その引っ越しは絶望

39年間暮らした家と土地を
売却することになった
私はこの街しか知らない
私はこのうちしか知らない
籠の鳥のようだと思われるかもしれないが
精神を病んだ私にとっては
籠の中で守られているほうが得策だった
引っ越し先は夫の実家
義母の住む狭苦しいアパートに
居候の身となる
肩身が狭い
他人が怖い
私は生まれた時から3階建ての
完全にプライバシーの確保された
ゆとりのある空間しか知らない
義母と夫と私の3人で
1DKのアパートにひしめくことになるのを想像しただけで
冗談じゃなく発狂してしまいそうだ
不安しかない
恐怖しかない
私は帰る家すら失って
肉親の加護も失って
ひとり他人の中に放り込まれるのだ
義母は悪い人ではないけれど
何やら熱心にとある宗教に入れ込んでいて
神も仏もあるものかと唾を吐く私とは
相容れないことは明白だ
気が重い
心が壊死していくようだ
この引っ越しには希望の欠片もない
肉親が作った広い鳥籠から
他人が作った狭い鳥籠へ移るだけ
人生に幸せなんて期待してはいなかったけれど
このままいけば自殺するのは時間の問題だろう
一縷の望みすら抱けなかった人生に
ただただ幕を下ろす時を待つだけの日々がやって来る
絶望の引っ越しまであと3日
さよなら
生まれ育った家
さよなら
慣れ親しんだ街
さよなら
どこかで幸せなんかを期待してしまった私

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