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短編13.9 SNSウォーズ

― 天正10年(1582年) 六月一日 ―

「父上 時間帯によってエンゲージメントが変わると思うのですが…」

 編笠をつけて山道を歩く信長と信忠

「そのエンゲージメントってなんだ?」

「あ… すみません父上 アクションのことです」

「ふむふむ 時間なんて気にしてなかったな 適当じゃ」

「父上 今 1番強いワードって何ですか?」

「ああ 将棋の話し 戦国プラスお山の大将 クリスティーヌかな」

「… どれもよくわかりませんが 何か参加したコンテストとかありますか?」

「戦国プラスお山の大将」

「… どれくらいの応募数だったんですか?」

「三千くらい 1人最大3作品」

 信長のこたえに信忠が思考する

「大体…千五百人から二千人あたりですかね その2割… 三百~五百程度表示されて その内 よくて5%の十五~二十件くらいでしょうか?アクションは」

「んん? ちょっと待て 見てみる」

 信長がマイッターを確認する

「お前凄いな 正解」

「じゃあ“戦国プラスお山の大将”のワードで かつ記事は同じ内容の投稿で 4回 時間を分けて投稿してみましょうよ 朝11時 15時 20時 あとは朝方か夜中 父上は夜型なので夜中ですかね」

「ええ~ 同じこと4回とか必死すぎんだろ 恥ずかしくて無理じゃ」

「必死でいいじゃないですか 人は必死に生きるものです」

「信忠… お前大人になったな」

 信長への意見はみな命懸けである
 息子である信忠もその1人に変わりはない

「え… いや ハハハ」

 恥ずかしそうにする信忠



 木の上から黒い服を着た忍び

「半蔵か」

 信長の顔が真剣になる

「はい 堺の港はすぐそこでございます」

「わかっておる… 京に何か起きたか」

「ええ… 光秀が謀反を」

「そうか」

「こちらにも間者がくるでしょう 少々お急ぎを」

「火の手はどうじゃ」

「手筈通りに」

「すまんな 恩に着る」

「礼などおやめください殿 あたりまえのことです」

 半蔵 家康に仕える忍者である
 素性は明らかになっていない


― 天正10年(1582年) 六月二日 ―

「報告です!信長 本能寺にて自害!」

 光秀に信長の死が告げられる

「して 首は」

「申し訳ございません!焼け跡から見つけることは…」

「よい! 毛利勢に伝えよ!」

 (やはりと言うべきか そんな易々と首は取れぬか しかし… 秀吉殿の耳に入るのも時間の問題… なんとしても殿を見つけ首を取らねば… 秀吉殿が準備をして体制を整えるのに1月程度か… 時間がない)

 秀吉の四万の勢力に対して光秀は一万五千 勢力拡大には信長の首が必要であった

「これより安土城に向かう!」

「はっ!」



― 岡山 備中松山城 ―

 秀吉は中国征伐を信長より命を受けて六年

 信長の“溺れる”をヒントに官兵衛と画策した水攻めが功を奏し中国征伐もあと僅かとなっていた

 毛利側との和睦交渉の最中に“光秀の謀反 信長自害”の報告が入る


「! そうか… 間に合わなかったか… すまぬ光秀…」

 秀吉が肩を落とす
 意外にも秀吉から出た言葉は光秀に対するものであった

 秀吉は和睦を済ませて光秀も救おうと考えていた
 しかし 謀反が表立った今 もう意味をなさない

「明日には間者が参られましょう 恐らくは毛利勢に向けての間者でしょうが… 講和で準備を整えます」

 官兵衛が冷静に伝えた
 講和とは互いの合意のもと戦争をやめることである
 和睦とは違い手を結ぶことにはならない

「しかし参ったな 信さんは堺に向かってるとして… 光秀はどこに攻めいったのか 流石にそこは漏らさんだろう ここからは時間との勝負…」

 秀吉の声が震えている 弱音などらしくない

 秀吉と官兵衛の信長の生存前提の話しはあくまで想像の範囲でしかない
 信長の死が現実でも本来はおかしくないのである

 押し隠す不安を隠しきれていない

「殿… こちらは信長様からの手紙です」

 秀吉の心中を察した官兵衛が信長からの手紙を渡す

「! これは…」

「時がきたら渡せと…」

「そうか…」

 秀吉が恐る恐る手紙を読む

『敵は本能寺にあり! 駆け上がれ息子たちよ ワシは一足先に未来へ』

 秀吉が膝を落とす 溢れ出る涙
 全ては信長が用意した舞台

 信長が生きているという確信はするものの別れが現実となり死人からの手紙のような感覚が秀吉に突き刺さる

「…」

 信長の死は秀吉の家臣まで伝わっている
 隠すには大きすぎる出来事である
 当然士気が下がっている

 それは秀吉にとっても同じことである
 愛してやまない人と戦友を同時に失うのだから その心情は計りきれない

 崩れる秀吉の肩に手を置く官兵衛

「天下は目の前です 殿の声をみなが待っています…」

 官兵衛の声が震えている か細い声だ

 立ち上がる秀吉 静寂に包まれる
 皆が秀吉に顔を向けていた

「敵は本能寺にあり! これより京に向かう! 天下は目の前じゃ! まだ何も失っておらんぞ! 前をむけーーーーーーーーーーーーーい!」


 天まで届くであろうその声は圧巻であった
 それは自身に言った言葉でもあったろう

 歓声が鳴り響く
 下がった士気が天下の言葉とともに取り戻され空を駆ける



― 堺 ―

 ポツンと丸っこいおじさんが港で信長達を迎えている
 ニコニコの笑顔である

「…」

 信長がマイッターを更新した

『マジで康のやつ戦国の世とは思えんほど太ってんな クライマックスにこの姿はギャグにしかならん 興醒めじゃ』


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