と考えてる。

 「ライセンス」は使われてこそ、その効果を発揮する。ニーズがあれば「ライセンス」は誰かに活用されるし、活用されなければそれは権利者からの「牽制」や「意思表示」に留まる。活用事例は増やしたいけれど、それを「仕込み」で行うのは、それは「パフォーマンス」や「アリバイ作り」のようなものになってしまうので、結果ライセンスの「純粋さ」「厳密さ」が濁ってしまう気がする。そんな理由から、ライセンス発行のタイミング(=島島版電子書籍3巻リリース時)に、「メディア芸術クリエイター育成支援」を経て開催された成果展(これこそまさにパフォーマンス的な催し?)に合わせて制作したボードゲーム『影の魔法と魔物たち』(ゲーム作家アランとの共同制作)を除いて、こちらから強く働きかけることはしてこなかった。

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 しかし、それから時が経ち、自然発生的に、嬉しいレスポンスがあった。アカウント名「@magi919191」から、ツイッター上に発表されたアニメーション動画がそれだ。想像するに、この映像は1巻のマンガ本編をスキャンし、それにアニメ的な着彩を施し、エフェクトを加えて作られたのだろう。仕込みではない、純粋に自発的な「二次創作アニメ」だ。

 例えば『スターウォーズ』、はたまた『ハリー・ポッター』、あるいはエリナー・ファージョン『ムギと王さま』、アーサー・C・クラークの『幼年期の終わり』。そもそも拙著『世界の終わりの魔法使い』は、先行する作品群の多大な影響を受けた「二次創作」的な作品だ。最もわかりやすい影響としては、当時「劣化コピー」を自認・自称していた『新世紀エヴァンゲリオン』がある。『世界の終わりの魔法使い』には、「さらなる劣化コピーである僕以降の世代が、諸作品の影響のもとに創作行為を続けてもいいのだろうか?」という個人的な問いかけが前提として強くあった。『世界の終わりの魔法使い』は「その問いかけ自体」の物語化・マンガ化でもある。

 ゆえに「キメラ」は露骨に「エヴァ量産機」の姿をしているし、魔法使い「アン」のデザインは「半身に包帯を巻いた綾波レイ」を模している。サン・フェアリー・アンという名自体、エリナー・ファージョンの小説に由来したものだが、「図像」に比べると「言葉」は気づかれにくい。去る2005年3月23日、旧・河出書房新社版の初刊行時に、庵野秀明監督をお招きし青山ブックセンターでトーク・イベントが開催され、その問い=「仮にあなたの作品が劣化コピーとして、僕は多大な影響のもとに劣化コピーの更なる劣化のような作品(=影魔法)を、作ってもいいでしょうか?」を、無礼を承知で伺ったことがあった。この問いが他人にとってどれだけ馬鹿らしい自意識過剰な思考であっても、「それを解決しないことには創作者として先に進むことができない」と、その時の僕は、強く感じていた。それは、大島渚的な意味で、空虚で滑稽な「儀式」だったかもしれないけれど、しかし、16年前の僕にとってはどうしても必要なことだった。

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 さて、現在に目線を戻せば、その「儀式」のおかげか、単一作品『世界の終わりの魔法使い』は、断続的ながらシリーズ巻数を伸ばし、三部作+新三部作=計6部作の長いシリーズに広げることができた。「mogi919191」によって制作された映像は、気がつけば数人の声優さんによって声が加えられ、若干の編集と追加映像加えて、紙版の版元たる「駒草出版」のアカウントから、先日「映像+声+音楽」という形でツイートされている。

 現象だけを見ると、「ああ、ファンにCM作ってもらったのね」で終わりそうだけれど、そうではない。「影の魔法のライセンス」を活用した「mogito919191」による映像が無償の二次創作としてあり、それを見つけた出版社側が独自にコンタクトを取り、映像に音声を加え、Twitter広告として活用したという流れこそが重要だと感じている。自律的に発生した二次創作を、出版社という商業が利用した形。そして、そこには著者である僕は介入せず、コラボレーションは「影の魔法のライセンス」に基づき、著者の判断とは無関係に行われている。実際のところ僕は「mogi919191」、駒草出版編集&営業部、声の出演の皆さんに、心の中で強く感謝(プー!)はしているけれど、「mogi919191」には未だ一切のコンタクトを取っていない。お礼の言葉すら伝えられていないのだ!

