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続・すごく大好きだった人の話


どれだけ印象的な出来事でも、記憶はだんだん薄れていくものだ。

その証拠にあれだけ好きだった人のことだって今は"思い出"にしてしまっているし、もう一生恋できないと思っていたはずなのに、いつしか私には夫が出来た。

このまま薄れ続けたらいつか忘れてしまうのかもしれない。今更あの人とどうこうなりたいと思わないし、なれるはずもない。だけどあの日、ハタチだった私の恋のお話を、何十年たった時も何となく忘れたくなくて、彼について覚えていることを書いておこうという気になった。

ある雨の日

ある雨の日、私たちは彼の部屋で勉強をしてた。

確か私は学校で出された宿題だった、"好きなもの"についての文章を書いていて、実家で飼っている犬のことを書いていたと思う。(つまらん文章だな)

正直彼が何の勉強をしていたまでは覚えていないけど、私たちはお互いにソファに座って、パソコンをたたいていた。たまに私は彼に質問をしながら文章を書き進めていると、外から雨音が聞こえ始めた。


その音に反応して、私は窓の外を見た。

やっぱり窓には水滴が流れてきていて、ああ嫌だなと思った。


「雨は、嫌い?」

外を見つめる私に、彼はそう言った。

「うん。」

雨が降ったら髪の毛もぼさぼさになるし、外に遊びにも行けない。私は何の気なしに聞かれた彼の質問に、「あたりまえでしょ」ってテンションでそう言った。


「それじゃ、僕が好きになるよ。」

「え?なんで?」


意味が分からなくて、思わず彼の顔を見た。でも彼は何の動揺もすることなく相変わらずパソコンで勉強を続けていた。

"Because you said you don't like."

セリフまでしっかり覚えてないけど、確か彼はそんなようなことを言った。その言葉をさらに疑問に感じて首をかしげていると、

彼は

"君が嫌いなものは、僕が代わりに好きになるよ。"

と言った。

英語でなんて言われたか全く思い出せないのが悔しいけれど、彼はそんなようなことを私に言った。


嫌いなものを、代わりに好きになってくれる。

なんて素敵な考え方なのだろうと思った。今まで生きてきてそんな思考回路に至ったことすらなくて、そんな風に物事が考えられるのが本当に素敵に思えてしょうがなかった。

「そっか」

反応の仕方が分からなくて、多分私はそんなことしか答えられなかったと思う。


私は彼に言った通り、雨はあまり好きとは言えないけど、雨音を聞くのは嫌いではない。特に一人でいる夜なんかは、外から何か音が聞こえると安心して眠りに落ちやすくなる。

彼に出会う前から雨音は嫌いではなかったけど、雨の日に何気なくあの会話をかわしたせいで、雨音を聞くとたまに彼のことを思い出す。きっと8年間で私の記憶は美化に美化を重ねて、彼の悪いところだって忘れてしまっているんだろうけど、もう会えないのなら記憶の中でくらいキレイに残っていてくれてよかったと思う。


書いていると、分かった。

やっぱりめちゃくちゃ好きだったんだなと。


当時もう立ち直れないってくらいすごく傷ついたせいで、あの頃聞いていた歌がまだうまく聞けない。

でも、ハタチっていう一番いい年齢で、一生忘れられないほどいい恋が出来て、本当に良かった。今思い返してみてもたくさんのことを学べた気がする。次彼に会ったら私が伝えなくてはいけないのは、もしかして「ありがとう」なのかもしれない。

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