開発の牽引役はスタートアップに?核融合市場の成長と、日本の技術的優位性とは
こんにちは!Dawn Capitalインターンの八並映里香です。
本稿は、「最近なぜ核融合が再注目されているのか?」という問いに徹底的に答える記事となっております。
核融合とは2つの原子核を融合させてより「重い」原子核を作る反応を引き起こし、そこから莫大なエネルギーを取り出す技術です。
核融合は太陽が光り輝き続ける原動力にもなっていることから、核融合炉は「地上に人工太陽を再現する技術」と言われることもあります。
核融合発電の発電量は燃料1グラムで石油8トン分(原発は1.6トン分)とも言われ、脱炭素化・エネルギー不足問題の文脈から以前より注目されるエネルギー生成技術ではありました。
しかし、途方もない開発規模・年数・コストから「実用化は何十年も先」と言われ、投資トレンドの傍流にありました。
しかしThe Business Research companyによると、世界の核融合市場規模は
2022年の2,964億ドル→2023年には3,135億6,000万ドルにまで、
年間平均成長率(CAGR)5.8%で成長すると予想されています。
また2027年には、CAGR 6.0%で3,951億4,000万ドルに達するとされています。
一体、核融合市場で何が起こっているのか?
果たして今後の核融合市場はどのように成長するのか?
本記事では、
「直近で着目すべき核融合ニュースのタイムライン」や
「核融合スタートアップのカオスマップ」、
「核融合サプライチェーンの未来予想図」
などにスポットを当てながら、本トピックの情勢を把握していきます。
【読了時間目安:5分】
1. 『核融合実現は2050年』はもう古い
なぜ、核融合が最近注目されているのか?
その答えは、米英を中心にこれまでの「核融合の実現は30年先」という見解を覆すようなニュースが相次いだことにあります。
以下に、核融合のトレンドを追うにあたって必ず着目すべきニュースとその解説を時系列順に示しました。
【解説】
ⅰ - マッキンゼーは、2023年1月にエネルギー専門家チームによる核融合の今後についての洞察レポートを発表しています。
このレポートを記述した専門家チームは、2022年10月に英国原子力庁と核融合クラスター主催の核融合業界カンファレンス、Fusion22というイベントに参加しました。
彼らはその上で、
「(近年の技術的進歩から)商用核融合までのスケジュールは短縮されている。Fusion22では、商業核融合への道はもはや30 ~50年も先の話ではない、というのが核融合業界の開発リーダーの間での一般的な意見とされていた」
と記述してこれを非常にインパクトある出来事として取り上げ、核融合開発に対する認識が業界全体で変容してきていることを明らかにしました。
FIA(核融合産業協会)が行った核融合企業へのヒアリングにおいても
という問いに対し、最も多い回答は2031-2035となっています。
期待値的な見方はあるにしても、ほぼ全ての開発企業が「after 2050」と答えなかったのは注目されるポイントです。
ⅱ - 米国エネルギー省本部で開催された記者会見でエネルギー省長官グランホルム氏は、ホワイトハウス科学技術政策局、国家核安全保障局の関係者とともに、米ローレンス・リバモア国立研究所での実験で「核融合反応から得られたエネルギーが、投入されたエネルギーを世界で初めて超えた」という趣旨の発表を行いました。
グランホルム氏はこれをライト兄弟のキティホーク初飛行と同等の「21世紀で最も印象的な科学的偉業の一つ」と呼び、核融合エネルギーの世界を変える可能性のあるブレークスルーであると述べました。
ⅲ - アメリカの核融合スタートアップHelion Energyは5月10日、同社の核融合発電所の電力をマイクロソフトに供給する契約を締結したと発表しました。
この契約は「世界初の核融合発電によるエネルギー購入契約」であり、核融合エネルギーの実用的稼働・商業化が期待されています。
Helion Energyは「新しい施設は少なくとも50MWを供給し、2028年までに発電を開始することを目指している。」と述べており、その真偽はいささか懐疑的ではありますが、商業化・実用化の流れはすでに進み出したとも言えます。
2. 開発の牽引役はスタートアップに
2023年1月時点のデータによると、世界には33社の核融合スタートアップがあります。
以下は上記日時時点での核融合企業カオスマップであり、複数存在する核融合の発電方式や周辺機器ごとに企業が区分けされています。
FIA(核融合産業協会)のレポートによれば、2022年の核融合投資額の累計は約48億ドルです。
ここで内訳を見てみると、1年前の調査に比べて主にスタートアップに投じられた民間資金は28億ドル増加し、累計で47億ドルを突破しました。
また、政府による核融合投資や補助金は合計1億1700万ドル強なので、実に投資額のほぼ全てが民間投資に当てられていると言っても過言ではありません。
このように核融合の投資概況の最も注目すべき点は、
2021年以降核融合の投資・研究は公共組織→民間組織へと移り変わってきているという点です。
その理由として、2021年に核融合開発に関して少なくとも3つのブレイクスルーが起きたことが挙げられます。
これが、2020年と2021年の顕著な数値変化の背景です。
しかし、なぜ公共投資は衰退してしまったのか?
