見出し画像

落下する夢

無作為に選び出された自分と同じくらいの大きさのデッサン人形のようなものが何者かにより与えられ、高層ビルの屋上からその人形と一緒に布団にくるまった状態で頭から飛び降りた。その布団はこれまでに感じたあらゆるぬくもりが綿になって詰められている。布団が体全体を包んでいるので落下している間何も景色は見えない。耐え難い恐怖や一瞬だってよぎって欲しくなかった後悔の念に絶望しながら、一人ぼっちで布団越しの風圧を受け止める。いつのまにか人形はいなくなっていた。

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

「もうそろそろかーーーーーーーーーーーーーーーー」

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

――死ぬ!!そう思ったところで目が覚めた。冷や汗でぐしょぐしょだ。まばたきを忘れて天井を見つめたまま、しばらくピクリとも動けずにいた。隣の住人が窓をゆっくりと開ける音や新聞配達のバイクの音が聞こえてくると、心做しか安堵して呼吸の仕方を思い出すことができた。時計を見ると朝の5時半を回ったところで、眠りに入ってからまだ2時間ほどしか経っていなかった。
睡眠も浅すぎるし、こんな絵に描いたような悪夢をまた見てしまう可能性があるというだけでもう二度と寝たくないんですけどマジで〜と思った。
しかし「殺される夢」なんかは恐ろしい反面、吉夢であるという話もあるし、そういう逆のパターンかもしれないぞと思い、Googleで「落下する夢」で検索し、夢占いのサイトを見てみると「運気の低下」と出てきた。そのまんまのパターンかよ。

そんな風に悪夢で嬲らなくたって、自分の精神状態があまりよくない事くらいちゃんとわかっているからやめてよ脳。やっとの思いで体を起こしても、パチ……パチ……と線香花火の最後の方みたいなエネルギーしか出てこない。
昨日作った野菜スープを冷蔵庫から取り出して、昨日野菜スープを作ってくれた自分に感謝しながら温め直す。行儀など御構い無しに食事をしながらスマホを見ると、かれこれ3年は音信不通だった友人から連絡が来ていた。

彼とは同い年で、昔はよく深夜のファミレスでとりとめのない話をしたりポケモンバトルをしたりして遊んだ。ある日掃除を手伝うために彼の部屋に遊びに行くと、大量の使い捨てライターと清涼菓子の山があり、これは一体どういうことなのかと聞くと、家にある物を持っていくのを忘れて出先で買うことを繰り返した結果だと言っていた。「今ここにあるやつ全部消費するまで新しい物は買っちゃだめ!」と約束をしたことを覚えているが、その後一体どうなったのだろう。彼は連絡が途絶えていたこの数年ずっと不調だったみたいで、少し元気を取り戻したから連絡をしてくれたみたいだった。
ぽつぽつとお互いの近況報告をしていると、なんと驚くことに同じ町の目と鼻の先に住んでいた。嘘のような偶然にワクワクしながら、早速来週会う約束をした。何が「運気の低下」だよ。もう会えないと思っていた友人と会えて、しかも同じ町に住んでるだなんて、これ以上に幸運なことはないじゃないか!

最後まで読んでくれてありがとうございます。もしよろしければサポートよろしくお願いいたします。大変励みになります。