2011上京日記① - 優しい先生 -
大学1年生になった。
2ヶ月前に起こった東日本大震災で、東京はよく分からなくなっていた。もともとカオスな街だったはずだけど、さらによく分からない状態だった。
そんな街に札幌から上京した私は、東京にずっと憧れていた。
テレビが大好きで、音楽番組、ドラマはたくさん見ていた。だから東京に住むということが誇らしかったし、すごい人になれるかもしれないと思った。
最初の授業のことをよく覚えている。
初登校の日になった。最寄りの駅には着いたが電車の方向も分からず、知らないおじさんに聞いた。
いつもなら、知らない人になんて声をかけられない。でもこの時は行かなければという気持ちでいっぱいだった。
大学の近くの駅にどうにかして着いたが、キャンパスが分からない。焦って姉に電話した。
姉も同じ大学に通っていたので道順を教えてもらい、なんとかキャンパスの方向に向かった。間違った道を引き返していると、大量に流れてくる新入生の冷たい目線が怖かった。
初めての授業は韓国語だった。
最初の印象は怖そうな先生だと思った。あまり笑わずに、業務連絡を淡々と話している。初日から宿題が出されていたのに、メールを見ていなくて知らなかった。先生からメールが届くシステムだということすら知らなかった。
授業が終わった後、おそるおそる先生に謝った。
「先生、宿題を忘れてきてしまいました。」
すると先生はこう言った。
「ああ、大丈夫。ただ、家に帰って確認して、やってくればいいだけのことですから。何も心配することはありません。
…大丈夫よ。」
先生はにこやかにそう話してくれた。
驚くほど緊張した顔だったのかもしれない。表情のことなんか何も考えられず、ただ恥ずかしさと恐怖心でいっぱいだった。
怖いと思っていた先生は、とても優しかった。
そのとき、心が軽くなったことを覚えている。ほかのことはあまり思い出せないけど、このときの気持ちは一生忘れないと思う。
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