「ゴールデンカムイではなく ゴールデン亀井 前編」

気が向いたら「ゴールデンカムイ」や登場人物に似た言葉を探してみてください。
気にせず読んで楽しんでくれてもかまいません。



停電した。
せっかく作っていたオレの朝ごはん 
卵焼きが中途半端になって パンが中途半端になって コーヒーを飲むためのお湯がぬるくて
オレの朝ご 「オール電化 無理」
はあ ガスがあれば  オレは反対したのに 親が勝手に 
その親は朝6時には出て行って いまごろ電車に閉じ込められているかもしれない
端末を観ると、停電の情報は流れていない。
5分経っても誰も何も言わない。
どういうことだ? ああ だめだ もう時間だ 
端末の充電もできないまま
うなだれたオレは仕方なく朝食抜きで学校に行った。

教室に行くと窓際で白石が何やら食べている。
「お おはよう。杉本。」
白石の坊主頭に光が反射して 発電でもできそうだ
「おお いい匂いさせてるじゃないか」
「食う?」
「いいのか?ありがとう。助かる―。いや実はさ」
朝から自分の家と近くだけ停電したことを話すと 白石は二つもカレーパンをくれた。白石も陸上部の朝練があって いまようやく朝の分を食べているらしい
「ありがとな。」
「お粗末さま。」
おそま なんだっけ こないだ歴史の授業で出てきたアイヌの言葉だったよな
そうこうしているうちに担任がやってきた。
坊主頭の生徒が一緒に入ってくる。誰だろう。
「転校生のゴールデン亀井くんだ。」
顔面に傷はあるものの、凶悪な風体ではない。みんなが「ゴールデンだって」「あの傷なんだ」と囁いている。
ホームルームも終わったので、ゴールデン亀井を囲んで質問を浴びせようとしていた生徒たちは、オレも含めて肩透かしを食わされた。
奴はすぐに 職員室に行ってしまった。

ゴールデン亀井がノックをすると中から声が聞こえた。
「Golden come in」
亀井はドアをガラガラと開けながら 一番近くの席に座っている担任に言った。
「日本語わかりますから」
「そうか。亀井 前の高校で陸上をやっていて 県大会の上位だったそうじゃないか。うちでも陸上部に入るのか?」

「亀井になんの用だろ」
「担任が陸上部の顧問だからな。その件だろうね。亀井って全国に出てるんだよ。」
「そうなのか?」
「ああ 変わった名前だから憶えてる。」

昼休憩になると亀井の周りも少しは落ち着いたので、遠くの席にいた白石も近寄って行って話しかけている。
「陸上部に入ったんだってな。さすが脚立派だねえ」
いや ズボンで脚見えてないだろと心の中で突っ込むが、仲間意識が強いせいか 杉本はそんなことには構わずに一方的にしゃべっている。
「やっぱり陸上部は坊主だよな」

二人は400×4の1600mリレーでも 駅伝の練習でも息の合ったバトンパスとたすき渡しをしているらしい、と陸上部のマネジャーをしている上杉から聞いた。
「箱根駅伝を観に、平塚中継所まで行くんだろ」
「お前も行くか?」
「なんでオレが」
白石はふふーん わかってるぜーという顔でこちらを見てくる
なんなんだ?
「お前 どんな女の子が好みなんだ?」
どういうことだ?
「品がある人かな」
「品な」 
「なんだそれ。」
「上杉も行くんだよー」
「え」
虚を突かれて思わず声が出てしまった しまったぁぁぁぁ
「ふふーん ほらなー。実はさー 泊りがけで行くんだよー」
「ふーん そ そうなのか」 ええええ?なんでえええええ?

結局オレも行くことになった。
駅に着いたら、すでに全員集まっていた。
「あの電車に乗れたら平塚中継所のたすきに間に合うのか?」
「おお 急ごうぜ」
三人がプラットフォームに向かって走り出す。二人はさすがに速い。上杉もなぜマネジャーをしているんだと言うくらいに速い。今日は日差しが強くて暑い。一月だというのにオレは汗をかいた。選手たちにはもっと堪えるだろう。

オレたちは電車に間に合い、混雑の隙間からではあるが、運よくたすきリレーを視界に収めることができた。大東文化大学と青山学院大学がトップを争っている。両方とも伝統校だ。オレは青が好きなので青学を応援している。白石は紫色ならどこでもいいらしい。そう言えば、サッカーでも室蘭大谷や藤枝東が好きだと言っていた。上杉はとくに応援している学校はないらしい。亀井はアメリカ人留学生のいる山梨学院大学と駒澤大学が気になっているようだ。全大学のたすきリレーを観終えたオレたちには車も自転車もないし もちろん走って追いつけるようなものでもないので、あとは旅館のTVで箱根までのレースの行方を観ることになった。
旅館は南向きの高台にあって 風が心地いい。
「ここ」
「なかなか風情があるな」 
「古いとも言うな。」
「こら白石」
「俺は旅館初めてだ」
「そうなのか。亀井はホテル派か」
「母親がアメリカ人だと、ホテルが自然だ」
「ふーん そういうもんかねえ」

「貴沙希 よく来たな」
「うわ」
目の前にのっぺらぼうが立っていた。
いや違った。よく観ると凹凸のない顔に 日差しがほとんど正面から当たって そう見えていただけだった。平面顔の白石もほとんどのっぺらぼうになっている。後ろにいる亀井を振り返って観ると 顔にはっきり陰影が作られている。 
「おじさん ひさしぶり」
「夏休み以来だな」
「うん」
旅館は上杉のおじさんがやっていると言う。それで泊まることになったわけか。なるほど。
「それなら まあ いいだろう」
「なにが?」
「いや、別に」

「上杉って足速いんだな なんで選手やらないんだ?」
駅でのことを思い出して訊いてみたが、口に出してからハッとした。
あ 怪我したのか?訊かない方がよかったか
「脚を観られるのが嫌でレースに出たくないから。」
「え? あ そうなの へえ」
「ジャージってわけにもいかないし」
「ふうん」
「中学生の時には県大会で4位に入ったこともあるんだけどさ」
「へえ すごいね」
「最近はバレーボールもブルマじゃなくなったり、大会でも撮影禁止になったりしてきてるけどね。まだまだかな 生まれるのが10年早かった」
それだとオレと会わないからな 同じときに生まれてよかった

レースも観終えて遅い昼食をとっていると、給仕をしてくれているおじさんが笑顔で近づいてくる。
「明日 箱根に行くんだろう?」
「そうですけど」
「箱根の関所の近くには徳川埋蔵金があるっていう話だからな。高校生は好きだろそういうの。探してみたらどうだ?」


解題
ご「オール電化 無理」 ゴールデンカムイ
ゴールデン亀井 ゴールデンカムイ
Golden come in ゴールデンカムイ
足立派だねえ。 アシㇼパ
「品な」 ヒンナ
あの電車に乗れたら間に合うのか? レタラ

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