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午後九時のいくじなし


この数時間私がやっていることといえば、空いた喫茶店の窓際の席で、ガラスの向こうに植えてある観葉植物を這っている蟻を眺めているだけだ。枝から葉へ、葉から枝へと移動している。見失う度にため息をついて、もうとっくに冷めてしまったぬるいコーヒーをちびっと一口飲んではまた別の蟻を探し、目で追うのを意味もなく繰り返している。一度見失ってしまった同じ蟻かもしれないが、そんなことはどっちだっていい。

吐露したいことがたくさんあるはずなのに、言葉にならない。言葉にならなくては私から外へ出ることができないというのに。
私から外へ出れずに淀んでいる何か。濁っていく何か。私は言葉以外で自分の気持ちを表現する方法を知らない。歌えたらよかった。踊れたらよかった。描けたらよかった。すぐにないものねだりをする悪い癖。無いものばかりだから、強請ってばかりの人生だ。

生きていることがずっと恥ずかしい。惨めな気持ちが完全に消えることはない。どう考えても心に魔物が住み着いている。たくさんの呪いがかかっていて、いつも同じことで苦しめられている。その呪いを解けるのは、この世で自分だけだ。だから選ばれし勇者として色んな方法を試してみたけれど、その度にただ無力を実感するだけで、長い年月が経ってしまった。

どうしてずっと動いているはずなのに同じところにいるのだろう。自分では動いていると思っているだけで、実は動いていないのだろうか。はたまた、同じとことにいると思っているだけで、実は前に進んでいるのだろうか。せめて後者であることを願いたい。

もし、全てを諦めてしまったら、一体どこまで堕ちてしまうのだろう。
もし、そこが本来私の還るべき場所なのだとしたら、私はこの世に未練なんてない。

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