チャリンコ

どうせ俺はチャリンコしか持ってねえ
新車のボルボに乗ってあの子は太陽に融けてった
花屋の前を通りかかる
いつかあの子にあげた一輪のバラ
あいつなら100本用意するんだろうな
1本と100本は何が違うんだろう
そんなに違うのかな
俺にとってはあの一輪がお前に捧げる全てだったよ
あんなに喜んでくれたのに
もう思い出したくないよ
お前の笑顔を奪った奴に
チャリンコで追いつけるわけもないしな
酒屋で一番安い酒を買って
記憶を追い出そうとする
ぼけた写真しか残ってないのに
頭ん中は一眼レフで撮ったかのような
鮮明なお前が蘇る
人生負け組の俺の傍に
束の間でもいてくれただけで満足しなきゃいけないのに
失いたくねえよ
一緒にすすったカップ焼きそば
旨かったよなあ
たとえ今頃夜景の美しいレストランで
美酒に酔っていようとも
俺は貧乏で金もない
お前にやれるものなんか何もなかった
それでもいいと言ってくれた
せんべい布団でお前を抱いて
囁いてくれた愛してるがやがて幻と消えることを
分かってたけど認めたくはなかった
俺の後ろにお前を乗せて
きゃあきゃあ叫びながら俺にしがみついてたお前は
もうどこにもいないんだな
ボルボの乗り心地は良かったかい
いっそ追いかければよかったのかな
ボロのチャリンコで全速力で
行かないでくれと叫べばよかったのかな
安酒は頭痛を連れてくる
気が付いたら立ち上がるのもやっとのくらい泥酔してた
でも振り払えない
柔らかな呪いに苛まれて
俺はせんべい布団に寝転ぶ
お前の匂いなんかもう消えちまったのに
なあ全速力で追いかけてたら
俺の元に帰ってきてくれたのかい

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