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新作映画『モンタナの目撃者』レビュー

久々にスクリーンで会うアンジェリーナ・ジョリー。良心的な副保安官を演じるジョン・バーンサル。謎の殺し屋コンビを演じるニコラス・ホルトとエイダン・ギレン。この顔ぶれが良い。これだけ多彩な人が集まれば、もうなんでもできるような気がする。加えて、監督を務めるのが『ボーダーライン』(2015)、『最後の追跡』(2016)の脚本家であり『ウインドリバー』(2017)の監督・脚本のテイラー・シェリダン。アメリカの地方の現実や、緊張感あるサスペンス描写に定評がある実力派である。有名俳優がこぞって出演を希望するのも頷ける。


【ストーリー】

森林火災消化隊長のハンナ(アンジェリーナ・ジョリー)は"風を読み違えた"ことで、目の前で3人の男の子達を救えなかったことが心の傷となっている。街の保安官であり元彼のイーサン(ジョン・バーンサル)とその妻アリソン(メディナ・センゴア)は、立ち直れずにいるハンナのことを心配している。

同じ頃、暗殺者のパトリック(ニコラス・ホルト)とジャック(エイダン・ギレン)のコンビは、会計士のオーウェン(ジェイク・ウェバー)とその息子コナー(フィン・リトル)の行方を追っていた。父であるオーウェンは自らが命を狙われる理由となった秘密情報をコナーに託し、2人の暗殺者によって殺害される。

コナーがなんとか逃げ出し森を彷徨っているところ、小川のほとりでハンナと出会う。コナーは父から「本当に信頼できる人を見つけろ」と言われていたので最初はハンナを警戒するが、事情を察したハンナはコナーを守ることを決意する。暗殺者の追跡と同時に、山火事の炎が迫る中、彼らは生き延びることができるのか。


【レビュー】

無駄なき演出でキャラクターの行動と、自然の描写にフォーカスをしたテイラー・シェリダン監督らしい快作だった。主人公ハンナのトラウマについてガラの悪い仲間とワイワイしているシーンからの、パラシュートの肝試し的な場面、そして時々挿入される事件のあった山火事のときのフラッシュバックはあれども、それ以上にキャラクターの背景についての詳しい描写はない。この映画で描かれるハンナの物語の意味を観客に理解させる最低限の情報量にとどめている。演じるアンジェリーナ・ジョリーは、『マレフィセント』(2014)であったような母性をあえて表に出さずに、子どもに対する接し方も分からないような無骨なキャラクターを見事に演じている。

副保安官のイーサンについては、ハンナを気にかけていながらも仕事に対してはストイックで真面目であったり、身ごもっている妻との平和なシーンなど、わずかな出番ながら好感度を持たせる脚本がうまい。そしてジョン・バーンサルの視線や仕草の演技が素晴らしく、観た人が信頼の置ける人物像を体現している。これまでも話題作に出演してきたが、演技派としてさらなる飛躍が期待される。

一方で印象的なのが、本作の悪役である殺し屋コンビである。並ぶとこんなにも背が高いのかと思わせるニコラス・ホルトの身のこなし。仕事の上では対等であるが、自分より年上の相棒に対する尊敬や配慮も感じられ、やたらと痛めつけられる相棒をしょっちゅう気にかけているのが笑える。そして「この仕事は2班体制でやるべきだった」と愚痴をこぼす年長の殺し屋、エイダン・ギレン。容赦ない残酷さを見せながらも、サラリーマン的な中間管理職の板挟みのような渋みもあり、やたらと人間臭い。突然のバイオレンスと、殺し屋2人のゆるい掛け合いとのギャップがテイラー・シェリダン脚本らしくもある。

そしてイーサンの妻を演じるのがメディナ・センゴア。ハーバード・ロー・スクールを出て大企業に務めた後、一転してジュリアード音楽院で演技を学んだという異色のエリートだ。本作がハリウッドメジャー作品初出演でありながら、予想外の活躍を見せる力強いキャラクターで実力を発揮している。本作の中ではアリソンが唯一自身で道を切り開くことのできる人物として描かれており、注目ポイントだ。

以上に挙げたどのキャラクターも、ハンナのトラウマを除けば彼らの過去や人物背景に言及することは一切ない。それは過去を見るのではなく、現在を見て「いま自分には何ができるのか」を必死になって考えることの重大さを象徴しているように思う。とは言っても細かな描写や、役者の演技によって人物のこれまでの積み重ねが画面から読み取れるところも見事だ。

モンタナの壮大な森林、暗殺者から逃げる父子の車が果てしないアメリカの大地を走り抜けて行く描写などのマクロな描写から、田舎町で油ぎった朝食をとる保安官や町の様子などのミクロな描写まで、テイラー・シェリダンがカメラで切り取る現代アメリカが文句なしに美しい。美しいというのは綺麗というだけではなく、泥臭さや過去の影などが感じられるという意味も含まれる。過去の脚本・監督を手掛けてきた作品でも見受けられてきたアメリカの過去の罪と、それとは関係なく雄大に息づく大自然というコントラストが、他にない作家性を感じさせる。揺るぎないテーマをもって今後もどんな作品を作り上げてくれるのか、今後も目が離せない。


【おすすめしたい人】

アメリカ映画らしさを味わいたい

久々のアンジェリーナ・ジョリーの活躍が見たい

クライムアクションが好き



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