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リアルに島へ免許を取りに行ってみた話

私が21歳の時。大学4回生も終盤、就職活動も無事に内定先が決まった2018年の10月末。1人、夜行フェリーに乗り長崎の五島列島にある福江島に降り立った。

きっかけは就職先の内定者研修。何人か初めて会う先輩と自由に話せる時間がちょこっと設けられていたので、未来の先輩を前にちょっとでもいい子を演じようと「入社までにやっておくべきことって何かありますか??」と大学4回生が就活中に10回は言うであろうセリフを例に漏れず言ったわけで。

そこで先輩から帰ってきた衝撃の一言。
「強いて言うなら運転の練習しといたほうがいいかもね〜」

…???確か応募要項に運転免許は必須とは書いてなかったはず。練習も何も免許持っていない私は慌てて他の先輩にも確認すると持っていない場合は入社後に取る必要があるらしい。…詐欺ではないか。

内定者研修を終えた後、大急ぎで免許合宿所を探した。通いよりも安いと聞くし、何より早く免許の取れる合宿一択だった。免許合宿に行くと話をしたら幼馴染が「五島の免許合宿いいよ!馬のれるし」と。馬に乗れる?なら行くしかないじゃないか(乗馬未経験)

友人との約二週間の卒業旅行でアジアを飛び回った後、すぐスーツケースの中身を入れ替えてそのまま五島に向かった。リアル版“島へ免許を取りに行く”だ〜なんて思っていたけど、よく考えればあの本は著者の実体験が元になっているのだからそもそもリアル版なのだ。ちなみに本はまだ読んでいない。このnoteを投稿したら読みたいと思う。


フェリーで夜を明かして福江の港に降り立ったのは朝8時ごろだったと思う。教習所のスタッフの方が車で迎えにきてくれていた。ショッキングピンクのキャリーケースを載せて、ハイエースに揺られ着いた教習所。海と山に挟まれた静かな場所だった。キャリーケースを引きずりながら案内されていると、丁度朝ごはんを食べに宿舎から降りてきた男性と会った。

「あれ、新しい人ー??」…第一声からめちゃくちゃフレンドリーだった。

免許合宿といえば、友人同士で長期休みに旅行感覚で行く方が多いだろうけど、11月という長期休みでも何でもない時期に集まっていた人はみんなほぼ1人で来ていた。大学を中退した人、海外で働いていたけど帰国した人、転職する合間できた人。みんな色々なバックグラウンドがあって、みんな孤独で、何だか居心地がよかった。

夜中みんなで隣のビーチまで歩いて行って砂浜に寝っ転がって焼酎をラッパ飲みしたり、教習所の隅から発掘してきたいつのものか分からないコンロでBBQしたり、満潮していく海を見ながらプラカップでワインを飲んだり、誕生日の子がいればみんなでお祝いしたり。何も接点がない人同士ワイワイやるのは意外と気楽で心が満たされた。

この教習所にいる間だけの付き合いと思えば、普段は人からの誘いにはっきりNOが言えない私でも、気分が乗らない日はそれだけを理由に誘いを断れた。1人で歩いて苦汁入りのアイスクリームを食べに行くのが好きだった。お目当てだった馬にも乗った。1人堤防に寝っ転がって星をみたりもした。朝ステンドグラスから差し込む光で起きる。カーテンを開ければ海、玄関を出れば山が見えて空気が美味しかった。何だかいつもより元気で過ごせていた気がする

いつも行くコンビニもない、amazonもプライム会員なのに次の日には届かない、フラッと歩いて1人カラオケも行けない。もちろん免許もないから時間を気にせず好き勝手島を巡ることもできない。釣りとパチンコ以外の娯楽はない島なのだ、それはもう本当に。ただ、私はあの二週間がいつまで経っても忘れられない思い出で、あの瞬間だけは本当の意味で心が楽だったかもしれない。

何もない場所だったけど、私が望んでいた物全てがそこにあった気がする。そんな島の話。

鬼岳での一枚


追伸:無事に免許も取れました。

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