元々核融合開発の滑り出しは2000年代に開始した「ITER計画」という公共投資によるプロジェクトであり、2025年の運転開始を目指して日本・欧州・米国・ロシア・韓国・中国・インドの7極により進められています。
本プロジェクトは35カ国の協力で行われていますが、公的組織は
という課題点を持ちます。
このため数々のブレイクスルーを受けた機動力の高いスタートアップが勃興し、Helion EnergyやCommonwealth Fusion Systemsのようなユニコーンが誕生する中で核融合開発は「国際協調」から「国際競争」の時代へと変容したと考えられます。
以上の流れを受けて同年12月にCFSは核融合エネルギーの商業化に向けてシリーズB資金で18億ドルを調達したと発表し、こちらは投資額の増加に大幅に貢献しています。
3. 日本が世界で勝つ方法
日本企業・スタートアップが核融合に挑む場合、その勝ち方としては以下の方法が考えられます。
ご存知の方も多いでしょうが、2023年5月17日、京都フュージョニアリングというスタートアップがシリーズCラウンドで105億円調達という大規模資金調達を発表し、累計資金調達額は122億円になりました。
京都フュージョニアリングは、核融合炉周辺およびプラントに必要な機器・システムの研究開発を担うプラントエンジニアリング企業です。
意外なことに、実は日本は核融合炉に必要な部品の製造技術が非常に高い国です。
例えばトマカク型という核融合炉一つをとっても、主要機器にはこれだけ日本の技術が使われています。
先ほどご紹介したITER計画においても日本が関与している技術はかなりの数があり、核融合開発に必要な機器に関する日本の技術力の高さが伺えます。
実は日本は、1990年代から核融合に関する技術を磨いてきた国です。
下記は核融合に関する論文数の各国比較ですが、我が国の発行数は米国と同等の部数を誇ります。
さらに2017年には、インパクトのある技術を表彰するNI Engineering Impact Awardsにおいて日本の核融合科学研究所の助教である神尾修治氏が最高の賞である「Engineering Grand Challenges Award」を受賞し、世界130の論文中、日本の人材の核融合技術が1位になるという快挙も打ち立てています。
このようにあまり知られてはいませんが、実は日本は優れた論文や人材を有する国なのです。
それでは、日本はこの技術をどう活かすべきなのか?
ここで重要なのが、
「ゴールドラッシュの時に一番儲かったのは、金鉱を掘った人達ではなくツルハシを売った人達である」
という有名なビジネスの法則です。
この話の大前提として、
・流行りのビジネスにはリスクがある
・需要があり競争相手が少ない周辺ビジネスを探す
・人の悩みを解決するビジネスは儲けられる
というものがあります。
では、核融合業界におけるツルハシとはなんなのか?
筆者は核融合市場の発展構造を、簡略的に以下のように表しました。
ここにおけるツルハシとは、ズバリサポーター部分、および点線の中の部分です。
核融合の開発にあたって、その開発に必要な周辺システムは非常に需要がありますが、このシステムには最高峰レベルの高い技術力や徹底的な欠陥の無さが要されます。
ここにおいて、核融合開発に必要な周辺システムというツルハシの供給源に日本がなることが、戦略の一つとして挙げられます。
またこれに関して、「核融合エネルギーは勢いを増している – 世界的なエコシステムの構築は商業化の加速に役立つ可能性がある」マッキンゼーのレポートが示唆的です。
本レポートでは核融合開発は各国の緊密な協力が要されると書いてあり、いわばiPhoneのように世界中から部品が集まって初めて完成するような開発体制が予想されます。
ここで、iPhone開発の中核に立つ日本のポジションを技術開発においても獲得できるか否かが、今後の日本の核融合開発業界に大きく影響すると考えられます。
いかがだったでしょうか?
最後に、FIA(核融合産業協会)による核融合サプライチェーン図をご紹介します。
黄色部分が現在の様相、青色部分が未来予想図ですが、開発が加速するにつれてご覧のように関連事業はどんどん膨らんでいきます。
日本がここに組み込まれる日も、すぐそこにあるかもしれません。
文・リサーチ/ 八並映里香・徐帼豪・宣煌淑
クリエイティブ/ 田和涼太・池田龍之介
Dawn Capitalでは、今後もスタートアップ業界の方に役立つさまざまな情報を発信していきます。
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