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書物の帝国(購書日記2020.11.2)

購入

神樹兵輔『経済のカラクリ』(祥伝社新書)

読了

グガ・ハン『砂漠が街に入り込んだ日』(リトルモア)

架空都市(「ルネオス(Seoulの逆読み)」という場)の断章8篇から構成される物語。都市や人生における不条理、孤独感が、灰色単色で塗られた世界を徘徊するような感覚。灰色だけの世界で、まるで自分以外の人物たちが虚ろな登場人物たちが生活しているという環境で、唯一たましいを持つと思われる主人公が闊歩する世界。安倍吉俊さんの『回螺』を彷彿させる世界観。異邦人として大都市に来たときに感じる孤独感を見事に物語に昇華させ、永遠に物語の中に封印してしまったのかもしれない。永遠に煉獄を彷徨うウツロたちの姿は、ある種ゾッとするものがある。

灰色の街で

そんな環境の下で主人公だけが(もしかすると当人も魂無きウツロかもしれないが)、なんとか世界のゲームのルールを理解しようとする姿には、ゲーム的な何がを感じる。そう、この感覚はなんというか、ゲームのサイレントヒルの世界観に近く、傍観者になりつつ、灰色に彩られた都市のいち住人として生活する虚無感。異邦人でもあり、都市の虚ろな住人でもあり、自分という個性を失う名無しへの変換が進行していく。あるものは騒音から聾の世界へ、実に不条理な展開になっていく。自分たちは死んでも、所詮忘却の川の淵へと消えていくものなのだが、都市の中で人知れず、土へと還っていく感覚が、灰色世界との融和なのかもしれない。しかし、それを拒絶するためにはモノトーンの灰色を拒絶しなければならない。世界と同一化しないために、「放火狂」ではある行為が行われる。このことによって、魂は昇華され、「ルネオス」からの脱出がなされる。世界にようやく彩色が戻る瞬間、我々もまた現実の空間に戻されるのかもしれない。

コロナ禍の下で、閉塞感みたいなものを感じている人は共感できる一冊。引きこもり生活ってこんな感じに淡々と進行していくのだろう。



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