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短編13.10 SNSウォーズ

― 天正10年(1582年) 六月三日 ―

「殿 織田家の者は全員準備が整いました」

 家康が信長に伝えた
 スペインの技術で建造されたガレオン船が堺の港に停泊している

「そうか… 残った者は康 頼んだぞ」

「お任せあれ殿」

 日本に残る織田家を任せられる家康

「それはそうと… この記事見てみい」

 信長が家康にスマホを見せる

「!」

 家康が連載している『ノブさん こっち』がスマホ上に表示されている

 青ざめる家康

 (このタイミングで…バレる? 秀吉殿か… 違うな…あまり得はない…)

「結構前から気づいておったわ たわけ」

 家康の思考を読んで信長が言った

「はひぃ…」

 返事ともとれない家康の声が発せられる
 顔が死んでいる

「この記事は実によい! はっはっはっは! 最後まで憎めんやつじゃな」

 顔が晴れる家康

「殿!また会えますでしょうか?」

「いつでも会おうぞ!」

 もう会えない 家康はわかっていた しかし信長のこたえに胸が熱くなる

「と…とのぉおおお!」

 家康が号泣する

「よせよせ 大の大人が…」

 信長の目にも涙が浮かぶ
 天下統一を目前に日本を去る信長

「康 猿を頼んだぞ アイツは根が優しいからの 多くの悩みを持つことだろう」

「もぢろんでござぃまふぅ」

 家康の涙が止まらない

 世界は大航海時代 信長が船を出す
 歳をとっても絶えない好奇心
 誰もが憧れた武将 信長

 信長の命により本能寺にて自害 没49歳と記録された
 そうでなくては光秀と秀吉の勝利が意味をなさなくなるからだ

「人間五十年! 行くぞ信忠! 帆を上げい!



― 安土城 ―

 光秀が安土城で頭を悩ます
 期待していた信長の姿は安土城にはなかった

 (果たして殿に私が告白しなかったとして… 恐らく変わりはないだろう 殿に暗殺の話しが出ているという密告を持ちかけた時点で すでに殿は私の謀反を見抜いていた…)

 光秀が座禅を組む

 (その上で護衛を私に任せ 自らの護衛を手薄にしてまで秀吉殿の援軍の指示を出した つまり策に嵌まったのは私… ということか 茶会の殿は… 半蔵か!)

「しかし 殿はどこに? すでに秀吉殿に討たれていた… いやしかし そんなはずはない 備中松山城の戦いは紛れもなく秀吉殿… つまりこれは信長様の計略 …人間五十年 ハハハ そういうことか」

 光秀が呟く そしてマイッターを更新した

『マイッタ~』



― 岡山 備中松山城 ―

「殿 間者が… 信長 自害と 討ち取ったのは光秀との…」

 官兵衛が秀吉に伝える

「ミッチーの計略だな わざわざこちらに漏れるように… これで俺が背を向ければ挟めるということか 講和は済んだか?」

「はい 信長様の首の所在について と伝えると すぐに」

「ミッチー… 真面目だなあ 首を取ったと言えば毛利側が講和など認めるはずなどなかったのに ミッチーっぽいな」

 昨日とはうってかわり秀吉の気が抜けている

「さあ 行くとするか」

 秀吉と官兵衛は水攻めの際に軍の食糧などは全て調達 すでに準備を終えていた

「どのあたりかな」

「これより10日前後 恐らく山崎の地で戦いになるかと」

「そうか」



 道中 秀吉がマイッターの話しを官兵衛に持ちかける

「そういや 官兵衛はマイッターのフォロワーどれくらいいんの?」

「私ですか? 私は百万ちょっとですね」

「!!!」

 秀吉が驚愕する

「あっ 全部筒抜けですよ 今 光秀殿は安土城でマイッター更新してたし 家康殿は堺でご飯食ってます 泣きながら」

「康さん… 呑気だなあ 殿はもう出たんだな」

「ええ 家康殿が呟いてました」

「はぁ… そりゃ敵わねえわな お前には」



― 信長出航 数時間前 ―

「殿 本当にいいのですか? 今からでも天下は獲れます それに光秀殿の暗殺 謀反も腹がたちませぬか?」

「でかい図体してお前はいつも真っ直ぐなやつじゃな」

「私だったら恩を仇で返すなど! 腹が立って仕方がありませぬ!」

 〈ぐぅ~〉家康の腹が鳴る

「はっはっはっは! 康らしいのお 良いも悪いもありはせぬ 腹が減る 人の感情なんてそんなもんじゃ」

 信長が天を仰ぐ そして力を込めて言った

「是非に及ばず!」

 信長が家康に最後に残した言葉だった



― 天正10年(1582年) 六月十三日 ―

 対峙する光秀と秀吉

 摂津国と山城国の境に位置する山崎の地

 信長が用意した舞台に堂々と両者が立つ
 どちらも笑っている

「さあ ここが天王山! 思う存分楽しもう!」

 秀吉が声を上げる

「敵は秀吉殿ただ1人!命を惜しむな!名こそ惜しめ!」

 光秀が叫ぶ


 これまで苦楽を共にした戦友同士が命を懸けて戦う これが戦国の世である

 この戦いに勝ったのは光秀でも秀吉でもない

 ただ1人 信長である



― 天正10年(1582年) 六月某日 ―

「おっ! 官兵衛のマイッター更新されたな」

 船の甲板で信長が欠伸をしている
 晴天 目の前には見渡す限りの地平線

「まあ そうだよな」

 天王山の結果を知る

『結果は信長様の計略通り 猿舞う 光秀散る』

 嬉しそうな顔に寂しさが混じる

「これでじきに平穏が訪れる…」

 信長の夢見た平穏

「父上! こんなに綺麗な世界があるんですね!」

 甲板から目を輝かせて海を見渡す信忠
 空を見上げて笑う信長

 信長がマイッターを更新した

『人間五十年 権力も財もいらぬ ただ生きていることが幸せであると思える日がくるだろう だから追い求めよ我が道を すれば平穏が訪れるだろう ノブより愛を込めて』


お わ り



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