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ベンナーズの”未利用魚”が、水産業の未来を変える。 - Dawn's portfolio #1

こんにちは!Dawn Capitalの池田龍之介です。
今回はDawn Capital投資先の一つ、”未利用魚”のミールキット「Fishlle!」を提供する株式会社ベンナーズをご紹介します!

引用:「Fishlle!」公式HPより

Dawn Capitalは2022年1月に初めてベンナーズ社への投資を実施し、2023年1月にもフォロー投資させていただきました。

本稿では”未利用魚”という聞き馴染みのない商品を提供する同社に関して、
・深刻な問題を抱える日本の水産業界の現状
・”未利用魚”とは何か
・なぜ今、ベンナーズの”未利用魚”が大事なのか
・創業者紹介
・Dawn Capitalメンバーで実際に「Fishlle!」を調理・試食した様子
等をご紹介します。

ベンナーズという大注目スタートアップについて知ると同時に、近年の世界の水産事業への知見を深められる記事となっております!

反比例する、日本と世界の漁獲量

引用:Unsplash

ベンナーズは、
「日本の食と漁業を守る」というVisionと、「水産業界に関わる、全ての人を豊かにする」というMissionを掲げています。
その前提知識として、みなさんは今日本の漁業が深刻な問題を抱えていることをご存知でしょうか?

まずは、以下の図をご覧ください。

https://toyokeizai.net/articles/-/617222?page=2 の図をもとに筆者作成。
一部変更・簡略化

日本における漁獲量は1980年代をピークに急激に減少しており、現在の漁獲量はおよそ400万トンと、ピーク時の1,200万トンのおよそ1/3にまで減少しています。
古くから魚文化を擁する日本でここまで漁獲量が減っているということは、世界的に見てもその漁獲量は減っているのではないかと思われる方もいらっしゃるでしょう。

ここで、以下の図をご覧ください。

https://toyokeizai.net/articles/-/617222?page=2 の図をもとに筆者作成。
一部変更・簡略化

これは先ほどの図に、世界の漁獲量の推移を重ねたグラフになります。
驚くべきことに、日本と反比例して世界的な漁獲量は年々増加していることが読み取れます。
またこちらの記事では、魚介類は世界の動物性たんぱく質供給量の16%を担う重要な食料資源となり、世界の1人当たりの食用水産物の消費量は過去半世紀で2倍以上に増加したと言われています。

元来より魚食習慣の強いアジアやオセアニア地域では、生活水準の向上に伴って顕著な増加傾向が見られます。
特に、中国では過去半世紀に約8倍、インドネシアでは約3倍となるなど、新興国を中心とした伸びが目立っているようです。

日本では1人当たりの水産物消費量の伸びは鈍化傾向にあるものの、世界的に見ればその消費量は非常に高水準であり、やはり日本の食卓に魚介類は欠かせないものであることは間違いありません。

しかし、なぜ各地域での需要増加に伴って世界の漁獲量は上昇傾向であるにも関わらず、根強い魚文化を擁する日本では水産資源不足に陥りつつあるという不可思議な現象が起こってしまったのでしょうか?


日本の水産業界が直面した「負のスパイラル」

引用:Unsplash

漁獲量減少の大きな要因は、以下の二つが挙げられます。

・魚の獲りすぎ
・漁業従事者の減少

日本では戦後、食糧難対策の一つとして漁場の拡大が行われてきました。
その逼迫した状況から、できる限り多くの魚を獲って人々の栄養に繋げたい、取れなくなったら別の漁場で取れば良いという考えが、戦後の日本における「持続可能な漁業の実現」よりも優先されてしまったのでしょう。

また日本海には暖流と寒流がぶつかり合う潮目が存在し、プランクトンが豊富なため美味しい魚が多く生息しています。世界的に見ても貴重なこの水産資源のもと、漁師たちはより多くの魚を獲るために漁具に投資し、漁獲量を拡大させていきました。

このように戦後の食糧難と豊かな水産環境、漁獲技術の発展を通じて、かつての日本の漁業は拡張していったのです。

引用:Unsplash

しかし当然の事実として、人間の漁獲能力が魚の繁殖スピードを上回れば、魚が減少していきます。
一部の漁師たちは、獲れる魚が減ってしまうと、本来は未来の繁殖のために獲るべきでない小さな魚であっても乱獲を行うようになりました。
こうした背景から魚卵の数までもが減っていき、魚自体の数が目減りしてしまったのです。

翻って水産業者の視点からこの事態を鑑みると、水産資源が減り小さい魚ばかりが獲れても、それらは市場で価値がつきにくいため水揚げ価格も低下します。

持続可能な漁業が営まれなかったために日本の貴重な水産資源が無計画に消費されていく中で、漁師がかつて得ることができた利益までもが減っていき、すると経済的な事情から、後継者も減っていきます。

