赤い女

どんなに煙草を嗜んでも
真っ赤なルージュの色が褪せることはない
内側から湧いて出てるみたいだ
ありうるかもな君ならば
カットの深いドレスから覗く足は雪のように白く
踵の高いピンヒールを履いても僕の背に届かないことが
唯一僕に君を守る資格を与えてるように感じる
大人しく守られてるような女じゃないことは重々承知の上だけど
君が入ってゆくと店の空気が一瞬にして変わる
ドライマティーニ、オリーブは3つ
かしこまりましたと礼をするバーテンダーの
速まる鼓動が聞こえてくるようだ
演奏の途中だったバンドは慌てて幕を引いて
君の為の舞台を整え始める
幾度となく受けて来たスカウトを全部蹴って
君が歌うのはこの場所でだけだから
君目当ての正直気持ちの悪い追っかけも少なくない
その低い声で響くシャンソンには
何度聴いても鳥肌が立つ
瞬きをせず挑発的な視線を客席に投げながら
君は容赦なく他人の生命力を奪って
より一層美しく輝き出す
嵐のようなアンコールには見抜きもせず
僕の元へ帰ってくる君の踵の音が
あまりにも誇らしくて身震いする
君を振り向かせようとする男は星の数ほどいる
様々に豪華なプレゼントや高級車の助手席やダイヤモンドで
でもそんなものになびかない君を僕は知っている
だから何の心配もしていない
あなたのこと気に入ってるわ
君がくれた賛辞を一生胸の中に仕舞っておこう
いつまでも傍にいられるような女じゃないから
永遠をマティーニに溶かし込んで飲み干してしまう様な女だから
でもそれは出会った時から覚悟していたことだ
悲しむのはよそう今を楽しもう
ガラスの靴で月に帰ってしまう日まで
君が僕の女の子でいてくれたら
幸せの上をゆく幸せだ
真っ赤なルージュに見惚れていると
何?とその大きな目で問い掛けられた
言ってはいけないんだけどなあ
言いたいなあ
伝えたいなあ
でも君のような女には最も似合わない言葉だよな
そんなに綺麗に煙草を吸う人は初めて見るなって思って
それが僕の言いたいことの代わり
君を愛してるよの代わり

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