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No4.人生の旅がはじまった場所

病室のベットで考えていた。

「生きるために働く」なんて大げさだけど
「いったい何のために働いているんだろう・・・」

自分の人生を歩んでいないような気がして怖くなった。
このままでは年を追うごとに、心の穴が大きくなってしまうかもしれない。

「夢や目標のない、自分の薬剤師人生は、このままでいいのか」

何も変化のない毎日に安定を求めては、どこか物足りなさを感じる。
思い描いていた薬剤師人生、何かが違う。

悶々とした薬剤師人生を歩む中、首を骨折する大きな事故。
これからどのように生きていくか「生き方」を考えるなかで
入院3ヶ月はあっという間の時間だった。

人生80年時代を迎える今、その人生もただ長いだけでなく
人生に対する価値観や生き方の価値をどこに置き
仕事もプライベートも充実している豊かな人生であることが大切だと考えた。

じゃ、豊かな人生って一体なんだろう?
人それぞれ価値観は違う。だけど僕たち夫婦は一緒だった。
これまで、学生時代から何をするにも一緒だった。
仕事も一緒となれば、向かうところ敵なし、無敵だった。
これからの人生を話し合い、生き方について話し合った。
そして、僕たちは結婚した。

僕たちは、ワークライフバランスを上手くとりながら
心豊かに「クオリティー・オブ・ライフ(QOL)」を心がけたいと考え
その第一歩として、住みたい場所に移住することにした。

移住する候補は、種子島や奄美大島、沖縄
当時世界遺産になったばかりの小笠原諸島。
サーフィンをライフワークの一部にしたいから離島ばかり。

中でも「長寿の島」として有名な沖縄は、長寿地域の指標である
人口10万人当たりに占める百歳以上長寿者の割合が日本国内でも上位。
その長寿を支える地域医療、在宅医療に興味があった。

東南アジア文化、アメリカ文化、琉球文化が
上手くチャンプルー(混ざった)された沖縄は本土と違い、刺激的。
自然豊かな環境は、子育てに最適だと思った。
どれをとっても沖縄は魅力的だった。
透き通る青い海と年中温かい気候、サーフィンする環境もバッチリだ。
僕たちは思い切って沖縄へ移住を決めた。

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たくさんの友人、兄さんや姉さんに出会い沖縄の生活はホントに楽しかった。
思いっきりサーフィンをして、思いっきり仕事をする。
シンプルなライフスタイルが、僕たちに丁度よくとても心地よかった。

まだ暗いうちに起床し、身支度を整え、太陽が昇り始める中
サーフィンを楽しみ、まだ髪も乾かぬうちに薬局へ出勤。

朝、サーフィンをして仕事をすると、「疲れませんか?」と
よく聞かれるけど、疲れる以上に楽しく、むしろ逆に調子がとても良い。
体調が良いので、投薬は元気良く、清々しくらい。

サーフィンは、精神的健康が得られる数少ないスポーツの一つだと思う。
自然の中で行うスポーツは、セロトニンという幸せホルモンが脳から分泌される。

セロトニンは、ストレスに強く、心のバランスを取りストレスによる
緊張状態を落ち着かせる。またメラトニンの量も増え、夜もグッスリ
眠ることができる。

毎日、規則正しい生活を送り、セロトニンが爆発している
僕たち夫婦は、患者からよくこう言われていた。

「あなた、元気ね!」
「声が明るくていいわ」
「たまにあなたの顔見にきてるの」

医療従事者の基本である“知識”はもちろんのこと
もっと人として大切な“元気”という薬を調剤しているようで誇らしかった。
これが僕たちが移住して見つけた、生きがいでもあり、働きがいだった。

雄のジャーマンシェパードのアースを飼いはじめますます生活は楽しくなった。
たえちゃんは、大の犬好きで大型犬を家の中で飼い
毎日一緒に寝ることが夢だった。

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アースにスケボーを引っ張っってもらったりして。
僕たちが思い描いていたライフワークバランスだった。

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こうして約4年間少しずつ積み上げてきた生活は、突然のガン宣告によって
ガラガラともろくも崩れ去ってしまった。
当然、離れたくないと思ったけど、若い夫婦に残る選択はなかった。

福岡に帰ってから、しばらく経って沖縄へ遊びに行く機会があった。
僕たちを待っていたのは、

「おかえり〜」
「心配したやっさー」
「よく頑張ってるね」

と優しく抱きしめてくれる友人たちだった。

帰る場所のある幸せは、僕たちにとっての大切な宝物。
沖縄で過ごした時間はかけがえのない宝物。
僕たち夫婦にとって生きる勇気を与えてくれる。

沖縄を離れてもうすぐ4年。
沖縄に住んでいた時間より長くなった。
今は、宮崎に住んでいるけど、沖縄の友人が遊びに訪ねてくる。
いつか笑顔で、「よくなったよ」と報告しに帰りたい。
沖縄は、僕たち夫婦の人生の旅がはじまった場所だから。



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