短編集【タイトル:安らげる場所】


僕は夢を見ている。
草原に寝転びながら空を見上げていた。
木は風で大きく揺れ草原もそれに合わせるように揺れている。
空を見ながら僕は泣いていた。
なぜ泣いているのかわからなかった。
感情が込み上げてくる。
辛いことや苦しいことがあったわけでもない。
「どうして・・・」
僕は口に出してつぶやいた。
この感情はなんだろう。
喜怒哀楽にはないこの感情。
言葉では表せない感情。
「多分・・・心が限界なんだろうな・・・」
僕はそう思った。
いつもいつも仕事に追われて
家に帰ればいつも1人で夕食を食べる。
今住んでる近くには友人もいないし、
ストレスを発散する場所もない。
いつも1人で抱えて相談する人もいない。
そして心は限界を迎えていた。
どこか安らげる場所に行きたいと思っていた。
草原の下で寝転んで青空を見ながら
ゆっくり流れる時間と一緒に心を預けたい。
そんなことをいつも思っていた。

僕は夢を見ている。
これは現実ではない。
目を覚ますと辛い現実に戻される・・・。
そしてこの光景を忘れてしまうだろう。

僕は目を覚ました。
なんの夢を見ていたかわからないけど
なぜか泣いていた。
そんなんに怖い夢でも見ていたかな・・・。
僕はベッドから身体を起こし、洗面所に向かった。


いつも通り国道が混んでいる
見渡せば見慣れた風景が広がっている
ハンドルを握りながら仕事のことを整理してみる
考えるのも嫌になって音楽に耳を傾ける

「草原に寝転んで空でも見上げていたいな。」
僕は1人車の中でつぶやいた。

僕は心に限界が来て有給休暇を2日ほどもらい
どこに向かうか決めずに車を走らせた。
山を越え、街を越え、美味しいものを好きなだけ食べ、
最後に海が見える丘にたどり着いた。
そこはなぜか懐かしさが残っていた。
「いい眺めだな・・・」
そこは草原が広がっていて、木が一本ぽつんと立っていて、
水平線が見えるところだった。
ここは僕が求めていた場所かもしれないと思い、
寝転んだ。
僕は目から涙が溢れ出していた。
辛いこと、苦しいこと全て浄化してくれるような感覚になった。
海の音、風の音、木の音、草原の音
全てが僕を包んでいた。
温かく僕を抱きしめていた。
僕は遠いところにいる友人たちに連絡しようと思った。
友人に相談なんて恥ずかしいし心配かけないようにしようと思っていたけど
もうそれは終わりにしよう。
自分に正直でいよう。
恥なんてクソ喰らえ。
僕は自分自身を見つめ直した。

「あのさ・・・久しぶり・・・」
僕はスマホを片手に恐る恐る泣くのを我慢しながら連絡をした。
安らげる場所で勇気をもらいながら・・・・。

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