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ネーミングを何度もプレゼンして2000案書いたのに初回に出した案に決まった話

10年ほど前の話で恐縮だが、すこし“ほろ苦”な体験を話そうと思う。とあるBtoB企業のサービスネーミングをお手伝いしたときの話。タイトルにも書いた通りなのだが、ネーミングを2000案ほど提案した。もちろん一度にではなく、何度も何度も何度もプレゼンをした。コピーライターの方の中には、これくらい書いたことがある人はいるかもしれない。私の場合、コピーライター人生15年の中で最多提案記録だ。

なぜそういうことになったのか。いちばんはもちろん私の力不足。ただし、今思い返すと、クライアントサイドにも問題があったように思う。まず、打ち合わせに出席する人が多い。誰が決定権者なのかがハッキリせず、みんなが思い思いに感想を言って、“次回までの宿題“になる。珍しく予算がふんだんにある仕事だったので、投げ出すことなく宿題を提出し続けた。そんなことの繰り返しを2ヵ月くらいやった。

ネーミングという仕事は、いくらでも考えることができてしまう。たとえば「自由」という意味を込めた商品のネーミングを考える場合、さいしょは日本語で考える。「自由」から連想して、「自在」「解放」「自由の国」「気持ちいい」…… 無限に広がる。そして次に外国語でも考える。コピーライターになった時に、先輩に買うことを強要された『13か国語辞典』というものがある。

この本は、日本語で「自由」という欄を見ると、ページの左から英語、フランス語、イタリア語、スペイン語、ポルトガル語…で「自由」がどういった言葉なのかが列記されている。果てはラテン語まで掲載されていたと思う。これらの単語を駆使することで、ネーミングの数は、またもや無限に広がっていく。とはいえ、この辞典を使うとどうしても機械的に案を増やしがちになる。クリエイティブという観点からはあまりおすすめできる案はできない。困ったときにすがる方法だ。ただし、たとえばネーミングの対象がパスタであった場合、イタリア語を使うというのは“ベタなやり口”であり、そういった場合にはとても役に立つ。

その他にも、もっともクリエイティビティが試されるのが、何語でもない“造語”というカテゴリー。コピーライターとしては腕の見せ所だ。とはいえ、何語でもない分、「会心の出来だ!」と手ごたえを感じていても、提案してみるとクライアントの反応は薄かったりする…。

これがネーミングという仕事なのだが、沼にはまると私のように2000案提案する羽目になってしまう。クライアントには申し訳ないが、最後は「どれでもいいから早く決めてくれ」という気持ちになっていたと思う。そして提案を10回ほど繰り返したある日、決定の連絡が来た。決まった案を聞いた後、自分が使っていたノートを見返してみた。考案初日の5案目くらいに書いた案だった。まあ、そんなもんだよな。

苦労したぶん思い出になった。そしてそのサービスは、今はもうない。

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