この負のスパイラルこそが、今の日本の漁業が直面している現実なのです。


解決策は「持続可能な漁業」

引用:Unsplash

それでは、この負のスパイラルを脱するには何をすべきなのか。

ここで、こちらの記事を参考に、国際的にみて持続可能な漁業としての認証取得が進んでいる米国漁業(アラスカ)の例を参照します。

アラスカでは、魚種ごとのばらつき・漁獲量の一時的な減少があっても再び増加・回復するというサイクルを繰り返しています。
この要因として、持続可能な漁業に関する国際的な水産エコラベル認証、「MSC(Marine Stewardship Council・海洋管理協議会)認証」を取得している漁業で獲られた水産物の割合が、漁獲量全体の8割を超えているという点が挙げられます。

引用:httzps://umito.maruha-nichiro.co.jp/article01/

また、同じく重要な国際的な資源管理の指標として「MSY(Maximum Sustainable Yield=最大持続生産量)=「魚を減らすことなく獲り続けられる最大数量」としての指標が存在します。

例にあげたアラスカでは、「MSY」を維持するように漁業が行われていますが、日本の場合、資源評価データがある魚種で試算したところ、「MSY」を維持できているのはわずか1割程という結果がでています。

つまり、今後の日本の水産業界にとっては、いかに持続的な水産資源の利用を推進できるかが鍵となっていくのです。

なぜ今、ベンナーズの”未利用魚”が重要なのか

引用:Unsplash

「30〜40%」。

これは、日本で水揚げされる魚のうち、味には関係の無い理由で廃棄されてしまう魚の割合です。
現在の日本年間漁獲量はおよそ400万トンなので、約120~160万トンが上記の理由で捨てられている計算になります。
これらの捨てられてしまう魚を”未利用魚(みりようぎょ)”と言います。

水揚げ量が減少し、持続可能な漁業が重要である日本で大量に魚が廃棄される理由としては、以下が挙げられます。

・魚の形が良くない
・傷がついていて見栄えが悪い
・鱗や骨の特性上加工がしづらい

しかし、水揚げ時に傷がついてしまう・形が少々良くないものがあるのは、魚が生き物である以上当然のことです。

味は美味しく鮮度も抜群なのに、理不尽な理由で捨てられてしまう。
これらが”未利用魚”です。

この課題を解決するスタートアップこそが、未利用魚サブスク「Fishlle!」を提供する株式会社ベンナーズです。
「Fishlle!」は”未利用魚”を活用し、ミールキットのサブスクとして展開しています。つまり「Fishlle!」は、日々の食卓に新たな美味しさをもたらすと共に、それらを食べることで日本の魚のフードロス問題解決にも繋がるのです。

以下では、「Fishlle!」のミールキットに使われている主な未利用魚をまとめました。

表は筆者作成

一概に形や見映えだけではなく、「水揚げ量が少ない」というのも未利用魚になる大きな理由の一つです。
まとまった量が獲れないから買い手がつかず、市場に出回らない。
しかし、これらの魚は言い方を変えれば、“漁師しか知らない幻の魚”とも言えます。
普段スーパーで目にすることのない、珍しくて美味しい魚が食べられるというのも「Fishlle!」の特徴です。

廃棄されるはずだった未利用魚を、有効活用できる。
漁師しか知らない美味しい魚を、簡単に食べられる。
「Fishlle!」の利用が、日本のフードロス問題の解決にも繋がる。

この「作り手・使い手・社会」の「食の三方よし」を実現する事業展開こそが、「Fishlle!」の凄さ・強みと言えます。


トレンドに乗りつつ、独自路線を歩むベンナーズ

引用:https://www.unicef.or.jp/kodomo/sdgs/about/

ベンナーズは事業を通じて、

SDGs12条:つくる責任 つかう責任
持続可能な方法で生産し、責任を持って消費する】
SDGs14条:海の豊かさを守ろう
持続可能な社会のために、海と海の資源を守る 海と海の資源を持続可能な方法で利用する】

ベンナーズのPR TIMESより

への貢献を目指しています。
このように、同社は日本の水産業界の改革だけではなく、持続可能な社会を目指す国際社会の潮流も意識した、先進的な取り組みを行っているのです。

加えて”未利用魚”という文脈にフォーカスしたスタートアップは、世界的に見ても極めて珍しいものです。
先述したように特にアジアなどの新興国では魚介類の需要が高まっているため、

シンガポール:養殖と細胞培養技術により代替魚を生産するShiok meat
インド:
養殖に関する助言、市場連携の提携を行うaquaconnect
ドバイ:
ブロックチェーンを活用したサプライチェーンのトレーサビリティによる水産業界のデジタル化を行うSEAFOOD SOUQ
インドネシア:
水産養殖業界向けのソリューション開示を行うeFishly