 この、極めて自意識過剰で回りくどい態度もまた、滑稽な「儀式」なのかもしれない。しかしこの厳密さ、純粋さによってエンパワーされる人は、かつての僕自身がそうであったように、「magi919191」さんをはじめ、この世界のどこかにいるだろうと実感するし、そう願ってもいる。ライセンスのご活用に心より感謝、そしてプー!

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 みなさまもぜひご活用くださいませ。ご利用はお気軽に無計画にっ!(この記事は、FANBOX連載「電子と暮らし」144回より転載されています)

【追記1】影の魔法のライセンス、活用事例の追加です。西島のインタビューが掲載された『マンガ論争23』には、「影の魔法のライセンス活用事例」としてカバー絵に使っていただきました。西島からのディレクションは一切なし。実にわかってらっしゃる活用事例だと思います。本編もコロナ初期のインタビューとしても貴重な気がしています。

【追記2】さらに長く終わりなきコロナ禍に緊急刊行されたのがこちら。これも活用事例です。

「アートディレクションが西島単著せかまほと比べて雑では?」「安くタダで使われているだけでは?」と指摘する向きもありましょう。しかし、ある種の「劣化コピー」を肯定することこそが、作品とライセンスのテーマです。これらの活用全然OK。みなさんのご活用を楽しみにしています。



 さて、ここからは告知じゃい! 実は『世界の終わりの魔法使い』は過去何度か音声になっています。まず最初はオーディオドラマの殿堂にして老舗ことNHK-FM「青春アドベンチャー」。国営放送であり、これは最大のメディアミックスと言えますね。権利関係で音盤化はならず・・・。リンク先は2018年の再放送時のものですが、初回放送は2013年7月22日~7月26日でした。キャスト&スタッフは以下。

https://www.nhk.or.jp/audio/html_se/se2013010.html

【出演者】平田真菜 金元寿子 高橋理恵子 野中藍 関輝雄 杉浦慶子 山下真琴 粕谷雄太 森岳志 渋谷茂 中田隼人
【原作】西島大介
【脚色】小松與志子
【スタッフ】演出:木村明広 技術:小林健一 音響効果:金本美雨 選曲:黒田賢一

 でもって二回目に声が当てられたのが、magto919191、駒草出版制作による告知動画です。2021年。キャスト&スタッフは以下。

【出演者】アン:坂本みなみ ムギ:好田愛菜 実況:千葉瑞己(協力 アズリードカンパニー)
【音響】ハイパーソニック
【アニメーション制作】mogito

 で、で、さらに、ここからが本題ですが、なんと「島島」から初の「オーディオブック」(いま流行りの)が出ます。『ホモデウス』とか『劇場』とか、最近だと『化物語』とか、超強力なメガヒット・タイトルに混じって完全にあまりも唐突なインディペンデント感出てますが、「電子書籍は本を真似るデータ配信であり、法的には紙の本よりも音声配信の方が近い」理論の実証として、2021年3月18日、オーディオブック『世界の終わりの魔法使い 完全版 1 すべての始まり』、audible、audiobook.jp同時、世界初配信です。キャスト&スタッフは以下。

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【出演者】望月麻央 伊吹咲希 小島あんず 黒木信乃  加藤くるみ(TellUsより5名参加)

【原作】西島大介

【デザイン】金田遼平(YES inc.)

【協力】Rocket Base

【製作&配信元】島島

audible
https://www.amazon.co.jp/dp/B08YN4NRWG

audiobook.jp
https://audiobook.jp/product/261197

 それにしても・・・・現状、主要キャストですら3パターンあるわけですが、「複製」「劣化コピー」を主題とした本作にはふさわしい混乱かもしれません。こういうの勝手に作ってもライセンス上OKですからね。終わり。

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