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小神野真弘『SLUM 世界のスラム街探訪』感想

※2022年9月執筆。

この著者も、以前裏社会ジャーニーにも出演しており名前を知った。
タイトルのまま、世界中のスラム街を旅した写真集で、写真のほとんどに著者の(ややナイーブなきらいのある)短い文章が添えられている。写真はどれもすごく良かった。撮るのうまいなあ、と思ったら東京藝大卒の人だった。

ペルーのスラムで、かつて強盗で生計を立てていた青年にうっかり(過ぎる)著者が将来の夢を尋ねてしまった時の返答が、貧困というものを物語っている。

ガキの頃の夢は、車を盗むこと、あとクレジットカードを盗んで暗証番号を聞き出すことだった。今はとくにない。

彼は強盗をする際、その恐怖を紛らわせるために大麻やコカインなどのドラッグを使用していたらしい。
働いているとどうしても、会社員なんてクソ、こんな仕事やりたくない、と思ってしまうが、自分は何の恨みも無い誰かに暴力を振るわなくても、ゴミ山を漁らなくても、日銭を稼ぐことが出来る。こんな事を言い出したらキリが無いし、会社勤めとてつらいものはつらいのだけど。
一方で、そんな"恵まれた環境"ですら耐え難く、ストレスや不安を紛らわせる為に精神病院で処方された薬を服薬しているというのは皮肉である。

世界のスラムを知るにつれ、日本にスラムは存在しないなと思う。西成などのドヤ街が一応スラムと呼ばれているが、世界のスラムと比べたら「ちょっと治安の悪い街」くらいだ。建物の外観や貧困度合い、生活インフラの普及率、街としての規模なども大きく異なるが、ドヤ街には、そこで家族と生活して労働している幼い子供が居ないという点は、大きな違いのように思う。
1980〜90年代に最盛期を迎えた西成・あいりん地区は、そのまま住民たちの高齢化が進み、現在は福祉の街へと変化しつつある。これから更に30年、40年経つ頃には、どのような街に変貌しているのだろう。日雇い労働者も居なくなり、ドヤで引きこもる生活保護受給者だけの荒涼とした街になるのだろうか。

いつも話が脱線する。本著では、単に「風景」としてスラム街を撮影しているのでは無く、そこで生活する人々の日常を切り取ろうとする姿勢に好感を持った。スラムと聞くと、荒廃し、暴力に塗れ、枯れ果てた白黒の街というイメージが湧くが、ここに載っている写真は真逆である。人間の生命力に溢れ、絶えず営みが生まれるカラフルな街。
欲を言えば、旅をする中で体験した事、スラム街の人々と交わした会話の内容をもう少し詳しく書いてあったら良かった。逆に言えば、それくらい貴重な内容の写真集だった。

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