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「データマネジメント組織と役割期待」データマネジメント知識体系(DMBOK)第16章の解説

はじめに

この章はデータマネジメントを実効するための、データガバナンスを行うための体制はどのようにすべきかと書かれた章である。

組織構造という体制だけではなく、組織の文化や組織戦略にデータが果たす役割はどのように認識されているかといった事項まで含まれており、態勢と表現すべきかもしれない。

経験上、組織体制は理想像を定めて、構築していくことは必要であるが、理想像は組織の内情により柔軟に変更していくほうがよい。

DMBOKの各章の要約・解説

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データマネジメント知識体系(DMBOK)第16章「データマネジメント組織と役割期待」について

データマネージメント組織と役割期待とは

データマネジメント組織は実効と継続を考えて構築しないといけない。
そのためには現状の企業文化と組織の規範を把握し、それに適応させることが重要である。
データマネジメント組織が現状の文化と組織の規範に適応することなく体制を構築すると、時間の経過とともに維持することが難しくなる。
そのため、データマネジメント組織が急進的な変革をかして体制を整えるよりも、現状の組織を進化させることのほうが合理的である。

データマネジメント組織の構造

データマネジメント組織の構造として、オペレーティングモデルというフレームワークがある。オペレーティングモデルとは役割、責任、意思決定プロセスを明確にするためのフレームワークである。フレームワークの種類を説明する。

地方分権型オペレーティングモデル

データマネジメントの責任が事業分野ごとに存在している。
地方分権型オペレーティングモデルはこの形態を目指して存在しているのではなく、データマネジメントの必要性に気が付いた人が草の根運動から始まって実現するケースが多い。そのため、草の根運動を始めた事業部門やIT部門の担当者がデータマネジメントの役割を持っている。
このモデルでは企業全体で見た時のオーナーシップを発揮することが難しい。

地方分権型オペレーティングモデル図(DMBOKより)

ネットワーク型オペレーティングモデル

地方分権型オペレーティングモデルに対して、データマネジメントオフィスが追加され、RACIを明確に規則化したモデルである。
地方分権型オペレーティングモデルにRACIを追加することで、既存の組織に影響を与えずに責任体制を構築できる。

RACIとは
・Responsible(実行責任者)
・Accountable(結果責任者)
・Consulted(協業先)
・Informed(報告先)

ネットワーク型オペレーティングモデル図(DMBOKより)

中央集権型オペレーティングモデル

データマネジメント組織がデータマネジメントに関するすべてのオーナーになり実行する。データマネジメント組織はメタデータ管理、データ品質管理、マスタデータ管理、データアーキテクチャ、業務分析などを担当し、リーダーに報告する。
中央集権型オペレーティングモデルでは、データマネジメントの役割が事業部門やIT部門ではなく専門の組織に分離する。

中央集権型オペレーティングモデル図(DMBOKより)

ハイブリッド型オペレーティングモデル

ハイブリッド型オペレーティングモデルはその名前の通り、地方分権型オペレーティングモデルと中央集権型オペレーティングモデルの双方の利点を享受するモデルである。

中央集権型オペレーティングモデルのようにデータマネジメント組織を持つが、すべてのデータマネジメントを実効するわけではなく、全社的な取り組みが組織として重要な事項はデータマネジメント組織が行い、事業部門内で機動的な取り組みが必要な事項は事業部門が行う。

ハイブリッド型オペレーティングモデル図(DMBOKより)

連邦型オペレーティングモデル

連邦型オペレーティングモデルはハイブリッド型オペレーティングモデルの変形であり、集中化・分散化のレイヤーが追加されたモデルで、大規模なグローバル企業で必要となることが多い。

連邦型オペレーティングモデルでは一元化された戦略を分散実行する。
全社的な戦略として実施すべき事項はセンターオブエクセレンスが策定するが、実際の実行については事業部門のそれぞれのニーズと優先順位に基づいて対処する。

