フリー小説【タイトル:月夜のたゆたう】

「満月になったらまた会いましょう」
君は月夜の光が照らした下で寂しそうに言った。
僕は頷くことしかできなかった。
君の手が離れる。
「また会えるよね?」
僕は問うと
「きっと会えるわ」
君は夜の闇に消えていった。

君と出会ったのもこんなキレイな満月の時だった。
水面(みなも)が風で揺れて月の光が漂う。
君は岸辺に立って月を眺めていた。
月明かりが照らす君はとても妖艶に見えた。
水辺の方に歩いて行かないか不安になり僕は話しかけたのがきっかけだった。
僕と君は社会に溶け込めず傷ついていることで共感し慰め合いをしながら心を開いていった。
出会ってからたわいのない会話をした。
好きなアーティスト、
好きな食べ物、
好きな映画、アニメ、ドラマ
好きな本、
いろんな話をした。
最近、面白かったはなしとか、辛かった話とか、愚痴とか。
話しても話しても尽きないほどずっと話した。

今月も満月の日になった。
君と出会うのは満月の日だけと決まっていた。
約束事だった。

今日こそ告白するんだと思っているのに踏み出せないでいる。
君といると心が揺蕩う。
水面(みなも)が揺蕩うように。
臆病な自分で嫌いになりそうだ。

君は最初にあったように岸辺のところで月を眺めていた。
どこか寂しそうだった。
「ねぇ、今日で会うのやめましょう」
僕は頭が真っ白になった。今、なんて言った?あれ?
「えっ?」
「これ以上私と一緒にいたらだめだわ。あなたがダメになる。だから・・・」
「嫌だ!!!」
僕はどこから声が出たのかってくらい大きな声になった。
「君が好きなのに・・・・。会えなくなるのは嫌だ。嫌だ・・・」
君は寂しそうな顔をして
「知っているよ。でもダメなの。私の事、好きで居てくれるのは嬉しいんだけどね」
君は少し間を開けた。
「私ね。死んでいるの。この世にいないの。ごめんね」
「えっ?」
僕は言葉を失った。
「ごめんね。あなたとしゃべってみたかったの。悪さをしようとは思っていなかった大丈夫だよ。どこかあなたはこの世界から消えてしまいそうだったから。生きる灯(ともしび)が消えそうだったから。引き留めたかったの。もう大丈夫みたいね」
思い返すように楽しそうに話す。僕はかすれた声で
「死んでいる?でも・・・君に触れた。手を握ってたじゃないか」
「そうね。幽霊は触れるみたいよ」
「嘘だ。嘘だ。君が死んでいるなんて。僕は信じないぞ。信じたくない。もし信じたらもう君は居なくなってしまいそうだから。だから・・・だから・・・」
「ごめんね」
君は小さい声で謝った。
「謝ってほしいんじゃない。僕は・・・僕は・・・君が好きなんだ」
「その気持ちは嬉しいよ。でも・・・」
僕はそれ以上なにも言えなかった。
「私を好きになってくれてありがとうね。これでやっと成仏できる。君は生きてね。私の分まで」
そう言って君はまぶしい光に包まれ消えてしまった。
僕は膝から崩れ落ちた。
月まで届くほどの大きな声で泣き叫んだ。

満月を見ると君を思い出す。
もう会うことができない君を。
触れ合うことができない君の事を。
今でも心の中にずっと生きている。
「好きだよ」
そう僕は呟いた。

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