引用:https://welpmagazine.com/20-startups-taking-on-the-seafood-industry-in-2021/

といった数々の水産系スタートアップが勃興しています。
しかし、これらは代替魚ビジネス・水産業界の管理ビジネスといった文脈が色濃く、”未利用魚”を扱うベンナーズの事業は先行優位性・競合優位性がともに非常に高いものであると確信しています。


ベンナーズ代表 井口氏とDawn Capital

そんな「Fishlle!」を提供する、株式会社ベンナーズの代表が井口剛志さん。井口さんは、彼の祖父の代から水産業を営む家庭で育ちました。

井口 剛志氏(いのくち つよし)1995年生まれ。福岡県出身。
高校1年の夏に参加した日本の次世代リーダー養成塾をきっかけに、福岡大学附属大濠高校を中退し単身でアメリカメイン州にある、ボーディングスクールに編入。ボストン大学経営学部卒。
祖父母の代から続く水産卸売会社に従事している父の背中を見て育つ。水産業界の複雑な流通構造に疑問を持つと同時に、大学で学んだプラットフォーム型ビジネスモデルに可能性を感じ起業。

井口さんとDawn Capitalの最初の出会いは2021年9月でした。
私たちはFGNスタートアップカンファレンスでお会いし、日本の漁業が直面する問題に真正面から向き合う姿に感銘を受け、出資に至りました。

出資後も、定期的にDawn Capitalメンバーでベンナーズの本社がある福岡に訪問し、密にコミニュケーションを取らせていただいています。
ベンナーズの方々、本当に素敵なチームです!

福岡のベンナーズ社訪問時の写真(左: 代表井口さん 中: Dawn池田 右: 取締役長谷川さん 2022/2)
Dawnメンバーで福岡に訪問した時の写真(2022/10)


実際に「Fishlle!」を食べてみた!

これまでベンナーズの魅力をご紹介してきましたが、彼らの提供する「Fishlle!」は実際どのようなプロダクトなのでしょうか?
そこで今回、Dawn Capitalのメンバーを集め「Fishlle!」大試食会を開催しました!

チーム内でオリジナルレシピを考案し、全部で6種類の「Fishlle!」を調理してみました。
果たして、どのように仕上がったのでしょうか!?

今回作るFishlle!レシピ一覧
「Fishlle!」は、このように冷凍で配送されます!

まずは、「Fishlle!」を流水解凍していきます。

解凍中・・・
付け合わせの野菜も調理していきます!


そして、出来上がった料理が・・・

こちら!!!

とても美味しそうに出来上がりました!!
いざ、実食!

結論:とっっても美味しかったです!!

今回、実際に調理をしてみて感じた「Fishlle!」の良さは、
圧倒的な調理のしやすさです。

流水に数分当てるだけ、そしてそのまま食べられる手軽さ。
普段自宅で魚を調理しようとしても、下処理や調理の難しさから自炊で魚を使うことを嫌う人も多いかと思います。
その点、「Fishlle!」はご飯に乗せるだけ、焼くだけで本格的な魚料理を作ることができます。
改めて、素晴らしいプロダクトだと実感しました!ご馳走様でした!!

また、現在「Fishlle!」では切り身のミールキット以外にも、未利用魚を使った別の商品を開発中とのことです!実際に販売されるのが楽しみです!


ベンナーズが目指す先

現在、ベンナーズ社では魚のフードロスを減らし、日本における水産業の発展と、作り手、使い手、社会を豊かにすることを目的として未利用魚サブスクの「Fishlle!」を提供しています。「Fishlle!」を食べることは、文中でご紹介したSDGs12条”つくる責任 つかう責任”、14条”海の豊かさを守ろう”への貢献にも繋がります。  
しかし、ベンナーズ社が目指すところはその先にあります。

それは、本当の意味での持続可能な水産業の実現です。
現在展開中の「Fishlle!」を通して、魚の需要を増やしていく。そして、今後は「Fishlle!」というブランドを入り口として、作り手と使い手を効率よく繋いでいくようなBtoB領域にも展開を進め、日本の魚食文化の再建、そして新たな流通の仕組みの構築を目指しています。

私たちDawn Capitalは、ベンナーズが水産業界の新たなリーダーとして君臨する未来が来ると信じています。
そんなベンナーズ社を、私たちDawn Capitalは今後も応援し続けていきます!

最後までご覧いただきありがとうございました。

▼「Fishlle!」の購入はこちらから!


本文・リサーチ:池田 龍之介、八並映里香
撮影・クリエイティブ:池田 龍之介