初声

あなたのことですから
散々言われてきたことでしょう
私には分不相応な
上等で上質な男
数知れない告白を撥ね退けて
ここまで残っていてくれていたのは
私なんかを選ぶためじゃなかったって
そこまで思い上がってはおりません
どうして一緒にいてくれるの
怖くて聞けないその一言
もっと自分に自信があったら
甘い声が出せたのかな
いつまで一緒にいてもらえますか
もっと怖くて聞けない問いを
見透かしたようにキスをくれる
今までもそうやって
たくさん愛してきたのでしょう
私の知るわけもない誰かを
知るべきではない誰かを
モテたことなんかない私には
モテるという感覚が分からない
それでも一人一人を大切にして
使い捨てになんかしなかった
あなたの記憶の気配は読み取れる
たくさんの愛の言葉に触れてきたから
そんな優しい笑顔ができるのでしょう
でもあなたはまだ知らないことがある
伝えていないことがある
私の声
世界でたったひとつの私の声
あなたが浴びてきた美しい恋の思い出には
埋もれてしまうかもしれないけど
聞いてもらえますか
この声で伝えます
この声で伝えたいのです
私の声帯から転げ落ちるそれを
必ず拾ってくださいね
まだ誰にも言ったことがない
まだ誰にも使ったことはない
私の声で聞いてください
あなたを愛しています

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