連邦型オペレーティングモデル図(DMBOKより)

事例としてZHDが連邦型オペレーティングモデルを構築しているのではないかと考えられる。
ZHDとヤフーが各々でデータガバナンス体制を公開しているので、それを基に解説すると、ZHDという統括組織が各事業会社と地域(国)に対してデータマネジメント組織を置き統率している。

事業会社であるヤフーにもデータマネジメント組織を設置して、会社単位でもデータマネジメントを進められるように統率している。

「グローバルなデータガバナンスに関する特別委員会」最終報告書受領および今後のグループガバナンス強化について
プラットフォームサービスに係る利用者情報の取扱いに関するワーキンググループ(第2回) ヤフー株式会社 提出資料より

データマネジメント組織(DMO:Data Management Organization)の役割

データマネジメント組織に必要な組織と役割を説明する。

チーフデータオフィサー(CDO)

CDOはデータマネジメント全体の代表者としての役割を持ち、データマネジメント組織はCDOと一緒に設置される。

CDOが果たすべき義務は以下である。全てCDO本人が実行するの必要はなく、オペレーティングモデルによってはデータマネジメント組織が実行してもよい。

  • 組織としてのデータ戦略を確立する

  • データを中心とした要件を活用可能なITや人材と調整する

  • データガバナンス標準、ポリシー、手順を確立する

  • データ利活用の取り組みに対するアドバイスを業務側に提供する

  • データマネジメントの重要性を広める

  • データプライバシーの保護を行う

データプライバシーオフィサー(DPO)

DPOはデータプライバシー全体の代表者としての役割を持ち、データプライバシー組織はDPOと一緒に設置される。

データプライバシーはGDPRや個人情報保護法に準拠は当然として、ビジネスを実現しお客様のプライバシーをどう守るのかというバランスを考える必要がある。

DPOが果たすべき義務は以下である。全てDPO本人が実行するの必要はなく、法務やセキュリティ組織と協業して推進していく。

  • 組織としてのデータプライバシー戦略を確立する

  • GDPR、個人情報保護法を中心とした要件をまとめる

  • データプライバシー標準、ポリシー、手順を確立する

  • データプライバシーの取り組みに対するアドバイスを業務側に提供する

  • データプライバシーの重要性を広める

  • データプライバシーの保護を行う

データガバナンス機関

データガバナンスデータ機関はデータマネージメントを実効するための機関であり、データマネジメント組織と対になって存在する。

データマネジメント組織がデータマネジメントの成功のために行動する組織で、データガバナンス機関はデータマネジメント組織が正しく進んでいるのかを監督する組織である。

データ品質グループ

データマネジメント組織の重要な機能であり、地方分権型オペレーティングモデルの企業はデータ品質の向上のためにデータマネジメント組織を設置することが多い。

当初は目先のデータ品質向上が目的とされるが、よりデータ品質向上させるための取り組みとして、マスターデータ、参照データ、メタデータなどの管理に拡大する。

エンタープライズ・アーキテクチャ・グループ

ビジョンの実現のために必要な戦略を策定するグループの事を意味し、エンタープライズ・アーキテクチャにおける分野は以下である。

  • テクノロジーアーキテクチャ

  • アプリケーションアプリケーション

  • インフォメーションアーキテクチャ

  • ビジネスアーキテクチャ

データマネジメント組織を構築するための流れ

データマネジメント組織を構築する手順は以下1~7である。
ポイントは現状の組織をベースに進化させ、データマネジメントがビジネスにいかに好影響を与えているのかをスポンサーにフィードバックして、進化しながら変革に導くことである。

