いちょう柄のスカーフ
秋だったと思う。
Anthropologie(私の好きなブランドだ)で、いちょう柄のスカーフが目に留まった。真っ先に彼の母親の顔が思い浮かぶ。秋生まれでスカーフが大好きな彼の母親に、ぴったりだと思った。
値段はスカーフにしては随分高い、と当時の私は思った。スカーフと言ってもマフラーみたいに防寒性のあるものではなくて、首が少しだけ寒い時に巻く、ツルツルで薄いものだったから。自分の母親世代の人にAnthropologieをチョイスするというのも、まあ若干年齢層が若すぎるかもしれない。
でも、これ以上のプレゼントは見つからないだろうと思った。
値段だって、今まで彼女にしてもらった数々のことを思えば安すぎるくらいだ(安くはないけど)。
こうやって悩んで、少しだけ奮発して買ったんだと知ったら、彼も喜ぶだろうと思った。
店内を3周した後、購入を決める。彼女への感謝の気持ちを、自分が働いて稼いだお金でプレゼントを買って示せることが嬉しくて、誇らしい気持ちだった。
家に帰って、早速彼に「見て!かわいいでしょ!プレゼントに買ったの!ちょっと高かったの!」と報告する。
彼は嫌そうな顔をした。
自分がしてあげたことを自分で吹聴して回るのは、ましてや「高かった」なんて言うのは、みっともないと言われる。返す言葉がない。
褒めて欲しいのではなくて、それくらいあなたのお母さんに感謝しているんだということが伝わったらいいなって、思っただけなんだけどな。
まあ何回も言われたら鬱陶しいか。私は気をつけないと、しつこくなりがちだし。嬉しいことは何回も話してしまう。
何か言い返そうと思って口を開いたが、何も言えなくて黙ってしまう。なんだか恥ずかしかった。
ギフトボックスが目につくと、恥ずかしくて口をパクパクしている自分が思い浮かんで、また恥ずかしい。だからクローゼットの目につかない場所にしまいこんでしまった。
それでもしっかり覚えていて、次に彼の母親に会う時には忘れずに持っていった。
とても喜んでくれたし、とても似合っていた。いちょうの黄色も、美しい秋も、彼女のためにあるんだと思うくらい。
余計なことを言わなければ、彼ももっと喜んでくれたかな。
値札も見ずにレジに持って行っちゃって、「これ、みんなからのプレゼントよ」みたいな涼しい顔をして、スマートに素敵なプレゼントを贈る、そんな人になりたいなあ。
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