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ヤーッコ・クーシストによる、「無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ」

私のアマチュアとしての音楽活動における演奏楽器は、合唱と管弦楽のホルンである。どちらもとても発音(アーティキュレーション)の大切な楽器である。

きれいに発音された音は、はっきりとしつつ雑音の少ない音で始まり、中間部はきれいに伸びて、音の最後は雑音なく自然に消える。

私は、声楽と管楽器のホルンの経験から、口(アンブシュア)を活用した発音については、感覚的にも理論的にもある程度説明できる。しかし、弦楽器や打楽器、そしてそれらを総合して作られた鍵盤楽器の発音の理論については、何となくの理解に留まっている。それでも音の美醜は感覚的に分かる。

私は、聴覚に不自由を抱えるようになってから、暫くの間ヴァイオリンの音を聴くことが出来なかった。特にヴァイオリンの甲高い響きは辛かった。ある時、バロックヴァイオリンを用いた演奏を聴く機会があった。現代楽器よりもくすんだ柔らかい響きを聴き、私はとても心地よさを感じた。

今日紹介するのは、バッハの無伴奏ヴァイオリンのためのソナタとパルティータ BWV1001-1006である。とても有名な曲であり、パルティータ第二番のシャコンヌやパルティータ第三番のプレリュードの旋律は、どこかで耳にしたことがある人も多いだろう。

この曲を、マッテオ・ゴフリラーというバロック期のイタリアの弦楽器制作者の作ったヴァイオリンを用いて、フィンランド出身のヤーッコ・クーシストが2019年に録音した。クーシストはその後すぐに病と戦うことになり、2022年に脳腫瘍により48才の若さで無くなった。

次の記事で、指揮者の新田ユリさんがクーシストの思い出を語ってくださっている。クーシストの人となりを知りたい方は、ぜひ読んでいただけたらと思う。

クーシストの手による、ゴフリラー制作のヴァイオリンによって奏でられた、このソナタとパルティータの演奏は、シンプルで現代的なアプローチによる演奏スタイルとバロックヴァイオリン特有の落ち着いたくすんだ音の響きと、なによりもクーシストの卓越した技術による音の発音の綺麗さによって、バッハらしい純粋な音楽と旋律の響きを楽しむことができる。率直に言って、この演奏の「音」はきれいで素晴らしい。ぜひ聴いて確認して欲しい。



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