  1. 現状データマネジメント組織の特定

  2. 組織に最適なモデルの特定

  3. 戦略の立案、実行計画の策定

  4. スポンサーの獲得

  5. ステークホルダーとのコミュニケーションと役割の明示

  6. 組織構築の実行

  7. 導入状況の評価

ここからは1~7の手順ごとにどのように進めていけばよいのかを解説する。

1.現状データマネジメント組織の特定

データマネジメント組織の設計でまず行うべきことは現状のオペレーティングモデルの特定と、最適なオペレーティングモデルの特定を行う事である。
オペレーティングモデルとは役割、責任、意思決定プロセスを明確にするためのフレームワークである。

まずは、現状を評価して出発点を決める。これまでデータマネジメントを意識されていない組織であれば、地方分権型オペレーティングモデルであることが多い。

2.組織に最適なモデルの特定

現在の組織構造をオペレーティングモデルに結びつける。

ほとんどの組織は地方分権型オペレーティングモデルから始まり、データマネージメントのビジネス的な効果に気が付くと、ネットワーク型オペレーティングモデルに進化する。

スケールメリットが認知させると、役割と人が組織化されグループになり、最終的にハイブリッド型オペレーティングモデルや連邦型オペレーティングモデルに姿を変える。

組織の複雑さ、事業領域の複雑さ、スケーラビリティを考慮して、組織に最適なモデルを特定する。

3.戦略の立案、実行計画の策定

データマネジメント組織を構築するためには、データマネージメントの実効のためにはデータマネジメント組織が必要であり、組織に対してどのような影響があり、なぜ重要かというビジョンを描く必要がある。

そして、ビジョンの実現のためにはどのように進めれば実現にたどり着けるかという戦略を立案し、具体的な行動である実行計画を策定する。

4.スポンサーの獲得

ビジョン、戦略、実行計画を明確にして、幹部からの支援を受けられるようにする。

データマネジメント組織を成功に導くキーファクターは幹部に適切な支援者がいるかどうかで決まる。幹部レベルの支援者は取り組みを理解し実行者を信頼すべきである。幹部は変革を支える他のリーダーを効果的に巻き込まなければならない。

5.ステークホルダーとのコミュニケーションと役割の明示

データマネジメントデータ組織の間構築は、既存組織を巻き込み進化させていく必要がある。既存組織のリーダーとデータマネジメント・プログラムの必要性を合意し、ビジョンの共有を行う。
データマネジメントの関係部門のリーダーが同じ価値観を持ちビジョンの実現の協力体制を築く必要がある。

そのためには、ステークホルダーとのコミュニケーション手段を確立し、オープンかつ頻繁にコミュニケーションを行い、ステークホルダーがデータマネジメントを自分事として取り組むように意識付いている必要がある。

6.組織構築の実行

現状がスタート地点である地方分権型オペレーティングモデルであるとき、「1」で特定したデータマネジメント参画者のリストを作成し、進化のために必要な役割を既存の担当者に割り当てる。

既存の担当者に新しい役割を割り当てるためには対価を検討する必要がある。具体的には肩書、役割、報酬、業績目標といったものであり人事部門と共同して検討する必要がある。

役割を組織内の適切なレベルの適切な人々に割り当てれば、意思決定に関与したときにその決定権限に信頼性を確保できる。

役割を割り当てた担当者には全社横断なデータマネジメント組織への参画を依頼する。

7.導入状況の評価

「6」で行った構築は一時的にやって終わりではなく、ビジョンの達成に向けた進捗状況を評価する必要がある。

データマネジメントが業務プロセス、プロジェクト、リスク、ビジネス変革にどのように影響を与えているのかを評価する。

評価した後は、次のステップに向けて組織の進化を行い、ビジョンの実現のためへの活動を継続的に行う。

このように組織の進化を続け、最終的にはハイブリッド型オペレーティングモデルか連邦型オペレーティングモデルへとたどり着く。

おわりに

自分の知識をまとめるためと今後誰かがデータマネジメントをやってみたいと思った時のきっかけとなるためにnoteを書くことにしました。

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DMBOKを技術者目線で読み解いた内容になっているので、実践的データ基盤への処方箋と同様データ技術に係る人におすすめする。


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