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少しだけサイボーグになった

私は少しだけサイボーグになった。
人間は長く生きていると、少しずつサイボーグ化する。

誰でもなるのが老眼である。
ピントの幅がやたらと狭くなる。
私の目のピントの範囲は50cmからだ。
50cmの向こうはピントが合っているようだが、遠いと小さくて判断できない
読書をするためには30cm位でピントがあっていないとダメだ。

この老眼鏡がサイボーグ化の始まりだった。
おっと、その前に入れ歯があった。
この入れ歯には理由がある。
抜かなくても良い歯を抜かれたためである。
当時は高校生だったため、医者に聞くことも出来なかった。
下の歯も抜きますと言われたときには、流石に断った。
だって、上の歯が治療中なのに下の歯を抜かれたら、食事もできなくなる。

今の時代なら大問題になることなのだが、昔は良き聞く話だった。
私の場合は、看護婦が話しかけてきたので話をした。
医者はそれが気に入らなかったのだと思う。
歯科助手もレベルが低く、信じられないドジの連発だった。
しかも、それを反省もしないという最悪の歯科助手だった。
医者と歯科助手が怪しい関係にあっただろうは容易に想像ができる

その結果、私は若くして入れ歯になった

今までのサイボーグ化は、機能の補助するものだった。
しかし、今回は真のサイボーグとなった。

男性の多くがかかる前立腺肥大という病気だ
前立腺が大きくなってくると、尿道を圧迫して尿が出にくくなる

ちょっと油断して、身体を冷やし過ぎ、風邪を引いた。
40度近い高熱に二日間うなされた。
とにかく、体温を上げてウイルスを死滅させなければならない。
生物というのは、40度くらいの微妙な温度で生死が決定する

人間は42度を10時間続けると死に至るらしい。
45度になると短時間で死に至るらしい。
どうやら、39度くらいの攻防らしい

ということで、体温を上げ、水分を補給し、二日間戦ったらケロッと治った。
落ちた体力を戻さなければと、一生懸命に食べた

しかし、この高熱が思わぬところに悪影響した。
前立腺肥大である
以前から薬を飲んでいたが、それを上回る病状の悪化だった。
尿道が完全に塞がって、膀胱が満杯になった。
さらに、マズいことに高熱で排便が思わしくなかったので、下剤を飲んでいた。
体調が悪いときに便秘は避けたいと思ったのがマズかった。

膀胱が満杯になって苦しんでいるところに、下剤が効いて猛烈な腹痛に見舞われた。
もう、何で苦しいのかが判らなくなっていた。

夜中の三時から苦しみ始めて、病院がはじまる九時をまった。
開院と同時に飛び込んだ
尿検査の結果、膀胱炎になっていると薬を出してくれた。

これで、楽になれるとおもったが、一向に薬が効いてこない。
我慢できなくなって、かかり付けの病院に飛び込んだ。
少し待たされ、やっと機械が空いて、検査してくれた。
看護士さんがすぐに異常に気が付いてくれた。
膀胱が満杯で、このままでは他の器官までおかしくなる。

すぐに医者に報告された。
先生は午前中に行った泌尿器科医院の先生と打ち合わせをしてくれた。

すぐに泌尿器科に戻って、尿道から管を入れ、膀胱の尿を直接排出した。
若い看護婦さんに、性器を握られ、管を差しこまれた。
もう恥じらう余裕もなく、なんでもござれという心境だった。

尿が吐き出されると、すぐに身体に安らぎが戻った。
「嗚呼、生き返った」
これが、私の第一声だった。

それから一週間後に病院へ行った。
前立腺は通常の8倍以上になっていて、手術をしなければならない。
しかも、日帰りではなく、3日ほど入院が必要だと言われた。

私には入院できないワケがある。
家にはワンコがいて、末期の癌なのである。
もう、歩くこともできず、餌や排便排尿など24時間介護している。

私は医者に相談した。
「この状態で悪化しないのなら、ワンコを看取るまでこのままでいたい」
ということで、私の膀胱と尿パックをビニールパイプで繋がれた生活に入った。
ワンコのことより自分の事情を優先することは絶対にない。
ワンコは亡くなった親から預かったものだ。
自分のことを優先したら、あの世で永遠に頭が上がらなくなる
それよりも、自分自身を許せないだろうと思う

このサイボーグ生活は結構長くなりそうだ。
そうなると、なんでも工夫しようという性格が頭をもたげる。
家中のバッグを探して、尿パックを入れて行動できるように加工した。
3つほどバッグをバラして、パーツを集め、一つに加工した。
これが結構楽しい

当人でなければ解らない使い勝手が、自分で理解できるということは素晴らしい
現在は三代目のバッグである。
商品化も考えながら、工夫を重ねている

ちょっと悲惨に思えるサイボーグだが、良いこともある。
トイレに行かなくても良いことである。
今までは、トイレが近く、飲み物や珈琲を我慢していた。
ところが、いくら飲んでも勝手に尿は排出される

いままでは夜中に何度も起きていたのが、一切起きなくても良い
トイレに行かなくても良いことは素晴らしい
書き物をしていても、トイレに行かなくても良いのである

「う~ん、このままでもいいかも・・・」
なんてことも思うようになった

あと10年から15年くらいだから、さほど問題はないと思う。
トイレに行かなくてもいいメリットはかなり得点が高い

ワンコの寝姿を観ながら、考えている

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