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セーシェル旅行記①

こんにちは、朝飯昼飯ダルメシです。
今回は全く知らないセーシェルという国に頭の中で飛んでみました。

4月1日
 長期休みが取れるというのに、どこか憂鬱だった。社会人になって10年目。どうにかこうにか頑張ってきたものの、彼女にも振られ、仕事は常に忙しく、休みというのに遠出する気も起きなかった。そんな自分がいま、セーシェルの空港に一人降り立っている。ふと見つけた旅行代理店のパッケージツアーが光って見えた、ただそれだけの理由で。
 セーシェルの空港(ばたばたしており名前は分からなかった)は、とてもこじんまりした空港で、所々塗装がはげ落ちて、そのそのままの姿が、が自分には心地よかった。イミグレーションで目的を聞かれたので、観光と答えた。誰もが外国に入るときは目的を伝える、その目的を果たすかどうかは重要じゃない、自分がどんな気持ちをもって入国するか。その意思を、彼は確かめたかっただけなのだろう。荷物がぐるぐる回っている、自分の荷物はどこで何をしているのか、ふと気づけば目が回り、救護室のなかで倒れていた。

4月2日
目を開けて、今を理解しようとする。すこし黄みがかったシーツの上で、私はあおむけに寝ていた。天井の格子は作りが甘く、所々欠けていた。部屋の広さは6畳くらいだろうか、そこまで広くもなく狭くもなく、自分が社会人になりたてとの時に住んでいた寮がもっとも近い表現だろうか。10分くらいぼうっとしていただろうか。ガタガタと建付けの悪いドアが開き、一人の女性が入ってきた。
「荷物、ぐるぐる、目、ぐるぐる、ばたん」
つたない日本語で、その女性は私の今の現状を的確に説明した。
私は「セーシェル」と答えて、女性が持ってきたパンを受け取り、噛り付いた。女性は優しいほほえみを浮かべて、2度うなづくと近くの椅子に腰を下ろした。私は彼女が見ている前で食事をとりたくなかったが、お腹がだいぶすいていたのだろう、一心不乱にパンを食べ終えて、ふうと一息をつくと女性に視線を移した。
「名前なんていうんだい?」伝わるか伝わらないか分からぬまま問うた。
「なまえ、なに、なまえ」
女性は名前という概念が分からない様で、私は落胆するとともに、この感情こそが彼女の名前であり、彼女の本来の姿であると感じた。
「君の名前は、ラクタン。ラクタン、are you ok?」
彼女は少し驚いたように、
「ラクタン。ラクタン。」と繰り返し、自分の名前を受け入れた。
私は立ち上がろうとすると、ラクタンは駆け寄り、
「もう少し、回復に、時間かかる。待て、明日朝まで。」と話すと、建付けの悪いドアをこじあけ、帰って行った。
せっかくの休みだが、体調不良は仕方ない。私は明日ラクタンにオレンジジュースを持ってきてもらおうと決意すると、また深い眠りについた。

4月3日
朝起きるとラクタンがお茶を沸かして持ってきてくれた。私はオレンジジュースはないかと聞いたが、ラクタンは理解しているのか理解していないのかも分からないような妙な表情を浮かべ、そのまま地面に座り込んでしまった。床と膝が一体化していくようにみえた。いや、それは丸で元々一つの大きな年度から人間が形作られていく途中経過を店らられている様な異様で、生暖かい情景が僕の網膜をねっとりと包んだ。そうか、自分はお茶を飲めばよかったんだ、気づいたときにはもう遅かった。

4月10日
セーシェル出発の日となった。日本行の飛行機を待つ間、自分はセーシェルン観光を1日も出来なかったのだと振り返っても、不思議と悔いはなかった。ラクタンはあの日以来地面と一体化して、職員による懸命な切り離しが行われても二度と離れることは無かった。私は床に座り込むラクタンに、そっとオレンジジュースをかけた。ラクタンは一瞬何が起きたのか分からずびくっとしてこちらをみると、ぶつぶつと死ね等とつぶやきながら視線を地面に落とした。私はゆっくりとオレンジジュースを背中と服の間にそそぐと、本気で嫌がるラクタンを時々長い定規で制しながら、自分は濡れないようにある程度の段階でつま先立ちで部屋を去った。
飛行機への長い廊下を歩いているとき、ふと外を見るとセーシェルの大自然の序章の様な、燦燦と輝く太陽がにやりと笑っている様に見えた。ラクタンが床から離れなくなってしまったのはオレンジジュースのせいだとしても、私には私が出来る事をしなければならないのだと、すごくこの次に歩みだしやすい感情が生まれ、私はセーシェルを後にした。






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