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恋愛禁止のアイドルは夢の国のミッキーだ。

アイドルの恋愛の話をすると、偶像がどうのこうのみたいな難しい言葉が出てくる。もしくは擬似恋愛と言ってスパッと片づける人も多い。しかし、それらよりもっとわかりやすく伝わる例えがタイトルにもある通り、「夢の国のミッキー」だと思っている。

夢の国のミッキーは実は人間が着ぐるみを着ている。本当のミッキーではない。(本当のミッキーとはなんだろうかという話は置いておこう)

人間が着ぐるみを着て、ミッキーになりきって動いているということを夢の国に行く人のほとんどは知っている。子供は別だ。子供は本気でミッキーだと思ってるから嬉しいだろう。

だが貴方たちだ。貴方は知っている。ただの人間だということを。ではなぜあんなに大はしゃぎしているんだ?「ミッキーだーー!!!」じゃないだろう。人が入ってるだけだろ。しかもどんな人が入ってるかも分かんないのによくあんなにはしゃげるよね。

ってハタから見れば思う。しかしあそこは夢の国だ。夢の中なのだ。あの場所では思考回路が変わる。人が入っているということを知りながら、「人が入っている」という概念そのものを頭から抜き落としている。そしてミッキーという特別な存在なのだと自分に思い込ませて楽しんでいる。そういうコンテンツなのだ。

みんなよく言うでしょ?「着ぐるみ?何のこと?」みたいなくだり、よくしてるでしょ?あれは別に深い意味はなくて、ただそうやって楽しむものだからやってるんだ。「着ぐるみじゃん!」っていう人がいたら、「いやいやそういうんじゃないんだよなぁ」ってなる。そう信じれば信じるだけあの着ぐるみの価値が上がる

で、この感覚がアイドルにも言えるのではないかという話だ。よく聞くフレーズをお借りしよう。「アイドルだって普通の女の子」だ。そこは揺るがない。正しい。メンバー全員と仲が良いわけがないし、トイレにも行くし恋もする。

しかし、アイドルという肩書きを名乗った以上、求められるのは普通の女の子とは違うものだ。ミッキーであることを求められる。では中に閉じ込めているものは一体なんだろう?単純に「恋愛」なのだろうか?

ここを考えるにはもう一つしなければいけない話がある。それは、アイドルの恋愛禁止の本質は恋愛なのかということだ。まずはこちらをご覧いただきたい。

①規則を破ったからダメ。
②交際していたらダメ。
③男の匂いがすればダメ。

①はそのアイドルが契約上、規則として恋愛禁止があり、それを破ったからアウトなのかという話だ。これが正しければ、規則がなければ恋愛してても何も問題ないということになる。果たして本当にそうだろうか。

恋愛禁止だとはっきり公言していないアイドルは割といると思う。ただ、普通に恋人いますとか言ってるアイドルを見たことはない。というかそういう人たちはおそらくアイドルと呼ばれない。アイドルという区画から排除されるとともに、アイドルという肩書きの価値が守られる。そういう風にできている。

規則として恋愛禁止がなくて、いわゆるお咎めがなかったとしても、アイドルという存在としてダメージを受けるのは確実である。従って①が理由ではない。


②交際しているかどうか。これは③男の匂いの話とほぼ同じ話だ。恋愛感情があって交際していることがアウトなのか。付き合ってませんといえばセーフか?もしくは「ただの男友達です」ならセーフか?この辺の線引きがややこしくなる原因だ。

結果を言えば、ただの男友達であっても街で2人で歩いてるとこを撮られればそれは「恋愛スキャンダル」となる。証明ができないというのもあるが、本質はそこではない。好きでも好きじゃなくても、付き合っていてもいなくても、友達でも友達じゃなくても関係ない。男の匂いがすればアウト。アイドルという存在としてダメージを受ける。

なぜ?

ここで夢の国のミッキーとようやく繋がるのだ。

恋愛に繋がりうる全ての可能性=異性とのリアルな絡みや関係性という概念が抜け落ちている。そうした生々しい要素が何もない、水入らずの非現実的な夢の世界にいるのがアイドルの本質的な価値なのだ。普通じゃない。普通じゃないことを求めている。でも、だからこそ価値があるのだろう?その着ぐるみを脱いだ時点で「普通の女の子」に戻ってしまう。夢は覚める。これがアイドルの恋愛がタブーな理由なのだと思う。

必死に頑張っている姿を見て、応援する。それだけなら恋愛してるかなんて関係ないとは思える。ただ、恋愛、友達、学校、休日…という要素が消えていくほど、本活動に対してのコミット具合が強大であることを強調できるというのも事実である。アイドルは中学生〜20代前半の時期にその生活の大半をアイドル活動に捧げるということになる。これは「高校3年間友達も恋人もゲームも遊びも何もかも我慢してひたすら受験勉強を頑張った結果大学合格したんだ!」みたいな人を讃えたくなる感覚と近いのだと思うが、そういった他を切り捨てて普通ではあり得ない状況下で取り組んでいる特別な状態だからこそ、その姿勢に感銘を受けるのだ。


さて、少し話を変えよう。貴方はミッキーの中身がおじさんだったら嫌か?お姉さんだったら安心か?

私はどちらもダメだと答える。語弊があるな。そもそも中身がどんな人なのか考えさせられること自体がタブーなのだ。「人が入っている」という概念を抜き落として楽しんでいる人間に、その概念を思い出させてしまっている。だからどちらであってもダメなのだ。

この話をしようと思ったのは度々アイドルが言っているからだ。「私、今まで付き合ったこととかなくて〜」って。加入前であっても「付き合ったことあります」が印象悪いということは分かっているだろう。しかし、「付き合ったことがない」が好印象になるかと言われれば私はグレーだと思う。ようするに「中身はお姉さんです」って言っているように、中にいる人間を連想させてしまうからその時点でミッキーとしてはアウトだ。


長々と綴ってしまったが、アイドルファンとそうではない俯瞰民で繰り広げられる地獄のようなやりとりは大抵この説明で納得がいくのではないか。

「マジか…〇〇は大丈夫だと思ってたのに…裏切られた。推すのやめるわ」

これはミッキーに抱きついている状態で突如顔面取られて萎えている夢の中の民。

「恋愛しただけでそんなに騒ぐのか?お前ら本気で付き合いたいとでも思ってんの?無理に決まってるだろw」

これは着ぐるみなんだから当たり前だろ何言ってんだの民。


以上から


恋愛スキャンダルは

ミッキーの着ぐるみをぶち壊す絶望であるとともに

その中にいる普通の女の子のごく普通の出来事なのだ。

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