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テノンサイダー 【インスタントフィクション #08】

 まただ。また、『欲しい』と思ってしまった。
一度、思ってしまうと、その欲求を抑えつけることができなくなる。望むものを手に入れられるなら、私はどんな手も使ってしまう。いや、私じゃない。ナニカだ。私が隙を見せた瞬間を見計らって、すかさず私の中のナニカが手を伸ばすのだ。
 私にはナニカを飼い慣らすことができない。
『あなたが欲しい』
 その欲求は、メントスのような小さな粒だった。けれど、私の深いコーラの闇は、その一粒で、一瞬にして膨れ上がってしまった。私はナニカが出てこないように、両手できつく喉元を締め付けた。
 息ができない。苦しい。痛い。
 ほんの少し、手を緩めてできた隙間に活路を見出して、ナニカが溢れ出す。理性のキャップが弾け飛ぶ。
『あなたが欲しい…喉から手が出るほど欲しい』
 私の喉の奥から伸びた、ナニカの手。

『あなたの子どもが欲しい』
 その手が、彼の股間を弄って、もう二度と勃つことのない性器に、射精を促していた。

(了)

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