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AI導入及びDX推進では、ROIを考えると負ける?その仕組み

コロナによる強制的なリモートワークへのシフトも手伝い、業務のデジタル化を中心としたDXは全ての企業で「取り組むべき課題」から「今すぐ解決するべき課題」へと優先度があがりました。

例えば、TeamsやZoomといったオンライン会議ツールや、それらを活用したオフィス出社がないリモートワークについて、今現在ROIを問う企業はいないでしょう。少し前までは、これらの導入についても「なぜ導入するのか、それによるROIは?」を問われました。

しかし、今はROIを飛び越えて「必要なもの」として認識されたため、導入運用における細かい事業性を問われることはありません。

AIとDX導入の意思決定でROIはどこまで考えるべきか

コロナ前からも、テクノロジードリブンで成長へ注力すべきというメッセージは多くの企業が発信してきました。市場景気がよかったタイミングでは、AI活用、DX推進、データ活用は「先端技術」として、即時に成果を出すテーマよりは「投資」の文脈で語られました。

コロナによる強制的なパラダイムシフトによりこれらが優先課題から即時課題へ変化し、AI活用を含んだDXが加速する点はポジティブな側面ですが、TeamsやZoomの事例ほど「当たり前に必要なもの」とは捉えられていません。

「AI導入・活用を進める方向だが、どう活用するのが効果的か」
「DXが課題であることは認識されているが、どうしたらいい?」
「推進する上でROIを説明しなくてはならないが、どう設計するべきか」

このような悩みは担当者から大変よく聞かれます。

AI導入やDX推進、データ活用が必要と言われ、実際に取り組み始めたはいいが、投資判断や投資効果(ROI)の設定や説明に悩んでしまう。適切なKPI設定ができずに進捗の可否を判断できない。

また、管掌役員側にも深い知見がないが故に「結局どうなるの?いくら儲かるの?」という目先の事業判断に終始し、「成果が出ていない」と判断されてしまい、プロジェクト推進に影が落ちるという事例は残念ながら枚挙に暇がありません。

事業投資を実行する以上は成果を求められるのは当然なのですが、ここに「ROIで考えると失敗する」に繋がる、「テクノロジーをどう捉えるか?」の根本的な問いが発生します。

「やったら儲かるもの」から「あって当然」のプラットフォームへの変化

ROIで考えるとプロジェクトが停滞してしまう大きな理由は、AIもDXもデータ分析も「やったら儲かるもの」から「導入していて当たり前」の技術・要素まで汎用化されつつあるから、です。

しかし、日本のデジタル化は先進各国に比べても遅れており、意識も実態も「当たり前」レベルに到達できずにギャップが生まれています。その結果、冒頭で触れたように「即時課題」となっても尚、「実行結果と投資効果」を過剰に求めてしまう構造が生まれます。

技術がコモディティ化していく以上、技術を活用して「何を事業とするか」が収益を生むために必要なドライバーとなりますが、導入・推進という入口部分においてROIを求められる構造では、明確な答えを打ち返せないことで導入・推進の意志決定が遅れ、より「当たり前」への参入が遅れ、より一層競争力が落ちていく……という悪循環が発生します。

AIやDX文脈でROIを求めるべきでない3つの理由

一度まとめます。

・AIやデータ分析も含め、ソフトウェア技術は汎用化が続く
・AIやDXを「やっている」というだけで儲けられる時期は終わった
・AIやDXは事業を持続する、より良いサービスを提供するためのプラットフォームとなりつつある

結果として、めまぐるしく変わるテクノロジー市場の変化スピードに対して、従来と同様の事業決定スピードとROIの算定という視点で考えるのが意味を成さなくなっています。

テクノロジー導入の意思決定に必要な2つの視点

構造的な問題と、現状のAI及びDXの位置づけは確認してきた通りですが、それらを踏まえてどうするか?について考えていきましょう(*もちろん、実際には会社や状況によって異なるため、個別具体的な解決策提示についてはぜひご相談ください)。

必要な視点は2つです。

1. 顧客バリューを最大化する事業価値、UXをベースに考える
2. プラットフォーム化している以上、導入は1日も早いほうがよいことを理解する

1.顧客バリューを最大化する事業価値、UXをベースに考える

AI導入もデータ活用も結局のところ、自社の顧客に対するバリューを最大化するためのツールに過ぎません。これは先から延べているように「導入、活用するだけで設けられる」フェーズが終わっている以上、「活用して何をするか?」が求められることに繋がります。

例えば、現在の自動車業界において、自動運転に取り組むことは「それで儲ける」ことを超えて「やらなければ生き残れない」というコモディティ化した技術投資と言えます。将来の自動車における顧客価値、及び自動車を活用して得る生活のUXそのものを変えるという価値にフォーカスして取り組んでいます。

自動車業界における「当たり前」がここまで引きあがっていることと同じようなことが、自社業界にもあるのではないか?その視点を深堀し、成すための活用方法の部品としてテクノロジーを活用していく視点を持つと、ROI以外の価値にフォーカスしたディスカッションができます。

2.テクノロジー導入は1日も早いほうがよいことを理解する

AIもDXもデータ分析も、日々進化しています。導入検討に時間をかけても、その技術も結果もどんどん変わっていく以上、検討の間に技術が陳腐化するという本末転倒な事態になりかねません。テクノロジーの進化が目覚ましい現在は「慎重さ」が命取りになります。

ROI観点で言えば、①先進技術>②汎用化>③陳腐化 のサイクルにおいていかに①~②の初期で手に入れるかが重要になります。

①はリスクも伴いますが当たれば実入りが大きい。②の初期~中期にかけては、ある一定の「みんなが導入している」ことでのナレッジの蓄積があるため、いかに自分の業界で早くやるか?が競争優位性を獲得することに繋がります。優位性を獲得できる時間が長ければ、結果としてROIは高くなります。

卵が先か鶏が先かの議論になりますが、それだけ「いかに早く技術を取り入れ、活用しながら自社及び自社の顧客に対するバリューを提供できるか」がテクノロジー投資における重要な観点になります。

この視点は、深津 貴之さんが書かれている『遅いデジタル投資は、コストだけがかかる』の中でも触れられています。遅いデジタル投資はコストがかかるが、デジタル投資をしなければ滅びるという現実をわかりやすく表現されています。

”「テクノロジー投資というのは、
「上位20%グループにいる状態のキープ」こそが本質かなあと思います。”

事業と事業提供先の顧客理解の解像度を上げよう

事業を提供する先の顧客や提供したことによる体験をどう設計するか?が、今後より求められて生きます。その中で、AI、DX、データ分析といった手法を用いて、より未来の事業の精度や解像度を上げていくというのが、現在のテクノロジーと事業の位置づけです。

繰り返しになりますが、「テクノロジー導入で儲ける」という視点をすて「事業で儲けるためにいかにテクノロジーを活用するか」を考え設計することで、AIやDXのROIではなく、それらを活用した事業のROIという正しい位置づけで考えることができるのではないでしょうか。

とはいえ、実際に上記の思想で活用していくためには、個別事業・単年のPLとは分けて考えられる枠組みをつくり、合意を取って横ぐし組織として推進する必要がありますが、この組織・仕組みについてはまた別途記事でご紹介していきます。

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