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企業家と組織

今回は、企業家と組織の関係について深堀りしていきます。さらに、学術的な見解からキャリア論にまで展開していきます。
このnoteから、企業家を目指す方のキャリア形成の一助になると幸いです。では、始めていきます。

起業のほとんどの事例を、このようなプロセスで説明することができます。

①企業家はアイディアを実現したり維持したりするために、企業を新たに組織するか、現在所属する企業を新たな方向に向けるようにアクションする。
②企業家は、物的資源と人的資源を用意する
③従業員を管理するために、ミドルマネジメントを用意する。
④ミドルマネジメントが企業家と従業員を繋ぐ役目を果たし、企業家のアイディアの実現を管理する。

このプロセスは、特に成長スピードが速い企業に多く見られます。しかし、企業家はアイディアを実現するために組織を構築するのですが、企業家と組織の間には、一つのパラドクスが存在しています。

企業家と組織のパラドクス

企業家と組織の間の存在するパラドクスとは、

官僚主義的な規則と変化の乏しい組織は、簡単に企業家のビジョンをだめにしてしまう

ということです。これは、シュンペーターの『資本主義ー社会主義ー民主主義』という著作のなかでも議論されていたこでもあり、彼は「官僚主義と政府による干渉は、資本主義体制を前進させるが、それに正当性を当てる活力を窒息させてしまうだろう」と主張しております。
このパラドクスについて理解を深めるために、20世紀前半におけるアメリカにおいて、最も強いインパクトを与えた巨大組織に関する諸研究を確認していきます。テイラーの『科学的管理の原理』、バーリーとミーンズの『現代株式会社と私有財産』、バーナムの『経営者革命』、ウィリアム・ホワイトの『組織のなかの人間』の研究を検討すると、彼らは、資本主義が進化するにつれて監査役が企業家に打ち勝つということを主張しています。彼らは、組織を硬直的な手続きを意味し、それに対して、企業家精神を創造性と結びつけました。20世紀前半において、組織の安定こそが経済成長をもたらすという主張がトレンドであり、企業家的側面は軽視されていました。確かに、組織は安定を求めますし、企業家は変化を求めます。この相違により、上記のようなパラドクスを生んでしまうのです。
しかし、日本やヨーロッパ企業の台頭による世界規模での競争において、このようなトレンドは変化していきます。

組織での企業家とイノベーション

第2次世界大戦後の世界において、硬直化した巨大組織が世界規模の競争に対応できず衰退していく事例がみられるようになりました。この事例から、環境の変化に対応するための組織内の理論が生まれるようになります。
例えば、ウィリアム・ラゾニックは、各国間の競争を再考し、1980年代の日本の企業の中に、マネージャー層が近代的な官僚組織を備えた会社のすべてのリソースを、イノベーション・プロセスに巻き込む能力を持っていることを発見しました。彼は、ミドルマネジメントこそが組織に変化をもたらすと考えました。また、ドラッカーは企業が新しい環境に適合するための制度として、「企業内企業家」と「企業内ベンチャー」という考えを導き出しました。
実際、「イノベーションは組織の内部で起こるものであり、トップダウンのプロセスからは起こらない」という考えが、多くの経営研究者のなかで共有されています。彼らは、戦略がどのように定式化されているかが重要でなく、それが第一線でどのように実践されているかを重要視しているためです。また、イノベーションは多くの場合、進歩的なー時には、偶然的なー学習プロセスのなかで生まれます。もちろん、学習が唯一の要因ではありません。学習を強調しすぎると、組織が極めて困難な状況において、望まざる結果をもたらす場合もあります。そのため、組織的な学習は、意思決定者による統制のうえで成り立つ必要があると考えられています。

最後に、アルフレッド・チャンドラーのの企業家に関する主張を紹介します。チャンドラーは『経営戦略と組織』という著作の中で、企業家の機能と経営者の機能を事細かに分けました。彼は、企業家の仕事を「経営管理の階層構造を作り上げ、人材を配置し、それを完成させること」と論じ、経営者の仕事を「その企業家が作り上げた管理体系を維持し、秩序をもたらすことである」と論じました。この主張から企業家と経営者という立場を同一視することができないということが理解することができます。


いかがだったでしょうか。組織と企業家には一種のパラドクスあること、変化に対応するために企業の中に企業家が活躍できるような場所を用意することなどが、この議論のなかから理解することができると思います。では、この議論を起業したい人のためのキャリア論への展開していきます。

・企業家と組織にはパラドクスが存在している。
➡まず、大企業や需要が安定している企業、行政機関では、企業家的人財の活躍はあまり見込めない。それでも大企業への就職を考える人は、変化を推奨する組織文化を持っているかどうかを必ず確認すること。
・組織が、変化に対応するための役割を担うのはミドルマネジメント。また、「社内ベンチャー」を設置することで変化への対応が見込める。
➡企業に所属しているのであれば、企業の戦略と市場環境を調和を司るミドル・マネジメントを目指すこと。また、普段の業務とは独立する「社内ベンチャー制度」があるであれば、それは組織が変化を推奨する組織文化を形成している可能性がある。
・イノベーションはトップダウンでは起こらない。企業内部での学習プロセスによって起こる。
➡イノベーションを起こそうとする制度自体を見てはいけない。そうでなく組織内部を見ること。研究や調査をすることが仕事とされる部署(マーケティングやR&D等)が存在しているのであれば、市場の変化に敏感な組織である可能性があり、イノベーションを起こそうとする企業文化や、変化に応じた流動性が担保されている可能性がある。
・企業家はアイディアの実現のために組織を形成する。また、企業家の仕事はその組織を完成させること。
➡企業家を目指すのであれば、何か組織を立ち上げることに関わる経験をするか、まだ完成されていない組織〈ベンチャー等)に飛び込む必要がある。その経験から、どのように組織が形成されていくかを学ぶ必要がある。

以上が、今回の議論から展開することができるキャリア論です。しかし、これは私が展開したものです。一概に正しいと豪語することはできませんが、だれかのキャリア形成の一助になることを願います。

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