見出し画像

地域とアートをどう繋げるか

現代アートと田舎の農村・漁村、全くかけ離れているように見えていた二つの要素が、実は密接に関係し合うことで、世界のどこにもない新しい風景や物事が生まれてきています。地域を舞台に生み出されるアートは、土地の歴史や記憶、人々の想いが滲み出てきます。作品の向こうに映る風景そのものさえも作品になり得るのです。今回は、地域とアートの関連性についてご紹介します。

地域とアートが注目されはじめた背景

近年、過疎化が進んだ新潟の越後妻有、瀬戸内の島々が、外国人のアートファンや富裕層から注目を集めています。どちらの土地も、昔ながらの農業や漁業の生活を残しつつ、日本の里山・里海の原風景を残しながらも、過疎や高齢化に悩まされていた土地です。これ等の場所が注目され始めたきっかけは、三年に一度開催される国際的な芸術祭が行われるようになったからでした。
※参考1

芸術というと、美術館やギャラリーの白い無機質な空間に展示される絵画や彫刻を思い浮かべるかもしれません。しかし、実際の様子は違っています。国内外の現代アーティストが、作品の制作のためにその土地に滞在し、土地に根ざした文化や風土をリサーチし、土地の人々を巻き込んで、古民家や廃校、農村地帯など屋外をも舞台にアートを制作していきます。作品も、空間全体を使って観客が包み込まれるように体験する作品や、サウンドや映像など最先端のテクノロジーを活用するもの、地域で拾った廃材や土を活用した巨大な作品など様々です。
※参考2

建築家の石上純也はHOKUTO ART PROGRAMで巨大な氷の建造物を創り出しそれを数時間かけて燃やして廃墟にしてしまうことで、その場に居合わせた人々に長い年月の感覚、時空を一瞬で超えてしまうような体験を生み出しました。


アーティストは自身が生まれ育ったそれぞれの国や文化的背景など多様なバックグラウンドから、独自の表現で、土地の歴史や、記憶、かつてそこに住んでいた人々の想いがにじみ出るようなコンセプトの作品をつくり出します。

「地域創生」という言葉が謳われていますが、それはどこかの土地で行われた成功モデルをそのまま当てはめることでも、有名ブランドの商業施設やホテルを建設することでは決してありません。大切なのは、外からきた旅人やアーティストのような視点で、その土地の人々があたりまえだと思っている土地の魅力や独自性を再発見する装置や出来事を生み出すことです。

他者であるアーティストと地域の住民との対話や丁寧なリサーチは、今は見えなくなってしまった土地の歴史や過去の記憶を呼び起こし、アーティストたちが「芸術」を媒介にして「いま、ここ」にある場の力を、気づかせるヒントになります。そして、新たにその土地を訪れる人と昔からそこに住む人々との間に対話が生まれ続けることで、気づきは持続していくのです。

コロナ禍を経て変化した地域とアートの関係性

コロナ禍を経て、人々の移動の制約、観光公害、環境破壊、ワークスタイルや人々の生活行動に変化が重なり地域とアートの関係性は変化してきています。これまでは大規模な芸術祭をアクセスのそれほど良くない地方で数年に一度開催し、一度に多くの観光客を集めるやり方が主流となっていましたが、都市部や郊外の有休施設である商店街や工業地帯、日常のちょっとした行動エリアにこそにアートが介入すべきではないでしょうか。

より私たちの生活エリアに近い日常的なエリアとも言える都市部や工場、生活エリアのすぐ近くにある寺院や神社。これまでアーティストが存在しなかった場所にアーティストが介入しアトリエを作ったりレジデンスを持ち、そこに訪れる一般の人々や働く人々とコミュニケーションすることで、新たな人の流れや出会いを生み出し、新しい価値をつくり出すきっかけになるのです。

DARTで実施している「萬福寺アーティストインレジデンス」も2023年1月までに16名の現代アーティスト・キュレーターが禅寺に滞在し、訪れる人々や僧侶と交流をしながら精力的に制作活動を行ないました。

●萬福寺アーティストインレジデンス香福廊
https://www.instagram.com/koufukuro_manpukuji/

アーティストが日常に存在する。地域とアートの関係性

過疎地の「地域創生」からスタートした地域とアートの結びつきは、日本全国にある郊外の都市部や有休施設が点在するようになってしまった商店街や工業地帯、寺院や神社など今後、さまざまな日常的な場所に広がる可能性を秘めています。アーティストが、これまでいなかったような場所に多様な表現活動を行うアーティストらが集まり、実際に生活や制作活動を行い、これまでアートに出会うことのなかった人々に新しい発見をもたらし、10年後、50年後、100年後に、世界のどこにもない記憶を人々に刻み、新しい過去と歴史を紡いでいく存在になっていくのではないでしょうか。

墨屋 宏明(DART CEO兼エグゼクティブディレクター)
1995年−2016年 野村総合研究所で流通・情報通信の分野でITソリューションの企画・開発、コンサルティングに従事。 経済学者、科学者、社会学者、アーティストら多様な先駆者が登壇する「NRI未来創発フォーラム」を企画。同社在籍中に、横浜トリエンナーレ2001・2005にボランティアとして参加、アートが生まれる場づくりに興味を持ち、2005年横浜旧財務局ビル”ZAIM”を拠点とするハッチアートを主宰し国内外の次世代アーティストらの展覧会を企画・プロデユース。 鎌倉のルートカルチャー 、BOAT PEOPLE Associationなど都市・地域とアートをつなぐ活動を実践。2016年より、国内最大級のアートフェア「アートフェア東京」の マーケティング&コミュニケーションズ 統括ディレクター。文化庁とともに”日本のアート産業に関する市場調査”レポートを発信。
2021年よりDART 代表取締役、デジタル技術とリアルの場を繋げてアートの価値を創出、「アートと共に生きる」社会を目指している。

取材・執筆/ DART編集部